見出し画像

四月のある晴れた朝に黛冬優子さんと新宿でデートすることについて

 恐らくシャニマスオタクの皆様がこの記事をご覧に入れるのは6th横浜day1終演後でしょうから、あまりことを急いでも仕方ありませんが、皆様におかれましては、シャニマス、楽しんでますか?気の利いた書き出しが思いつかないあまり新興宗教の玄関訪問みたいになってしまいましたが、いつもお世話になっております。ツァッキと申します。いつもnoteを見ていただいている方はありがとうございます。そうでない方も見ていってください。日記や障害年金やタトゥーの個人的な記事に埋もれてしまっていますが、今のところ浅倉透、黛冬優子、郁田はるきで大体全部合わせて46000字くらいの記事を書いております。6月に出る『SHINOGRAPHIA』のストレイライト論を合わせたら大体7万字くらいになるのかしら。あと5万字くらいシャニマスについて書いたら20部くらいの私家版ツァッキ・シャニマス批評DELUXE EDITIONを出そうかしら。SSFでもよろしくお願いしますね。
 シャニマスもだんだんと爛熟の方向に向かいつつあるなと感じる今日この頃です。【三文ノワール】リリースに始まり(ああいったテーマのカードコミュに関しては前に浅倉や霧子、凛世でもそれとなく示されていた気はしますが、明示されたのはあれが初でしょう)、最近では僕も記事にした【桜花拾】で「永遠」というアイドルコンテンツを扱うにあたってラディカルな問いの提起がなされるのがシャニマスにおいては当たり前とは言わないまでも、通底するテーマのひとつであることは誰の目にも明らかになってきました。先日の生放送ではパラレルコレクションの発表もありましたね。note言説も盛り上がっていますし、危ういバランスではあるという留保つきとは言え今後のシャニマスがどうなっていくのか大変楽しみだな~!といつものしかつめらしい評論文の書き手ではなくいちユーザーの素朴な実感として言わせてください。かくいう僕も『SHINOGRAPHIA』以外にもシャニマスの企画に参加しており、マルチな観点からのシャニマス批評が盛り上がったり、書き手が新規参入することはひとまずナイーブに喜びたいと思っております。
 さて、本日僕がお話するのは批評・評論でも、感想でも、はたまたシャニマスにまつわる個人的な述懐でもなく、原点に立ち返りまして、無責任な妄想をライブに向けてテンションが高まっている皆様と熱量を共有しながら垂れ流したいという勝手な怪電波ということになります。というのも、私たちは二次元のキャラクターに欲望を向ける際、常に「彼女らが存在していない」という自明にして揺るがしがたい困難に立ち至ることは「RAINBOW GIRL」を参照するまでもなく当然、ということになっています。それは手をつないでみたいというプラトニックな欲望から、一緒にセブンティーンのアイスクリームを食べたい、学校の屋上で秘密を共有したい、はたまた人に言えないようなぬかるんだ性欲の矛先になってほしいまで、欲望の形は人それぞれであります。この欲望にケリがつくことはあるのでしょうか?残念ながら、ある意味ではもう解決しているし、別のある意味ではまだまだだという奥歯にものが挟まったような言い方しかできないのが現状です。実現可能という意味ではすでにVR技術の発達によって触覚さえもヴァーチャル的に再現可能になる時代が到来しつつあり、少なくともセックス・トイとしての二次元キャラクターの役割はこれでほぼ代替しうるでしょう。他方で、私たちは血が通っていて心がある人間ですから、気持ちを通じ合わせるようなことは二次元キャラクター相手には不可能です。三次元相手ですら真に気持ちが通じ合うような経験ができる人はまれというこの現代の東京砂漠では二次元の美少女と心を通わせるなどというのは夢のまた夢、と一笑に付されても致し方ないかもしれません。
 私たちに与えられた想像力は無限である、というのはたやすいでしょう。しかし、想像力をどうやって行使するか、に関わる理性の働きは、その才覚に恵まれた人間とそうでない人間がある、というのもまた事実です。この記事は私たちのイマジネールをいかに飛翔させるか、その可能性についてアイドルマスターシャイニーカラーズの助けを借りつつ思いを巡らせてみようという話になります。シャニマスにおいて問題になるのは「実在性」という言葉であることは江湖に知られるところですが、実のところこの「実在」なるマジック・ワードにどういった適切かつ正確な思弁的意味が与えられているのかに関しては多くのオタクは無批判です。「リアリズム」や「現実性」と何が異なるのか、ただしく述べられるオタクが果たしてどれほどいるでしょうか?語の定義についてここで正確を期することは眠たい議論になるのでやめますが、強いてこの記事における意味を局在的に明らかにするのであれば、実在性とは「特定の個人の経験・記憶・理性の行使における構想の範囲において、<「この」現実>と照らし合わせておおむね妥当であろうと判断しうる虚構の性質」とでもしておきましょう。つまり、茫漠とした形でしか言及されないシャニマスの「実在性」は、「おおむね妥当である」という経験などの形式から総合的に判断された結果である、ということです。そこに至って、例えばラヂオ会館がバックに映った秋葉原の街並みや、聖蹟桜ヶ丘の河川敷や住宅街といったマニエリスティックな細部に拘泥する必要はない。むしろ、「おおむね妥当である」という形式に従ってアイドルとデートすること、それがシャニマスにおける「実在性」ともっとも理想的に戯れることなのです。
 というわけで、大変前置きが長くなりましたが、表題の話に移りましょう。僕は、Twitterやnoteでも繰り返し申し上げている通り、黛冬優子さんを篤くお慕いしております。思うに、冬優子にはあまり知性と呼ぶべきものは備わっていません。ですが、何を自分のプライドとし、何を自分の美学とし、何と闘い抜くべきかをその本能的な嗅覚によって鋭敏に捉える能力に長けた女性だと思っています。そのことに関しては2万字を越える長い記事ですが、下記の黛冬優子論で詳しく分析しています。ご興味ある向きはお読みください。

