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【無料】第1回 ロングインタビュー「新生レディビアード~カワイイ革命~」前編

2014年、彗星の如く現れネット民に多大な衝撃を与えた女装パフォーマー、レディビアード。あれから2年、ますます勢いを加速し続けるビアちゃんですが、未だ謎に包まれている部分も少なくありません。

新連載『レディビアード外伝』では、ビアちゃんの日常のこぼれ話から、舞台裏トーク、珍事件簿、芸能界ウラ話、知られざる過去……などなど、ここでしか書けないディープな話題を毎週たっぷりお届けします。

記念すべき第1回と第2回は、ビアちゃんのルーツに迫るロングインタビュー。

過去に海外でも女装パフォーマーと活動してきたビアちゃんにとって、大きな転機になったという2013年。写真家・女装コーディネーターの立花奈央子さんと出会い、彼女のマネジメントによって全く新しい“レディビアード”として生まれ変わったという大事なエピソードから、まずはじっくり紐解いていきましょう!


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<もくじ>

1.運命の出会い 立ちはだかる言葉の壁は“Google翻訳”でクリア! 

2.まさに革命!新生レディビアードが初めて“カワイイ”を意識した瞬間

3.女装≠ゲイ・ドラァグクイーン “レディビアード”であるために大切なこと

4.香港での声優時代 日本の印象は“マジカルファンタジーランド”!?


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1.運命の出会い 立ちはだかる言葉の壁は“Google翻訳”でクリア!

――まずは、お二人の出会いのきっかけを教えてください。

レディビアード:2013年に来日して、10月頃にグリコのCMに出たとき共演した俳優のひとりがたまたまナオコの知り合いだったんです。

「彼女が撮影するモデルは華奢で女の子みたいな人ばかりだから、ビアードみたいな毛深くてムキムキの女装男子がモデルになったら面白いかもしれないよ!」って繋いでくれて。

立花奈央子:私たちが初めて会ったのはそれから2ヶ月後の12月、クリスマス前だったよね。

年明けさっそく撮影をして、私のTwitterで写真をアップしたんです。「100RTもいけばいいや」くらいの軽い気持ちだったんですけど、あっという間に500RTくらいまでいって、最終的には3000RTくらいまで(笑)。

初めてTwitterに投稿した写真

今まで見たことなかった数字だっただけに、正直本当に驚きましたね。同時に、「ビアちゃんはTwitterをうまく使えば知名度が上がる!」と思い立って、すぐに彼個人のアカウントを作りました。それが私たちの活動の始まりです。

ビアード:懐かしいね~! 今考えると本当に面白いです。

立花:実は私、タレントマネジメントはこれが初めてだったんで右も左もわからなかったんですけどね(笑)。完全にゼロからのスタートで。当然教科書があるわけでもないから、わからないことがあればその都度現場で聞いての繰り返しでした。

ビアード:当時のわたしも日本のことは全くわからなかったし、もちろん日本語だって話せなかったよ。

――そうなると、基本的に二人のやりとりは英語で?

立花:いいえ、私も当時英語はわからなかったので、やりとりは基本的にGoogle翻訳で。今考えると、どうやって意思疎通を図っていたか全然わからないですね(笑)。ビアちゃんがものすごく頑張ってくれました。

でも最初のうちは細かいニュアンスが伝わらなくて。実は、初めて撮った写真にはビアちゃんのトレードマークのアンテナ(前髪)が無いんですよ。私がそのニュアンスを理解出来てなかったので。ごめんねビアちゃん……。

ビアード:全然大丈夫よ(ニッコリ)!

アンテナ(前髪)無しのビアちゃん

――そんな状態でお二人で活動を始めたわけですが、ケンカや衝突はありませんでした?

立花:それが、不思議と少ないんですよね……。あ、でも初期のライブのファンサービスで“チェキ”をやろうと言ったときはモメました。

ビアちゃんと、当時お手伝いをしてくれていたダンさんの2人は猛反対して。

ビアード:そうそう、英語圏ではお金を出してライブを観に来てくれるお客さんから、さらにお金を取って写真撮影をするなんてことは考えられない行為でした。そんなことしようもんなら、みんなファンをやめちゃうよ! って。

――日本人からしたらアイドル業界でもV系業界でもよくあることだから、違和感は無いですけどね。

ビアード:ライブに対する考え方がそもそも違うんだと思います。英語圏の人々はライブに来たら、「お金は払ったから、さぁ、楽しませてくれよ」ってスタイル。

だからすごく心配だったけど、説得されてやってみたら予想以上にたくさんのお客様が喜んでくれて本当に驚いた!

