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高慢と偏見とスポーツマーケティング

私の友人に "プリン作りが趣味のJリーグマスコットサポーターで、
ファンクラブに入るほど関ジャニが大好き"
な人がいる。

もしかしたら、女性を想像したかもしれないが
マスコット会で出会った男友達のことである。
彼とは趣味が共通する部分が多いので仲が良い。
先日も一緒に関ジャニライブに行き、推しに黄色い悲鳴を浴びせた。

お菓子作り、マスコット、ジャニーズ好きのキーワードで男性の姿を想像できなかった人もいるだろう。私たちはフラットな視点で生きているつもりでも、無意識の決めつけをしてしまっていることが多いのだ。
"女性ならピンクが好き"とか、"静岡県出身ならサッカーが上手い"とか
"FC東京サポーターなら大食いに違いない"とか…。

先日、とあるセミナーで登壇者が発言した内容がSNSを賑わせた。
当該ツイートはアカウント担当者によって削除されているので
画像での引用はしないが、"もう女性はサッカーを見ないでも良い、夏場のスタジアムで彼氏の前で化粧が落ちるのも嫌だろうし、だったらスタジアム周辺の空間を活用し、映えるスポットを用意すべきだ"という内容であった。

その場にいなかった者が件のツイートを考えるにあたり、
 ・ 発言には確実に前後の流れがあり、一部を切り取ったものであること。
 ・ 本人があげたツイートではなく、SNS担当が発言を受けて
解釈したものをあげていること。(発言者の意図と違ったニュアンスになっている可能性)
上記2点を踏まえて情報を取り扱うべきだが、対象者・対象物に向けてのキーワードが気にかかった。(後に補足ツイートで「新規顧客獲得の為の施策」であることが書かれた)

登壇者の話し口調も、補足も、SNS担当者が書いたという事実には変わりないので、当該ツイートへの結論としては、
「正確な全文書き起こしを見ないと何とも言えない」
のであるが
Twitterでの反応などを見ているとジェンダーバイアスについて一度考えてみる必要があると感じた。

差別だなんて思ってないよ

ここからは私個人の受け取り方であるが、1つ目に引っかかったのは「発言者の想定している女性像」の部分である。

"女性はサッカーを見ないでもいい" の部分に疑問を感じていたサポーター達に「新規顧客獲得の施策」とSNS担当者が補足したのは、おそらく性差別と受け取られるのを恐れたように見えた。
しかし、意識的な性差別の文言ではないのは見て分かる。(「見ないでも」は提案のニュアンスと理解。「女性はサッカーを見るな」であればもっとボーボーに燃えていたはずだ)
この文言と内容から、既存のサッカーファンに向けた言葉でないことも推察して取れるので、例の補足があってもズレを感じてしまった。
どちらかと言えば「その女性像、本当に正しい?」という部分に引っかかっている。発言者はマーケティングのプロであるから、なおさら困惑した。
既にサッカーを観に来ている自分たちと、潜在顧客である女性像が違うのは当たり前なのだが、それでも140文字の中にはセグメントとは違う種類の「無意識の偏見」を感じてしまったのも事実だ。

2つ目に引っかかったのは「試合見せないでいいの?」という部分である。
サッカーに興味がない女性を呼び込むために、イベントや会場周りにサッカー以外のとっかかりを作るのは大事だ。スタジアムに温泉施設やホテルを併設する案もあるし、女性向けイベントでもその傾向は多くみられる。しかしどのアイデアも"サッカーを見る"前提で計画されているのだ。
その風潮がある中でメインの試合を見せないで良いと言い切るのは長期的な顧客定着になるのかが疑問である。

しかしこの部分は発言者の斬新なアイデアがTwitterに書かれていない部分に隠れていそうである。
みんなが疑問に思うことを発言しても納得させられる意見があったと考えるのが自然だ。
なので、やはり全文が欲しいのであるがこれは参加費を払った人だけの特権であると考えよう。

セグメントマーケティングの難しさ

特定の場所に「人を呼び込もう」と考えた時にやみくもに呼び込むのではなく、年齢層や性別などの属性である程度ターゲットを絞り呼び込む…
いわゆるセグメンテーションがこの話の肝だろう。

