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広告の力を信じる。覚悟を持って伊豆下田と向き合う、東急エージェンシー長谷川 光さん


場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方(LivingAnywhere)をともに実践することを目的としたコミュニティ「LivingAnywhere Commons」。

今回、拠点のひとつであるLivingAnywhere Commons伊豆下田で、新たにLivingAnywhere Commonsのメンバーになった「東急エージェンシー」の長谷川さんにインタビューさせていただきました。


下田市の観光について悩む中、LivingAnywhere Commonsのコンセプトに強く共感

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ー東急エージェンシーの主な事業内容と長谷川さんの役回りについてお教えいただけますか

東急エージェンシーは、東急電鉄を親会社にした総合広告会社です。

当社は東急グループの一社ではありますが約8割が一般のクライアントで、私の部署は残り2割にあたる東急グループ内の仕事を請け負っています。特にここ数年は「100年に1度の渋谷の再開発」というのが、東急グループの大きなテーマになっていますね。

あわせて地方創生というところで、地域の観光ブランディングをしたり、地域ビジネスを活性化するような双方にメリットがあるものを生み出そうとしたり、そんなことをやっています。

ーLivingAnywhere Commonsのことはどのタイミングでお知りになったのでしょうか

LivingAnywhere Commonsの取り組みについては、東日本大震災の復興支援の一環としてKIRIN(キリン)さんが実施していた「地域トレセン」(地域創生トレーニングセンタープロジェクト)の中で初めて知りました。私はアドバイザーのような形で参加させてもらっていたんですが、そこにLIFULL(ライフル)さんも参加されていたんです。

その中でLivingAnywhere Commonsのコンセプトについてうかがう機会があり、それがとても面白かったんですよ。

僕はちょうど下田市における新しい観光について悩んでいて、空き家や遊休施設を使って新しい人たちが交流できる場所ができたら素敵だなと思っていたんです。そしたら、まさにLivingAnywhere Commonsがそれを下田でやる計画だというじゃありませんか。「じゃあ一緒にやりましょう!」とそこから話は早かったですね。

LivingAnywhere Commonsを活用して「積極的な滞在」を実現し、下田を「ワーケーションのメッカ」に


ー下田での具体的な取り組みについて教えていただけますか

下田の観光は夏特化型の地域で、極端に言うと夏の1ヶ月半で1年分を稼いで、あとはユルユルと…という感じなんですね。昔はそれでも大丈夫だったんですが、今はいろんな意味でそれが難しくなってきている。ビジネスモデルを変えていく必要があるのですが、少子高齢化でそもそも担い手がいないんですよ。

そこで目をつけたのが、「ワーケーション」です。

ワーケーションはこれまでの働き方を改革し、新しいライフスタイルを作っていく取り組みです。これなら、新しい観光客層を獲得できるため既存の観光事業者の方からも理解が得られやすいですし、双方にメリットがあると判断しました。

下田は訪れようと思ったとき、外国よりは遠くないし、かといってパッと行ける場所でもない。ほどよい非日常を感じながら通える場所であることから「ワーケーションのメッカ」にしよう、というのを観光戦略に立てたんです。

ーワーケーションの実現に向けて、LivingAnywhere Commonsの拠点をどう活かしていこうと考えていますか

まずはここを、下田での私の活動拠点にすることにしました。ここなら宿泊や打ち合わせだけでなく、地元の人や市外の人との新しい出会いが生み出せると思うからです。この場所を良い意味での「企みの場所」にしていきたいと考えています。

また企業としてはテレワーク・デイズ(国が2017年より始めている、場所や時間にとらわれない多様な働き方を推進する取り組み)に取り組んでいるのですが、広告業界はその辺りにまだ対応できてない部分が多いです。

なかなか意識改革が追いつかない中で、こういう具体的な場所があれば、地元の人との交わりの中で地域貢献などができるチャンスも出てきます。うまくいけば自分たちのビジネスに活かせるようなアイデアが生まれたり、そういう人と繋がれたりする機会も期待できると思うんです。

なので会社としてはこの場所をうまく使って、ただの休みではない「積極的な滞在」をしてもらえればと考えています。

震災後に決まった下田への出向。自分が理想とする広告に近づくターニングポイントに

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ー長谷川さんは東急エージェンシーの社員で、地元の人でもないのにかなり下田市と深く関わっていますよね。それはなぜですか?