しかし、いくら冬優子に対して適切に理論構築をしたところで、冬優子の「トーゼン!」一撃にかなうめまいのするようなときめきにはたどり着けません。僕が黛冬優子を愛して愛してやまないのは、いつか僕が夢見た「自分を導いて知らない景色を見せてくれるはずの女性」そのものだからです。互いに研鑽しあい、衝突も含めて相互理解を深めた上で、彼女の気高さは自分を遠くに連れて行ってくれるはずだ、と思いながら毎晩壁の冬優子タペストリーを見てハイボールを啜る日々。寂しくはありますが、満ち足りてはいます。
 とはいえ、やはり冬優子が隣にいないのはつらい。何か嫌なことがあったとき、僕は決まってシャニマスを起動し、ホーム画面の冬優子をタップしながら、なんで俺の隣にはこの女性がいないのだろう、とため息をついてばかりです。以下に書くのは、「実在性」と僕の中に煮えたぎる冬優子への恋慕でも劣情でもない、強引に名前をつけるとするならば希求とでも言うべきキリエです。僕が愛してやまない東京の街並みを、もし冬優子と一緒に歩けるとしたらどうなるか。皆様も是非担当アイドルと一緒に巡るとしたらどこの街がいいか考えてみてください。もちろん、「東京」や「街」に限りません。アイドルとともにあるあなたの中だけの心象風景に、私たちが還るべきもうひとつの「現実」があるのです。