しかし、人間って考えも属性もバラバラなのだ。
傾向は表れても、志向は人間の数だけある。
私はフリフリの派手な服が好きだが、シンプルな服を好む女性は多い。
ネガティブな意見でなくとも ”女性だから〇〇” とくくるのは果たして本当に正しいのだろうか。 そうなるとこの基本的なマーケティングの考えも「A型は几帳面だ」という言葉と同じくらい不安定なくくりに感じてくる。

効果的にマーケティングを行うのであれば、少数派の意見を1つ1つ吸い上げ配慮するのは厳しいだろう。余裕のあるジャンルであれば別だが、そうでないジャンルは大多数に訴えかけて土台を固めることが優先される。
企画もグッズ展開もロスを出す余裕がないJリーグではこれに頼らざるを得ないのだが、いつまでも女性向けイベントでチームカラーと関係のないピンクのグッズが出続けるのを見ていると、サポーター目線ながら見直しは必要だと感じる。

そんな流れの中、他チームで素敵だと思ったイベントがある。

アビスパ福岡女性サポーター発案のイベント企画なのだが、ハンドメイド作品の出品・購入サイトとコラボして自分で自由にグッズを作れるのだ。
これならばファッションの志向や年齢関係なく誰でも自分好みのものを作れて楽しめる
女性とタイトルにはついているが男性はもちろん、アウェイサポーターも参加歓迎というからさらに驚く。
新規顧客獲得の話から逸れてしまったが、属性に縛られない企画やグッズ作り、は今後さらに需要が増していくだろう。

登壇者全員を一括りにしない

発信側も伝え方について考えるべき事案であったが、頂いた意見の中からは受け手として考えるべき課題もあると感じた。
そもそも、発言者がどのような意図で言ったのかは全文や音声記録がない限り分からない。当該ツイートに発言者の言葉として書かれていた「もう」「どうせ」「だったら」の言葉は気になったものの、これらも本当に発言していたのかは不明なのだ。
登壇者全員を貶すリプライも受けたが、発言者とは別の人間である。
人の好き嫌いはあって当然だが、ここで連帯責任を発動するのは登壇者にとって災難である。
素晴らしいセミナーであれば口コミでも人は増え、疑問が残るものが続けば自然と人は離れる。 自分と志向の違う人たちなのであれば、静かに距離をおくのがスマートと言えるだろう。

地獄をなくす相互理解が最大のマーケティング

またこれはサッカーに限らないのだが、どうしてもジェンダー系の話は拒否反応が生まれやすい。
「マーケティングやブランディングを考えたビジネス上仕方ないこと」、
「インパクトを与える為に発言したこと」、
「これらを踏まえずに感情論だけで歪んだ受け取り方をしている」
との声が今回の件でも出ていた。まったくそうなのだ。
そもそもこのセグメントマーケティングが時代にそぐわない考え方なのは先述の通りである。

しかし、違和感をもった人がいればその意見を洗い出し、次の改善につなげていくこともジャンルの発展に繋がる。
声をあげた人に対して感情論扱いをしたり、神経質に捉えすぎだと口を封じたり、疎ましい話題だと扱えば現状維持にしかならない
リサーチなきマーケティングがあるだろうか。

TBSアナウンサー宇垣美里氏のテレビでの発言から引用するが、
「その人それぞれに地獄があると思うんですよ。私には私の地獄があるし、あなたにはあなたの人生の地獄がある」
この言葉の通り、他人を理解することは難しいが、他人にとっての地獄をなかったことにするのは相手をさらに深い地獄に突き落とす行為なのだ。

特に性差の話題は物理的に相手の立場に立てない分、解釈が追いつかなかったり、責められているように感じたり、男女間での対立を煽る風潮になりがちだが、本来は相互理解のために必要ではないだろうか。

偶然だが、マーケティングの本質も「相互理解」なのだ。
相手の求めていることを知り、自分のことを知ってもらい信頼を得る。
クラブとサポーター、リーグと潜在的顧客、男性と女性…。
違う立場に立っている双方が信頼関係を築きあえる環境こそ、スポーツマーケティングに必要なのである。

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