僕は学生の頃、下田の白浜によく遊びに来ていたんですね。

砂浜が真っ白でまるで外国のようでしたし、そのたくさんの人で溢れる下田は「夏の海水浴の王様」みたいなイメージでした。

それが大人になって改めて仕事で下田を訪れてみると、海水浴のパワーはだいぶ下がってきてしまっているし、夏以外のシーズンは寂れた感じが強い。
学生の時にはわからなかったんですけど、下田は歴史ある港町で街並みが素敵だし、それと一緒に豊かな自然も楽しめる。こういう場所はそうそう他には無いよなと感じるようになりました。

ー仕事で下田を訪れたというのは、出張か何かですか?

僕は2012年、震災の後に一度、東急電鉄の方に出向したんです。

震災の影響で伊豆を訪れるお客さんがガクッと減ってしまい、「このまま伊豆がダメになると、東急電鉄のグループ会社である伊豆急行の経営にも大きな影響が出てしまう」ということから、東急電鉄が伊豆を活性化させるプロジェクトを立ち上げることになりました。

それで、PR・プロモーション・ブランディングができる人間が必要になり、東急エージェンシーから僕が行くことになったんですね。それが下田をはじめ伊豆と深く関わるようになったきっかけです。

ーそこでの取り組みはどうでしたか?

広告とは「商品(ブランド)を理解し、どう育てていくか」までを考えていくことです。商品を地域に置き換えても、広告の力はやっぱり使えるなと感じましたね。

ただ同時に、ビジネスのマッチングとしては成り立たないだろうな、とも感じていました。

つまり、自分は事業主体である東急電鉄という会社にいるから広告のスキルを最大限に活かせるけれども、広告会社にいたら、そもそも地域の広告案件は「採算が合わない」という理由で業務として取り組むことが難しくなってしまうはずだからです。

ロスを無くし、価格を抑えることで、本当に広告を必要としている人たちのところへ届けたい

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ー広告はやはりお金がかかるものなのでしょうか

少しだけ広告業界の話をしますと、広告の1番の醍醐味はAE(Account Exective)になることなんですね。

これはいわゆるクライアントにとって一番重要な広告会社になることで、つまり「うちのブランドをあなたに預けますよ」と言ってもらうのと同じことなんです。

でも、そのような価値あるAEという仕事においてもジレンマはあります。
東京では1つのAE案件を取るために、大手の広告会社が5社くらい集まります。1チームあたり20人くらいの構成なので100人規模になるわけです。

そしてそれぞれが100時間とか200時間かけて企画してクライアントに提案するのですが、結果的には1社以外は全て不採用になるんですよ。つまり仮に20人のチームがそれぞれ100時間を使ったとすると、実に2,000時間がムダになるわけです。

しかもそのチームに入っている人たちは本当に優秀な人たちが多いんですよ。その人たちの100時間200時間がただ消えていってしまう。そういうことが日々行われているんです。

ー……それはツライですね。

確かにその過程を経て良いものが生まれているのかもしれないけれど、そのロスに見合うだけの価値が本当にあるのでしょうか。その時間をもっと他の誰かを幸せにするために使えないのか、そんなことをいつしか考えるようになりました。

