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「ドキュメンタリーこそ薄化粧を」 長期海外取材で全素材カラーグレーディングした記録

【はじめに】
 テレビカメラマンのつぼけんです。2019年4月に取材のためウガンダに行った際、「素材を全てカラーグレーディングしてからディレクターに提出する」という選択をしました。上手くいった点、もう少し工夫したい点などあるので、今後のためにも記録を残します。


【日程】
▽2019年4月12日出発~4月29日帰国
▽実質的な撮影日数=10日程度


【主な使用機材】
▽SONY NX5R(SDカード収録) 設定=FHD・60P
▽MacBookPro + DaVinci Resolve Studio15


【全てグレーディングをすると決めるまでの経緯】
 映像素材に全く手を加えない生の状態を「すっぴん」とするならば、情報・報道の仕事の多くの撮影スタイルはすっぴんで構成されています。しかし、今回の取材はドキュメンタリーとしての要素が強く、ドラマや映画のように画自体に意味を持たせるような作業が合うのではないかと思っていました。「カラーグレーディング」と言ってもまるっきり色を変えてしまうようなものではなく、少し映画っぽいトーンに整えたり、表現したい意味合いに少し補足したりというようなものを目指しました。
 テーマは「ドキュメンタリーこそ薄化粧を」。ナチュラルではあるけど少し見栄えがするというところを狙っていきます。


 大きな問題は、素材の何割をグレーディングするか?
 2016年にドキュメンタリーを撮影した時にも同様の提案をし、いくつかのカットに手を加えさせてもらったのですが、編集段階でプレビューする度に構成が変わり、全てに対応する時間的な余裕がなく、いくつか断念したという経験がありました。
 今回も担当Dから、「編集時にグレーディング前の素材と後の素材が混在してしまうと大変」というお話をいただいて、それならば素材を全てかけてしまえば問題ないだろうと判断しました。


【カメラの設定】
 今回はカメラの設定からしてカラーグレーディング前提のものにしました。
 カメラのピクチャープロファイルという設定で、黒(暗部)にあたる部分を少し浅く(灰色っぽく)撮って、後で締める(より黒くする)というものです。テーマは「豊かな黒」。
 取材対象者の多くは肌が黒いということもあり、どうやって肌のトーンをリッチに出そうかと考えた上での選択でした。これにより、黒つぶれの心配がなく自信を持ってアイリスを絞って(暗めにして)撮ることが可能になり、結果、空などの背景が白飛びしない(明るすぎない)という結果につながりました。

例1・ピクチャープロファイルで浅く撮ったイメージ
(※画像は取材と全く関係のないロイヤリティーフリーのものです)

例2・カラーグレーディングで黒を締めたイメージ


【実際の作業工程】
今回の取材中日に2日ほど撮影も移動も全くない日が設定されており、その日と取材後の夜をカラーグレーディングの作業時間に充てました。
限られた時間の中で最大の結果を出すため、まずはやりたいことのリストアップとやれるレベルの設定をしました。

難易度 レベル1 <プライマリー(易)「全体的なトーンの調整」>
→白飛びせず、黒つぶれせず、「豊かな黒」を意識。全てに同じフィルターを薄くかけ、色合いに統一感を持たせた。

難易度 レベル2 <セカンダリー(易)「ハイトーンを抑える」>
→空など、極端に明るい部分を個別に調節。ビデオっぽくないコントラストを目指す。

難易度 レベル3 <プライマリー(難)「エフェクトの追加」>
→フィルムグレーン(ノイズ)や、ディティールの追加。ビデオらしさを排除し、よりフィルムに近づける。

難易度 レベル4 <セカンダリー(難)「人物など主目的を浮き上がらせる」>
→肌のトーンの調整、悪目立ちしている背景の彩度を個別に調整するなど細かい部分。

難易度 レベル1 <プライマリー(易)「全体的なトーンの調整」>

難易度 レベル2 <セカンダリー(易)「ハイトーンを抑える」>

難易度 レベル3 <プライマリー(難)「エフェクトの追加」>

難易度 レベル4 <セカンダリー(難)「人物など主目的を浮き上がらせる」>

 初期段階で作業工程の数や、書き出しの時間などを考えた結果、レベル2までが限界で、レベル3からはできないだろうと判断しました。
 特にフィルムグレーンは、作業自体は簡単なものの書き出しにものすごく時間が掛かってしまうと分かり、残念ながら諦めました。


【良かった点】
▽取材期間中から担当Dと打ち合わせしながら画のトーンを決めていったため、撮影手法に関してもお互いに細かく話し合うことができました。

▽肌が黒い取材対象の場合、背景が飛んでしまうケースが多く見られますが、極力抑えることができたと思っています。

▽アナウンサーや取材対象者が写っていないイメージカットこそ効果を発揮し、風景や朝日などを印象的な画に作ることができました。


【反省点】
▽DaVinci Resolveがプログレッシブにしか対応しておらず、全て60Pでの撮影になったため容量が重くなってしまいました。

▽テーマは薄化粧とはいえ、さすがに薄すぎたと感じるシーンもあり、場面によってはより強くかけても良かったかもしれません。

▽書き出す際に画音(リップシンク)がズレてしまうという現象が発生してしまい、その修正に帰国後時間を費やしてしまいました。


【まとめ】
 「全素材にカラーグレーディングする」と自分で宣言したものの、本当にできるのか少し不安もありました。結果、海外取材にしては比較的余裕のある日程だったため、帰りのトランジット中までノートパソコンをフルに使って、何とか間に合わせることができました。
 通常のスタイルでも本編集である程度何とかなるとはいえ、カメラマンなら自分の素材がどう見られるか最後まで責任を持つべき、というのが僕の考えです。ここまでやることを許してくれた担当Dはじめスタッフに感謝いたします。
 今回の手法が全ての取材スタイルに合ったものではないと思うので、今後も進化させていけるよう研究を続けたいです。


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