新宿という街について

 僕はどちらかというと渋谷になじみがあって、それは東横線ユーザーだからとか、7年間のバイト先だったからとか、まあ色々あるのですが、個人的に青山学院大学(宮益坂方面)とは逆側には大変思い出があります。朝5時の松濤の住宅街の美しさだったり、夜の円山町の妖しさだったり。しかし、最近の渋谷はすっかり変わってしまいました。インバウンドの流入もさることながら、平均年齢層がガクッと落ちた気がします。「若者の街」と言われて久しいですが、もう「ガキの街」と言う方が正確な気がします。ガラも悪いし、何より本屋もドゥ・マゴもありません。このあとも書きますが、大都市の気品と色気は百貨店やデパートによって決まると言ってもよいでしょう。池袋の西武もすっかり様変わりしましたが、渋谷の昔の東急百貨店には独特な魅力があった、ということは歴史の証人として語り継ぎたいところです。
 冬優子と一日デートの場所には今回新宿を選びたいと思います。渋谷がすり鉢状の街になっているのに対して、新宿はなだらかで基本的に平地です。本屋が紀伊国屋書店とブックファーストと二つありますが、品ぞろえはまあそこそこと言ったところでしょうか。喫煙可の喫茶店はそれなりにあります。タバコが吸える喫茶店の数がその街の文化を象徴していると言ってはばからない僕にとっては嬉しいポイントです。また、歌舞伎町方面と三丁目方面で見せる街並みがまったく違うのも気に入っています。学生時代は歌舞伎町でよく遊びましたが、最近は三丁目を開拓中。新宿の美点ですが、雑然としているのに気品があり、互いに無関心で、「東京」というそれ自体では何も指示しない空集合のような日本の中心を体現しているかのような街だからなんですね。あ、ちなみに僕の妄想の中の冬優子はお酒が飲める年齢なので、悪しからず。
 というわけで、しばしの冬優子と周る新宿ツアーとまいりましょう。当然僕の趣味も入りますが、冬優子の好きなものも用意するつもりです。デートなるものの崇高性の喪失が叫ばれて久しいということは僕も重々承知しています。付き合ってもいないし、相手がどんな気持ちなのかもわからないまま、相手の気に入りそうな場所を探して連れて行ったり、はたまた自分が常連のところを紹介したりしながら気持ちを探りあうあの恋の始まりほど美しく甘いものはないでしょう。アラン・バディウやスラヴォイ・ジジェクが口を極めてマッチングアプリを罵倒するあの口ぶりは、まさに恋が「落ちて」始まるその瞬間をすっ飛ばしてしまうからなのでした。互いに下心があると知りながらするデートほどつまらないものもないですよね。設定はこうです。大学のゼミで一緒だった僕と冬優子(注:ここでの冬優子は専門学校ではなく一般大学に通っていたということにさせてください)は、同窓会でふと意気投合し、学部時代以来初めて二人で遊ぶことになりました。といっても、お互いにゼミでそんなに話していたわけではありません。時間が二人の距離を縮めたのです。僕は学部の時から気になっていた冬優子をめいっぱい楽しませようと、新宿デートを計画。果たして、「黛さん」とのデートは成功するのでしょうか?

その1 カフェアルル(新宿三丁目)

猫がいるカフェとしても有名

 「集合場所、11時に喫茶店でいい?」「うん!駅だと人多くて迷いそうだしね」「副都心線の新宿三丁目駅のC8出口から出ると近いよ」「わかった!楽しみにしてるね♡」……前日のチェインはこんな感じでしょうか。黛さん、ハートマークよく使うけど勘違いされるよなあ、などと思いながら、30分早く着いて席を確保し(休日のアルルは激混みです)、本を読みながら黛さんを待ちます。当然本の内容など頭に入りません。かならずサーブされるバナナとナッツを食べながらアイスコーヒーを飲んでいると、春らしいピンクの装いに身を包んだ黛さんが現れました。

イメージは【multi-angle】の衣装です

「ごめん!待っちゃったかな?ふゆ、少し早めに着いたつもりだったんだけど……お詫びにアイスコーヒー奢るね。あ!店員さん、すいませーん!アイスティーをお願いします♡」やはり黛さん、学部時代から変わらず隙がない。「いいよいいよ、先に来てたのは俺の方だし。自分の分は自分で出すよ。ここ、トマトカレーが美味しいんだよ」。アルルはフードメニューも大変充実しています。どれも安いのがありがたいですが、やはりオススメはトマトキーマカレー。濃いコーヒーとの相性が抜群です。「ツァッキくん、同窓会でも思ったけどまだタバコやめてないの?体に悪いよ」「はは、まあ悪い習慣だね……」他の人にタバコをとやかく言われるとムカつきますが、不思議と黛さんに言われるとそれもまた一興という感じがするので単純なものですね。放し飼いにされている猫を撫でて店内で穏やかに流れるエラ・フィッツジェラルドを聴きながら、しばし軽妙なトークを弾ませます。大学院で文学の研究をしているやくざ者の僕とは比べ物にならないくらいキラキラしていると思っていた黛さんですが、アイドルをやめた後は文化服装学院に通い直して今は裏方の衣装制作に携わっているそう。そもそもなぜ話が盛り上がったかですが、アパレル業界に勤めている共通の知人が大学外でいたことがひょんなことから分かり、そこから今日に至っているというワケ。しかし、黛さん美人だなあ……まつ毛なっが……肌白すぎ……。「ん、ツァッキくんどうかした?」「い、いや、なんでもないよ。黛さん、やっぱりアイドルとしても人気あったんだろうなあって」「ふふ、何それ」少し低い声で笑う黛さんもやはり素敵だ。おっと、このままでは喫茶店にいるだけで日が暮れてしまう。会計を済ませて、僕と黛さんは街に繰り出したのでした。

