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折った筆をもう一度持って。

 金木犀が散った。あんなに申し分ないほどの香りを漂わせていたのに。その少し前、彼岸に一気に咲いた紅い曼珠沙華も、気付いたら枯れ落ちていた。街は彩りを黒とオレンジから赤と緑へと変えていく。まだ終わってもいないのに、忘れたかのように、人々の心は冬へと移っていく。この瞬く間に過ぎていく秋の一時を、世の人々はどのように過ごしたのだろうか。
 秋は、こんなに短いのにスポーツやら読書やら、食欲やら芸術やらを背負っているらしい。今年の私の秋は芸術の秋だっただろう。私は夏の終わりから秋にかけて沢山絵を描いた。今回はその全8作を紹介しようと思う。

 今でこそ私はお笑いが好きだけれども、お笑いを好きになる前は「東方Project」が大好きなどこにでもいる厨二病だった。私の尊敬する東方Projectのイラストを主に描かれているイラストレーターの羽々斬(うーうーざん)さんが、キングオブコント王者の東京03さんのコントをもとに「東方03」という動画をニコニコ動画にアップしていた。また、この作品に出てくるキャラクターである「古明地さとり」のTシャツを、M-1王者の霜降り明星粗品さんが着ていて話題になった。この2つを機にお笑いに興味を持ち、コントを好きになり、漫才を好きになり、そこから様々な方々を好きになって今に至る。私にとって今1番大切な趣味であるお笑いに繋げてくれたゲーム作品だ。

 そして私は昔から絵を描くのが好きだった。が、何度も筆を置いては持ち直し、置いては持ち直しを繰り返していた。1年前にはたくさんお笑い芸人さんのファンアートなんかも描いていたのだが、何となく自分の画風に納得がいかなくなり描くのを辞めてしまった。本当は描きたいけれど、自分の絵に対する評価が低くて描く気になれなかった。
 私はそれまで主に普通のイラストを描いていた。ラフを描き、下絵を作り、そこから線画を作成し、色を塗っていく。しかし私はどうにも線画が苦手だった。それに気付いた私が出会ったのが「厚塗り」である。前述した紹介する8作は、全て東方Projectのキャラクターで練習した厚塗りだ。
 自分の絵が気に食わなかった。が、今回の練習で自分の絵を好きになれた。その練習の結果を順番に見て貰えたらと思う。

1.初めての厚塗り

制作時間5時間31分

 初めての厚塗りには、誰もが知っているであろう、何度も描いたことのある、東方Projectの第2の主人公である霧雨魔理沙(きりさめまりさ)を描いてみた。「誰だお前」と現れたボスキャラに向かって挑発するようなイメージで描いた。
 初めてのわりに、と描いた本人が言うのは違う気もするが、個人的にわりとまとまった絵が描けたように思った。しかし、目に奥行が感じられなかったり、絵の具感が残る雑な塗り方になった。厚塗りというものをまだ理解しきっていない状態で描いたものなので、今見返すと拙く見える。

練習2

制作時間3時間28分

 2023年に発売された最新作である東方獣王園(じゅうおうえん)に登場した新キャラクター豫母都日狭美(よもつひさみ)を描いてみた。最新作で1番創作意欲を掻き立てられる見た目をしていたのでこうなった。2作目にして1番苦手な黒髪のキャラクターを選んでしまったのは失敗だったかもしれない。が、1作目は目を1番最後に塗って塗りにくさに気付いた成長があった。その経験を活かし2作目からは目から描くようにした。すると、1作目と比べると落ち着いた、ペンの質感が残らないイラストになったように思う。しかし、やはり黒髪の塗りが甘い。この絵は引きの描写だったので、次はアップして顔の陰影や瞳の奥行を表現した絵を描こうと思った。

練習3

制作時間5時間52分

 こちらは1番有名作であろう東方紅魔郷から、フランドール・スカーレットを描いてみた。勝手にフランちゃんは目の印象が強いイメージを持っていたので、瞳の練習に持ってこいだと思ったのだ。しかし、フランちゃんには似合うけれど他のキャラだとどうだろう、といった瞳が出来上がってしまった。瞳の練習台という名目で描いたが、あまり練習にならなかった。しかし、肌の質感や髪の描き方などはここで確立されたように思う。

練習4

制作時間6時間41分

 こちらは東方剛欲異聞(ごうよくいぶん)に登場した饕餮尤魔(とうてつゆうま)を描いてみた。初見で読めるわけが無い名前ランキング1位。今回はとりあえず描いたことの無いキャラを描いてみようという感覚で描いた。しかし、饕餮のキャラデザはとても難しかった。髪や衣装など、塗り込みが荒いのが分かるだろう。実はこれ途中で飽きてしまってモチベが無くなってしまっている。本当はスプーンを抱える手なども描いているのだが、トリミングしてしまった。個人的に紹介する8作品の中で1番納得いっていない絵だ。