立花:そういえば、ケンカとまではいかないけど、“日本のアイドル”の話でもバトルしたよね。

というのも、一般的に日本のアイドルを観に来るファンは“完璧”を求めてはいなくて、「自分の応援でアイドル達を有名にしてあげたい!」って考えの人が多い。自分がどこか共感できるくらいのほうが、応援したくなると思うんですよ。

ビアード:逆に英語圏の文化では、プロとしてはパーフェクトじゃなきゃ意味が無いんです。演じる方は、ファンにとってスーパーヒーロー的な存在でなければならない。だからそれを理解するまでには時間がかかりましたね。

――じゃあ言葉の壁というよりは、文化のギャップで衝突したわけですね。

ビアード:海外でも女装で活動していたけど、ナオコと出会ってからはいろいろな新しい価値観を得た気がします。

立花: 確かに、日本に来てからの“レディビアード”は、同じ女装パフォーマーでもガラッとイメージが変わっていったよね。

ビアード:うん、まさにRevolution(革命)だった! それこそ、海外で活動していた頃のビアちゃんには“カワイイ”の要素は全く無かったもん。

――“カワイイ”がないレディビアード!? 想像できません!



2.まさに革命! 新生レディビアードが初めて“カワイイ”を意識した瞬間

――ちなみに、来日してどのように変わったんでしょう?

ビアード:香港に居た頃は、体格の大きい男性が“いかにも当たり前のように”女の子の服を着てるだけのパフォーマンス。さっき言ったように、そこに“カワイイ”の要素は無かったんです。ただ女装をしてるってだけ。

立花:もともとビアちゃん、自前の衣装はワンピースしか持ってなかったんですよ。初めて会ったとき、「着たい服はあるけどサイズがないんだ」って相談されました。

――最初はどんな服に興味が?

ビアード:スクールガールとロリータと、メイド服! わたしにとってはスクールガールが日本のステレオタイプの“カワイイ”女の子ってイメージだったんです。

立花:まぁ、私のところは女装スタジオだったので衣装はたくさんあったから恵まれた環境ではありました(笑)。

ビアード:香港で大きいサイズのセーラー服を探したときは、まるでハロウィンの仮装みたいなものしか無くて、全く自分のイメージとはかけ離れたものでした。だから衣装作りをやっている友人に頼んでみたけど、なぜかあっさり断られて……(笑)。

――でも、奈央子さんに出会って念願の夢が叶ったわけですね!

 ビアード:そうですね! 衣装ももちろんなんだけど、初めの頃はナオコの撮った写真集を観ながら、“カワイイ”ポーズをかなり勉強したなぁ……。それまで自分がイメージしてた“カワイイ”がワンパターンだったことに気付かされた。

立花:確かに、最初の撮影ではポーズの指示をよく出していたよね。

ビアード:ナオコはすごく良い先生でした。“カワイイ”先生♡

立花:ありがとうございます(笑)。



3.女装≠ゲイ・ドラァグクイーン “レディビアード”であるために大切なこと

立花:でもさ、ビアちゃんはバランスがすごく上手だよね。男の人が女装する時って、ゲイっぽくなりがちじゃない? この辺りに関して、気をつけてることある?