僕はこれまで良い時で、広告案件を取るためのコンペでだいたい6割くらい勝ってたんですね。でも、6割勝ったとしても4割はムダになっているわけじゃないですか。

つまりそのムダになった4割分も稼がなきゃいけないわけですよ。だから必要以上に広告費が高くなるんです。

これが「良い企画を出せば、ほぼ100%通る」ということであれば、もっと広告費を抑えることができますよね。

そうなればムダがなくなり、価格を抑えて本当に広告を求めている人たちのところに届けることができるじゃないですか。

だからそういう契約の仕方はできないものかと色々と検討していて、それで下田市とそれに近い形で契約を結ぶことができたんです。

大規模な開発はいらない。今あるものを活かして「下田を楽しむ人」を増やす

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ーこれから下田で実現していこうと考えていることは何ですか

まずはこの下田において、きれいな海と魅力的な港町の文化、そういうものがだんだん維持できなくなってきているという事実があります。

少子高齢化が進んでいて、集落よっては7割近くが70代というところがけっこう多いんです。すると、皆でゴミ拾いをして海をきれいに維持したり、お店を続けていったりすることが難しくなってきます。そしてそうなると、下田の強みである海も汚れていく、街もシャッター街になっていく、港町の良さが消えていってしまうんです。

ーしかし、少子高齢化が原因のものを防ぐことは可能なのでしょうか?

実は鎌倉に叔母が住んでいるんですが、鎌倉という街は昔よりもとても良くなってきているんですね。それは「海がそばにあって街がある」という、鎌倉を楽しんでいる人がどんどん増えているからなんです。

朝散歩したり、夕方いい風が吹いたらみんなバーっとウィンドサーフィンをやったりだとか。それをするために鎌倉でオフィスを開いたりする人もいっぱいいるくらい、みんなが海のある生活をすごく楽しんでいるんですよ。

そうするとそれに対する環境整備がなされていって、それがさらに素敵な人を呼んでいくという、とてもいい循環ができていくんですね。

僕は下田について、今がギリギリのところだと思っています。

いきなり移住とは言わずとも、下田という街に魅力を感じてもらって少しずつ訪れる人が増えてくれるような、そういう取り組みを今やらないと、下田の価値は維持できません。

まずは外からやってきた人との交流をしっかりとやっていって、次の世代にちゃんと価値をつなぐこと。大規模な開発はいらないんです。

下田にはすでにきれいな海や港町などの良い素材があるのですから、それを活かす環境づくりが大事なんです。

そして僕は何よりも、この下田という街で楽しんでいる人を増やしたいんです。下田を楽しむ人たちが増えてくれば、きっとこの街や海を維持できるはず、僕はそう思っています。

伊豆下田の良さを守るために、覚悟のアンカーを下ろす。人との出会いが生まれるLivingAnywhere Commons


1つの地域を守ろうとするのであれば、その土地に深く根ざしていること、そしてその土地を愛していることが必要です。長谷川さんはいわゆる「よそ者」にもかかわらず、下田市の職員を掛け持ちで担い、下田に拠点ももって活動しています。

そして、それは下田への愛無しにはできないことでしょう。

地域の取り組みは、地元の人たちの理解や協力無しには進められません。しかし、それを進めていくのは並大抵の大変さではないと思います。インタビュー後に長谷川さんのことをよく知る方とお話をしていたところ、やはり地域の方との折衝などで長谷川さんは本当に大変な思いをしながら取り組まれているとのことでした。

覚悟のアンカー(錨)を下ろす。どんな荒波が来ようとも、その場所を守ると決める。

まだ薄暗い海に漂う船の上、長谷川さんの目は、伊豆下田の夜明けを楽しみにしているように見えました。

いま伊豆下田には、長谷川さんのように熱い想いを持った人が徐々に集まりつつあります。

文:長濱 裕作

全国に拠点を広げているコミュニティ「LivingAnywhere Commons」と、その拠点の1つであるLivingAnywhere Commons伊豆下田。

LivingAnywhere Commonsのメンバーになることで、魅力的な人との出会いが自然と生まれます。興味のある方は、ぜひLivingAnywhere Commonsの公式サイトをチェックしてみてください!

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