練習5

制作時間5時間58分

これは、東方神霊廟(しんれいびょう)に登場した霍青娥(かくせいが)を描いてみた。これまで黄色髪、黒髪、金髪、白髪といった現実にも有り得そうな髪色のキャラクターを描いてきたので、染めない限り出会うことの無い派手な髪色も描けた方がいいだろうと思い選んだキャラクターだ。あまり描くことがないので構図を練るのに40分かかった。
こちらは初めて瞳の印象づけが上手くできた絵だと思っている。また、髪の反射光の入り方。青に対して淡く黄色を乗せることで鮮やかさが出る髪になったように思う。この絵はこれまで描いてきた厚塗り練習の中でも革新的な絵となった。

練習6

制作時間5時間25分

 ここでは東方紺珠伝(かんじゅでん)に登場する地獄の女神へカーティア・ラピスラズリを描いてみた。この絵は、かなり冒険を試みたものとなった。まず、私が一番最初に参考にした厚塗りの塗り方を紹介する動画で厚塗りが苦手とする色を使いまくったところだ。厚塗りはどうにも淡いくすんだ色合いになるようで、原色などの色が苦手だとされていた。そこで、混色ではあるが彩度の強いカラーを選ぶというのは挑戦的な配色になった。しかし、意外とまとまりがあり目に強い印象を残す彩色になったと思う。またこの時塗った目はとても美しく出来上がったと思う。
 また、この絵から背景を描いてみた。このヘカテーは宇宙にいるので銀河を描いてみたが、イマイチ上手くいかなかったかなという自己評価である。

練習7

制作時間6時間56分

 こちらは東方星蓮船(せいれんせん)に登場する村紗水蜜(むらさみなみつ)を描いてみた。ここからはルーレットアプリで次に誰で練習するかを決めることにして、星蓮船なら村紗が描きたいな〜と思ったら当たった。
 前回のヘカテーから一変して、背景の描き込みを試みた絵になった。目が少々大きすぎたかなという反省点はあるが、水面の光の当たり方や水泡の塗り、あとは船幽霊なので口周りに泡を描かなかったりとか、かなり練習の成果が出た満足のいく絵になったように思う。

練習8

制作時間8時間51分

 こちらは東方天空璋(てんくうしょう)に登場する摩多羅隠岐奈(またらおきな)を描いてみた。これは友人に推しを描いてくれと頼まれたので描くことにしたキャラクターだ。私は天空璋には丁礼田舞(ていれいだまい)という推しがいるので、いつもその子ばかり描いて他を描いていなかった。キャラの解釈から構図まで、一からの構築になったがこちらでも淡い逆光というやったことの無いことに挑戦してみた。
 この絵はもう描きながら自分を天才だと思えるほどに達していた。背景とキャラクターの混ざり具合、淡い光の加減、反射光の塗り込み、安定感のある構図、そして目に目がいく瞳の力強さ。今までの私がなし得なかったことが実現されたような感覚だった。もちろん、まだコントラストが曖昧すぎるところや、少々オーバーレイに頼ってしまった箇所など反省点はある。それでも、自分の絵を好きになれたと思った。

以上が、私が最近描いた全8作品の練習画だ。


 ずっと自分の絵は認められなかった。だから、自分の絵に自信をもてなくなっていった。学校の成績も、同じ5評価でも美術より音楽の方が諸評価が良かった。仲が良かった男子には、ハッキリとお前の絵好きじゃないと言われた。笑い飛ばしたけれど、今でも覚えているというのは傷ついたんだろう。どんだけ描いたって、認められない。上手くはならない。でも描きたくて仕方がない。それを繰り返して何度も何度も筆を折った。置いたなんて表現をしたが、本当はバッキバキに折れた筆を難度もセロテープで修正しては折ってを繰り返していた。
 創作は、心に余裕がなければ出来ない。と、Twitterで誰かが呟いていた。本当にそうだと思う。
 世間が認めてくれなくても、自分が自分の良さを認めてあげる必要がある。私は何度もそれを見失い、戸惑い、焦り、筆を持つことを辞めてしまった。しかし、この厚塗りに出会って、どうして今までやってこなかったんだろうと思うほどに、描いていて楽しい時間が増えた。全てスマホアプリで、指で描いているのだが、練習5から練習8の4作品は、全て10月に描いたもので、だいたい週1ペースで描いていた。今までの私では考えられないほどに筆が早くなっていた。
 次に描くキャラクターも決まっている。私は自分を自分で「天才」だと思えるほどに成長した。それでもまだまだ尊敬するイラストレーターさんには遠く及ばない。だからまだまだ描き続けたい。このボロボロの筆がまた折れようとも、きっと私は戻ってくると思う。
 また絵がたまったら、紹介出来たら良い。





▽尊敬する羽々斬さんのpixivアカウント

使用アプリ:ibisPaint X

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