ビアード:すごく大事なことだよね。“カワイイ”レディビアードであるためには、女装パフォーマーとゲイ・ドラァグクイーン(※)の境界線ギリギリでキープしなきゃいけない。そしてその境界線というのは、自分のセンスにかかっていると思います。

例えば、わたしはあまりネイルアートをしない。なぜなら、手が小さいし指も太くて短いから。多分、ネイルアートをするとここにゲイっぽさが出てしまうと思うんだよね。まぁ、これはあくまでわたしの場合だけど。

※「ドラァグクイーン」……男性が女性の派手な衣装をまとうパフォーマンス。もともとゲイ文化なので、同性愛者や両性愛者が圧倒的に多い。

――自分の身体に合ったものを選ぶってことですね。

立花:最初の頃のメイクはファンデーションとアイライナーだけでした。アイシャドウや口紅は本人のNGだったんですよ。私がテーマを決めて作品撮りをするときにだけ特別にやってましたね。基本そこは絶対やらない! っていうポリシーがあります。あとは、イヤリングも着けないよね。

ビアード:うん、着けない。でもたくさん持ってる! プレゼントは大切にディスプレイしてるよ。アクセサリーやメイクは本当にケースバイケース。スウェーデン人の友人は全身細長いから、ネイルアートをしても全然ゲイっぽさが出ないんです。なぜなら指も細長いからね。ちゃんとファッションとして成立してる。

すべてはトライアル・アンド・エラー(試行錯誤)なんだ。やってみて、自分と合わなければやらないだけですね。

立花:なるほどねぇ。じゃあ実際やってみて、ダメだったなぁって思ったことってある?

ビアード:このあいだトミタ栞さんとのコラボで「バレンタイン・キッス」を歌ったんだけど、そのMVでチャイナドレスを着たわたしが脚を組んでるシーンがあるのね。太ももがバッチリ見えてて。あれは家族には不評だったなぁ。日本人はこういうの結構好きでしょう? かなりウケると思ったんだけどね(笑)。オーストラリア人からしたらちょっと変態過ぎるのかもしれません。確かに、女の子が太ももを大胆に露出してたら軽そうに見えたりするよね。

家族には不評だった太もも(「バレンタイン・キッス」MV)

やってみるまで心配だったことは山ほどあります。ナオコに「本当に大丈夫? 本当に大丈夫?」っていつも聞いてたもん! 実際やってみると、ほとんどが大丈夫だったけどね。

ただ、ナース服の時のガーターベルトだけはセクシーすぎると思って使えなかったなぁ。

立花:確かにセクシーではあるね。でも、日本のコスプレだとポピュラーなんだよ。

ビアード:なるほど。なるほど。

――ビアードさんの衣装のサイズ感って、本当に絶妙ですよね。

立花:周りでスタイリングをする私たちも、かなり気をつけていますね。ジャケットに使うものや大事な衣装はすべてフルオーダーです。

ビアード:見ての通り、わたしの身体は女性のラインじゃないでしょ。服によっては太って見えちゃうこともあるんです。

立花:だからフルオーダーで、スタイルがよく見えるように特別に調整してもらってます。たとえば肩や胸が大きく、ウエストが締まって見えるようにとか……そういうポイントは押さえてますね。

――そういえばコミケで話題になった『ストリートファイター』の春麗コスプレの衣装、あれは本当にジャストサイズでしたよね! 

夏コミで披露した春麗のコスプレ

立花:そうそう、2015年の夏でしたね。あの衣装ももちろんフルオーダーです。もともとビアちゃんは『ストリートファイター』シリーズが大好きで、それも結構上手だったんですよ(笑)。嬉しいことにCAPCOMさんのイベントに呼んで頂けたこともありましたね。せっかく好きなんだからコスプレしようよってことで、私の友人に衣装を作ってもらって会場に出かけたら、そのときのツイートが2万近くリツイートされて! その時のコミケで1番の拡散数でしたね。レディビアードに“コスプレイヤー”ってイメージがついたきっかけの1つかもしれない。

ビアード:春麗はベストマッチだったね~! プロレスでもキック技は得意だったから(※ビアちゃんはテコンドー黒帯)、それが生かされていた気がする。海外のコメントで「これぞ春麗の(筋肉質な)太ももだ!」とまで言ってもらえて嬉しかったです。世界中のコスプレニュースにも取り上げてもらえて、もう次にどんなコスプレをしたら良いかわからなくなるくらい(笑)。まぁ、あくまでコスプレイヤーのお仕事はエキストラなんですけどね。

立花:実はコスプレイヤーってお仕事、私たちの中で想像してなかったんですよ。ビアちゃんは何でも着こなせるから、私がいろいろな服を着せてTwitterにアップしていたことで自然にそんなイメージが付いたんでしょうね。

――確かに、あの拡散数だとコスプレイヤーが本業と認識している人は多いかもしれませんね……。とはいえ、今年のコミケも楽しみです! 