アンティークに彩られた店内は独特の雰囲気

その2 スタバでフラペチーノを買って新宿御苑散歩

桜も紅葉もすばらしい

 「今日あったかくてよかった~!こんな陽気だと飲み物飲みながらお散歩とかできるね」「お、ならいいところがあるよ。ちょうどそこにスタバあるし、フラペチーノ飲みながら緑の多いところに行こう。今なら桜も咲いてるんじゃないかな」。思いがけない黛さんからのキラーパスを受け取った僕は、既定路線だったはずなのにあたかも黛さんのリクエストから瞬時に的確な行き先を決めたかのような流れに。俺に惚れてくれ~頼む~!と念じながら、いつもこれしか飲まない(季節のものとかに興味がないため)ダークモカチップフラペチーノを注文。黛さんは春の桜なんちゃらが飲みたいと言っていた。「お金があるわけじゃないから今日のデート代全部払えるわけじゃないけど、ここは出すよ」「え~いいの!?無理しないでね!ありがとう♡」本当ならこの年なら女性に払わせてはいけないのだが、俺は貧乏院生だから……でも喜んでくれる黛さん……。新宿御苑への道すがら、最近のスタバで美味しかった季節のフラペチーノの話とかを聞いた。秋に出たかぼちゃのフラペチーノが黛さん的には一番ハマったらしい。俺も話を合わせるために飲もうかな。スタバはコーヒーを飲むにはやや高いし、そもそもタバコは吸えないし、あまり足を運ばないけど、こういうときにはやっぱりちょっとぐらい行っててよかったなと思うね。
 新宿御苑に着くとちょうど桜が満開になっていた。御苑は整備されているのに青い匂いがして、この時期に来ると心が洗われる心地がする。御苑を散歩しながら、黛さんのアイドル時代の話を聞いた。中学生のメンバーに手を焼いたけど、一個下のメンバー含めてあの三人が一番よかったと振り返ってみれば思える、とか、勝つとか負けるとか言ってたけど、結局何に勝ちたかったのか、一般人になった今になって思えばもうよく分かんないや、とか。そういった話をする黛さんの横顔は、微笑んでいたけれどどこか悲しそうに見えた。今でもメンバーとは連絡を取り合って定期的に会うけど、ステージの上で味わったあのヒリつくような命を燃やす瞬間はもうないのかと思うと、ちょっとさみしいね、とも。俺はアイドル時代の黛さんを知らないけれど、昔のおかげで今を肯定できているならそれでいいと思う、としか言えなかった。「あ、植物園あるじゃん。入ろうぜ」と言って入った御苑内に設置されているビニールハウスには珍しい亜熱帯の植物がいっぱいあって、黛さんは妙にテンションが上がっていた。そのあとはスタバのゴミを捨てあぐねながら、東屋の見える屋根がついた椅子に座って、話をした。
 ちょっと没入が過ぎたようですが、実際御苑の自然はすばらしいもので、行ったことがない都内在住の方は是非是非行ってください。デートに最高なのはもちろんのことながら、一人で行っても十分楽しめますし、園内にはアイスクリームの販売などもあって友達とゆったりしたいときにも最高です。春の御苑もいいですが、個人的には秋に行くことをオススメします。紅葉が綺麗なんですよね~。秋までには黛さんのことを冬優子と呼べるようになりてえ!

