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【アートのミカタ30】シャガール Marc Chagall

【概要】100年前のアバンギャルド

絵画にイラスト、舞台デザインに陶芸、タペストリー、版画、ステンドグラス。さらには絵本まで。ジャンル問わずに活躍したロシア出身の画家。

さらにアウトプットが多彩なだけでなく、影響を受けたスタイル(インプット)も多彩です。
キュビズムにフォービズム、表現主義、シュルレアリズム…。
様々な前衛芸術に触発され、独自解釈から展開していたシャガールの作品は、どれも独創的でまさにアバンギャルドと言えるのではないでしょうか。

時代的にはエコール・ド・パリ(パリ派)*1)と呼ばれ、このような奇抜(古典的でない)な作品は度々見かけることとなったようです。

記念すべき(?)第30回目はこの、今からおよそ100年前に活躍した前衛芸術家、シャガールについてお話していこうと思います。

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1915年『誕生日』婚約時代の思い出として書き残している作品。愛妻ベラはシャガール作品に度々登場する人物です。
なぜ美的センスを磨くのか。科学の発展に伴い、心を作る芸術的思考もより広く知ってもらいたい。このブログは、歴史上の偉大な画家たちをテーマに、少しでも多くの人にアート思考を築くきっかけにならないかと書いています。まずはそれぞれの画家の特徴を左脳で理解し苦手意識を払拭するのがこのブログの目標です。その後展示等でその画家に触れる前の下準備として御活用下さい。私たちの味方となり、見方を変える彼らの創造性を共有します。


*1)エコール・ド・パリ
20世紀初頭(1904-29年)のフランス・パリは芸術の中心地として特に活気立っていたそうです。多くの外国人がパリにやってきて絵を書きました。
しかしその作風は元々いたパリ出身の画家が描くものとはかなり違ったため、差別化を図るために「パリ派」と名称づけられたようです。
今回ご紹介するシャガールも、元々いたフランス風?(印象派のような感じ、またはもっと古典主義的な作風)とは全く違った味を出していることがお分かりかと思います。

【背景】ユダヤだからと迫害された過去

シャガール本人はとても陽気な性格だったようで、おしゃべり大好きおじさん・お花や紅茶も好き・サーカス大好き(サーカスがテーマの作品も多い)なタイプなのですが、歴史背景を見ると「ユダヤ人」であることは外せないかなと思ったので、この項で特筆しました。

なぜならこの時代、丁度第一次世界大戦です。
ナチスドイツによるユダヤ人の迫害を受け、40歳くらいになるとフランスと脱出しアメリカへ亡命したりしています。40歳と言えば画家からすると結構油ののったいい時期です。そんな折、シャガールは世界情勢の影響で活躍の場を失ったり(*2)同胞の悲劇を描いた作品も残しています。

*2)ドイツによるユダヤ人迫害
1933-45年のドイツを「ナチス・ドイツ」と呼称していましたが、この頃にシャガールの作品は「退廃芸術」と蔑まれることとなります。焼かれた作品も少なくなかったようです。シャガールの作品も、幸福に満ち溢れた夫婦を描いていた1920年代とは異なり、不幸の陰りが見えてくるのです。
シャガールが「戦争」をテーマにした作品は、この1930-40年代くらいに集約しています。
ちなみにピカソのゲルニカも、元はと言えばナチスドイツの非道な攻撃によるものでしたね。戦争と作品は、本当に大きく関わっているのだと思います。
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1943『戦争』
同胞よ 君には涙はない
雲も 星も もうわたしたちを導かない
われらがモーゼ 彼は死んだ 彼は沈む(以下略)
シャガールは詩とセットの作品をいくつも残しています。

【核心】実は愛妻家で詩人に愛された陽気なおじちゃん

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何故「戦争」やら「ユダヤ」の話をしたかと言えば、こうゆう陽気な話をしたかったらという節もありました。

シャガールの一番いい時期に戦争や、あと妻の死もあったためか、脂ののった時に悲しい題材が多いんです。なのでシャガールの全体像をみた時に、この時期のイメージを残したままにして置くと、全部怖く見えてしまうかもしれないと感じています。

確かに全体的に色使いが強烈ですし、題材も宗教的背景があったりとして、わかりやすく楽しいという画面ではありませんが。

しかしこの悲しい過去をスッキリまとめておけば、あとは彼の「陽気さ」や「面白み」が純粋に楽しめる作品になるかと思うのです。

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1911『私も村』
おじいさんの牛小屋には、お腹の大きな牡牛がいる。(中略)「さあ、お聞き。足を出して。縛らなくちゃ。商品が、肉が必要なんだよ。わかるかね」(中略)皮は聖なるもののように乾いて、優しい祈りとなり、殺害者たちの贖罪を天に祈った。(『我が回想』より)

シャガールの作品は、画家ではなく詩人たちだったそうです。
彼の著書『わが回想』には、作品毎に説明書きや詩的表現がいくつものっています。結構ロマンチストだったのかな?

色使いや画風は、キュビズムやフォービズムなどから影響を受けていますが、そのどこにも所属するものでなく、シャガール独自の芸術性を求めているようです。

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晩年になると筆の跡が残るタッチで描くようになりますが、あの不運な時代がもたらした新しさなのでしょうか。
でもシャガールの文献を漁っても、晩年もずっと楽しそうなおじさんで不思議な人です。永遠の20才だーと70過ぎてもそんな感じで。

冒頭で書いた「アヴァンギャルド」な作風は、どんな環境も上手く自分のものにするパワーからきているのかもしれません。

ここまで読んでくださってありがとうございます。画家一人一人に焦点を当てると、環境や時代の中で見つけた生き方や姿勢を知ることができます。現代の私たちにヒントを与えてくれる画家も多くいます。また次回、頑張って書くのでお楽しみに。

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