4.香港での声優時代 日本の印象は“マジカルファンタジーランド”!?

――ビアードさん、もともとアニメやゲームはお好きですか?

ビアード:好き。もちろん好き。アニメは『バッカーノ!』が特に大好き!

実は、前に香港にいたときは声優もやっていたんです。それはもう楽しかった。だってさ、毎日スタジオに入って8時間アニメを観るって生活だよ! 最高じゃない(笑)?

香港時代の貴重な写真

立花:日本に来る前から、仕事で日本のアニメをよく観てたわけだよね。そこからの日本のイメージってどうだった?

ビアード:そうだなぁ……難しい質問。でもまぁ、一言で表すなら、“マジカルファンタジーランド”って感じかな(笑)。

――“マジカルファンタジーランド”(笑)!?

ビアード:だってさ、英語圏ではスタジオジブリが特に人気だけど、あの世界観ってすごいでしょう? びゅううううって風が吹き荒れて、トトロが出てきて……必ず何かしらスゴイことが起こるんですよ。日本のイメージってとにかくエクストリームなの。80年代の吉本(※ビアちゃんは「ダウンタウン」の松本人志のファン)とかのイメージもそう。要は極端なものだけが海外に伝わるんだろうね。でも、日本の国民的アニメってそのイメージとは正反対。『クレヨンしんちゃん』とか『ちびまる子ちゃん』とか……。

――日本の国民的アニメには、どんな印象を持ちました?

ビアード:声優のお仕事で『ちびまる子ちゃん』を初めて観たんです。スタジオに入って、詳しい情報はナシにまずは作品を観るんだけど、10分経過して……15分経過して……あれ? 何も起こらないじゃん! ってびっくり! とにかく衝撃的だった。だって彼女が学校へ行って、家に帰って……それだけ? って! こっちはドキドキしながら待ってるのに、何も起きないでしょ(笑)。あー、思い出してもまだ笑える! 面白すぎるよ(爆笑)! 

――“何もない”ことが面白いんですね(笑)。

ビアード:そういえば、新宿を歩いてて“新宿タイガー”さん(※)を初めて見かけたときも衝撃でした。彼、見た目が派手なだけで何か特別なことをしてるってわけでもないんだよね(笑)。ちゃんと信号待ちをして、青になったらそのまま歩き出して……周りに歩いてる人も特に意識してないでしょ。日本のエクストリームなイメージは、あながち間違ってないなと思った瞬間でした。

だって、オーストラリアで同じことをしたら「うわー!変な人いるぞ!」ってあっという間に大騒ぎだよ(笑)。

香港では一時期毎日女装をしていたけど、毎日毎秒がパフォーマンスになっちゃうの。女装のワンピで電車に乗るでしょう? 乗って、座って、周りの人はみんなわたしを二度見。隠し撮りする人まで居たよ! これじゃ、ごく普通の買い物でさえパフォーマンスですよ。

※「新宿タイガー」……アフロヘアーに虎の仮面という個性的過ぎる見た目で新宿周辺にたびたび出没する男性。正体はごく普通の新聞配達員。

――確かにその国ごとの違いはありそうですね。でも、お気に入りの声優業はどうしてやめたんですか?

ビアード:ちょうどその時期にリーマン・ショックが起きたんです。今でもよく覚えてるよ。水曜日、いつものように仕事を終えて家に帰ってメールチェックすると、社長から1通のメール。「世界のマーケットが全部クラッシュした。明日も、明後日も、来週も来なくて良い。別の仕事を探して」ってさ。突然のことだったよ。もう本当にどういうこと? って。

それまでのわたしの人生は恵まれていました。好きな仕事も綺麗な家もあったし。でも金融危機で全部、無くなっちゃった。

立花:本当に辛かったね。

ビアード:でも、そのときの経験が今の仕事に確実に繋がってるんだよね。ここから“元祖レディビアード”が始まったんです。 


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後編では、ビアちゃんの壮絶な過去、彼のパフォーマー観などをさらに深く掘り下げていきます。お楽しみに!

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