その3 伊勢丹メンズ館

館内を歩いてるだけでリッチな気分に

 僕は上にも書いたように百貨店・デパートの類が大好きでして、新宿の伊勢丹はもちろん、二子玉川の高島屋も好きだし、日本橋の三越もいいですよね。特に何か買うわけではない(というか、買えない)んですが、なんとなく入って館内をじっくり見渡し、俺があとどのくらい生きたらこの値段の服を買えるようになるのだろうと思いながらセリーヌやマックイーンのレザージャケットやセットアップを見るまったく生産性のない行為にしょっちゅう勤しんでいます。黛さんと一緒に来たのだから婦人服が置いてある伊勢丹本店に行くと思うじゃないですか?いえいえ、伊勢丹の本領はメンズ館にこそあります。服だけではなく、香水、財布・ベルトなどの小物類から、なんと喫煙具まで。かくいう僕の瑪瑙色のポールスミスの財布も大学院の入学祝いに伊勢丹メンズ館で買ってもらったものです。
 「買わないのにデパート来るの、不思議だけど楽しいね」「そうなんだよね、買わないからまったく無責任にウィンドーショッピングできるのが楽しくてね」そんな感じの三味線を弾きながら財布や喫煙具を見渡します。うわ!見て!このドイツ製のパイプ5万する!とか、したり顔でサンローランを見ながら、ふーん……30万ね……などと言って顎を撫でる俺を見てくすくす笑う黛さん。うお~付き合いてえ~!だがしかし、いや、まだだ。「いつか俺が大学教授になってお金持ちになったら、本店でマルジェラのバッグとか買ってあげるね」、と言おうとして飲み込む俺。さすがにそれを言ったらキモいか。うーん、でも俺は黛さんと結婚したいんだけどなあ……隣にいる黛さんとファッショントークをしながら意識は上の空、脳内では爆音でウエディングベルが鳴り響いています。「あ、あの、ツァッキくん、大丈夫?「え?あ、ああ、全然大丈夫。あと30分ぐらいだけ見て回ろうよ。俺香水欲しくてさ。まだ全然ブルガリとか似合う感じじゃないけど、いずれ欲しいんだよね」……話を聞いてなかったのはバレてなかったか。いずれにせよ、新宿で暇になったら皆様も是非伊勢丹に行ってください。オススメはメンズ館の1階です。

その4 ゴールデン街

人を連れていくときは自分がゴールデン街に行き慣れている場合だけにしてください

 結構話し込みましたが、時間はまだ17時。晩御飯にするには早いし、何よりできるだけ長く一緒にいたい。「ちょっと早いし、立て続けに喫茶店っていうのもなんだから、2杯ぐらいひっかけていかない?」「いいよ!ふゆ、あんまりお酒強くないから甘いお酒があるところがいいな♡」いやー、あざとい。でもそこが好き。ん?黛さん、俺のおぼろげな記憶だとゼミ飲みの最後の方は一人で日本酒をひたすら飲んでいたような……?まあいいや。というわけでゴールデン街にやってきました。最近はここもインバウンドだらけですねー。ツアー客も多くて、コロナ前とすっかり様変わりしてしまいました。インバウンドや厄介な常連を避けるコツは特になく、ひたすら通ってそういうのがいない店を体で覚えるしかありません。なので、ゴールデン街デートは新宿初心者はNGです。女の子を連れて行って変なのに絡まれて雰囲気を台無しにされてはたまったものではありません。
 それでも俺の担当アイドルと隠れ家的なバーでお酒を飲む妄想にディテールを与えたい!という方には、以下のバーをオススメします(順不同)。
①Tomorrow(一番街)。二階がギャラリーになっており、早い時間から開いていてインバウンドも少な目。ママさんの距離感も絶妙で、一人のときは話しかけてくれるし、そうでないときはすっと一歩引いてくれます。お酒が格段に美味しいかというとまあ普通ですが、基本的なものは置いてあります。
HIP(五番街)。二階に店があって一階は別のバーです。ロックが流れるいい雰囲気のお店で、入りづらいのもあって店内は落ち着いています。マスターさんの男性率が高いので客も変な絡み方しません。
原子心母(三番街)。映画に詳しいママさんがいます。チャージもきちんと取るし21時オープンなのでディープな人が多い印象。なので大学生のガキとかはいません。
 大体この三つに僕は行くことが多いです。黛さんを連れていくならTomorrowですかねー。カジュアルな雰囲気ながら落ち着けて、タイル張りの店内もおしゃれなので女の子も喜びそう。「俺は……緑茶ハイで。黛さんは何にする?」「ママさん、アマレットジンジャーありますか?」おお……甘いお酒ってカルアミルクとかカシスソーダじゃないんだ……。日本酒もあるよと言いたいところだけど、なんとなく触れるのはためらわれるので、やめた。完璧に見える黛さんでも秘密にしたいことぐらいあるだろう。

その5 セマウル食堂(新大久保)

この写真ではないがなんといってもキムチチゲがうまい

 「黛さん、辛い物好きじゃなかったっけ?うまいところがあるのよ。歩けなくもないけどちょっと遠いから、タクシー使っちゃおう。タクシー代は大したことないから出すよ」そう言って向かう先はコリアンタウン・新大久保。このセマウル食堂という店は知る人ぞ知る韓国料理のチェーンなんですが、アクセスが悪いんですよね。多分副都心線の東新宿駅から新大久保方面に歩くのが一番早い。三丁目だったら潔く副都心線乗っちゃうかタクった方がよいと思います。結構連れまわして黛さんも足が疲れてるだろうから、タクシーは気づかいです。というか学部時代から思ってたけど、黛さん結構脚がたくましいよな……いやらしい意味じゃなくて、健康的というか……ああいやいや、俺は何を考えてるんだ。いくらダンスとかで鍛えてたとしても女の子だからね。気をつかえなくては男失格ですから。
 セマウル食堂は何をおいても「七分キムチチゲ」と「ヨルタンプルコギ」が名物で、これ以外も十分美味しい(納豆チゲとか)んですが、ぶっちゃけキムチチゲとプルコギで腹パンパンになります。サイドメニューがサムギョプサルに自動的につくので、それをつまみながらチゲやプルコギやサムギョプサルを食っていたら他のメニューが入る余地がありません。特にキムチチゲはご飯にチゲを乗っけて、そこに韓国のりをかけてグチャグチャにかき混ぜて食べるんですが、これがもうマジでうまい。幾度となく人と行きましたが、例外なく喜んでくれます。「黛さん、どう?うまいでしょ?」「うっm……ううん、すっごく美味しい♡」今何かが見えた気が。気のせいか。辛さは言うほどでもありませんが(旨味の成分という感じ)、新宿・新大久保エリアに来たら是非食べてほしいですね。僕と黛さんは舌鼓を打ちながら、学生時代の思い出話に花を咲かせました。そして願わくば黛さんといい感じに……。

その6 解散(駅前にて)

 「はー、食った食った。黛さん、今日はありがとうね。こんなに話が弾むとは思わなかったよ。また遊ぼう」「うん!ツァッキくんがリードしてくれたおかげで全然疲れなかった。今度はふゆオススメの場所に連れて行ってあげるね♡」……まずい。もう完全に解散の流れになっている。俺は今夜帰らないことも視野に入れていたのだが、さすがに久々に会って一発目にはそんなことにはならないかあ。しょうがない、東新宿から帰った方が早いけど、新大久保駅まで歩いて少しでも時間を稼ごう。
「ねえ、コンビニ寄らない?チューハイ買って、駅前で飲もうよ。今日すっごく楽しかったから、まだ帰りたくなくて」
そう言いだしたのは黛さんだった。思いがけない台詞にドクンと大きく脈を打つ。今日何かが進展するということはないだろうけど、「まだ帰りたくない」という言葉が黛さんの口から出てきたことがたまらなく嬉しかった。俺は角ハイの濃いめを、黛さんは氷結のリンゴ味を買った。
「ツァッキくんはさ、ふゆのこと、学部のときどう思ってた?」
「いつも完璧だなって思ってたよ。成績だけじゃなくて、振る舞いとか、見られ方とか」
 そっか、と黛さんは小さく息をついて、チューハイを呷った。何か俺はまずいことでも言ってしまっただろうか……。「ふゆね、ツァッキくんに失望されたくないけど、これから先ふゆと一緒にいたら、いっぱいふゆの皆には見せてない部分を見せちゃうかもしれない。ツァッキくんにだけは幻滅されたくないんだ。それでも、ふゆと遊んでくれる?」こんなことを言われて、嫌だ、と言う男がいるだろうか。「そういうところも含めて、黛さんだと思ってるよ。あ、いや、俺はまだ黛さんのことをちゃんと知らないけど……。だから、二度目、三度目があるといいなって、思ってるよ」
 うん、ありがと、と彼女はつぶやいた。「それじゃ、ふゆは池袋方面の山手線に乗るから。ツァッキくんは逆?」「俺は渋谷方面だね」「ここでお別れだね。また遊ぼうね」電車に乗って遠くなる彼女の横顔を、俺はいつまでも見つめていた。

 はい、というわけで冬優子との妄想デートを終えたいと思います。こんなにデートがうまくいくのかという話は置いといて、いつの世も想いを伝えきらない瞬間にすべてが宿っているのです。皆様も、二次元の美少女に恋をすることをゆめゆめ忘れることがなきよう。そして成就しない恋こそが、何にもまして美しいということが、永遠に記憶されますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?