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男だから、女だからは抜きにして。

皆さんは、「痴漢」とか「レイプ」とかでGoogle検索したことがあるだろうか。

先日、ライターの小川たまかさんの『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』という本を読んだときに、こんな問いかけがあった。

小川さんによると、2016年11月時点でこの「痴漢」「レイプ」の2つのワードで検索をかけたとき、1ページ目にはすべてアダルトコンテンツが並んでいたそうだ。

いきなりショッキングな単語でぎょっとした人、ごめんなさい。
でももしこの事実を「そういうものじゃない?」と思ったり、さほど驚かないという人は、できれば最後までこの文章を読んでほしい。(このテーマがちょっと辛いな…という人はここまで見てくれただけでありがたいので、スッと消してもらって大丈夫です。)

検索結果のはなしに続けて、こんな一節があった。

以前、セクソロジーを教える村瀬幸浩先生に取材したとき、一ツ橋大学などで授業を行っていた村野先生は、「レイプの話を授業でしたときに、男子大学生から『今までレイプをセックスのバリエーションの1つだと思っていた』というコメントがあった」と仰った。この話を聞いたとき、いやさすがにまさかそれはありえんちょっと待ってでも怖いまじで‥‥‥と思った。 

いやさすがにまさかそれはありえんほんとちょっと待って‥‥‥とわたしも思った。そんな認識の若者が周りもいっぱいいると思うと、急に心がざわざわして怖くなった。
でも、全否定した頭のなかに、ふと過去の記憶が蘇った。あれ、わたしもそう思っていたかもしれない、と。

ここで少しだけ自分のはなし。わたしは、幼い頃から性に関しての興味関心がまわりの子に比べて強かったほうだと思う。それなのに今はなぜか周囲に下ネタNGキャラだと思われがちなので、みんな分かってないな、と思ったりする。

それは置いておいて、昔何かを検索したときにアダルトサイトに紛れ込んでしまったことがきっかけで、幼心に未知の世界に驚愕し、興味本位でたまにのぞいていたことがあった。そのサイトのカテゴリにはたしかに「レイプ」や「痴漢」の文字があったのを今ふと思い出したのだ。

当時はまだ言葉の意味もきちんと知らなかった。だから本当に、エッチなサイトのなかでいくつかあるカテゴリのひとつだと思っていた。
たぶん意味を知ったのは中学生くらいのとき。流行っていたケータイ小説のなかでレイプの描写があるものがかなり多く、世の中ではこんなことが起こるのか…と、調べてみて初めてレイプが「無理やり性的に暴行を加えること」だと知った。

でも、知ったところで当時は特に何も思わなかった。いや、ひどいなあとは思った。でもたぶんAVもケータイ小説も、わたしにとってはどこかファンタジーみたいな世界だったんだと思う。痴漢のニュースやポスターは見たことがあるけど、レイプというものが現実に起こっているなんて想像もつかなかった。だから、それらが犯罪というほどの重みを持っていることにもピンと来ていなかったし、理解にまで及ばなかったのだと思う。

でも、今なら分かる。正しくは、大学生になって様々な事象を知ったり、勉強してちゃんと理解した。ここ数年、me tooの動きも相まって特にそういった報道が多い。そこかしこで起きる大学生による集団レイプのニュース、芸能人の謝罪会見、つい最近も有名な俳優の事件がお茶の間やSNS上を騒がせた。そのたびに胸が痛む。

レイプや痴漢は性犯罪だ。言うまでもなく、相手の気持ちを尊重せずに嫌がる人を無理やり襲ったり、強制的に支配しようとすることは罪だ。それなのに、AVでは平気でそういったものがごまんと存在する。AV自体はただの娯楽のひとつかもしれない。でもそれによって現実の人間関係でも「嫌がっていても本当は喜んでいる」とか都合のいい解釈をする人が実際ほんとうにたくさんいる。それは身をもって知ったこともある。

「イヤよイヤよも好きのうち」じゃない。勘違いするな。「嫌なもんは嫌」に決まってる。相手が嫌がっているかどうかすら気づけないやつに、誰かとセックスする資格なんてないし、そもそもそれは暴力や犯罪であって、セックスではない。心や身体を傷つけられてたまるか、と思う。 

でも、これもしょせん今だから言えること。一種のファンタジーだと思っていた昔のわたしと、「いやさすがにまさかありえん」男子大学生は大して違わないし、もはや同レベルだ。そんな自分が恥ずかしくて恐ろしくて震える。

世の中で起きる性犯罪の背景には、男子大学生やわたしのように、正しい性に関する知識のない若者が、ぱっと目にしたネットの情報やアダルトコンテンツを鵜呑みにし、歪んだ認識を持ってしまっていることが少なからず関係しているのではないか、と思う。

2016年時点でのGooglは、「痴漢」や「レイプ」は性犯罪である前に、アダルトコンテンツという娯楽のひとつのカテゴリであり、ひとつのジャンルである、と検索結果で示していたことになる。今、わたしはWebマーケティングの会社でメディアの運営をしているので分かる。Googleで検索したときに上位表示される記事やサイトたちは、ユーザーのニーズを満たしているとGoogleが判断しているということ。

Googleさん、ほんとにそれでいいの?それで結局、勘違いしたままいい大人になっていく人が増えていいの?もしかしたら犯罪を助長しかねないんじゃないの?日々Googleの評価に一喜一憂している仕事柄、やるせない気持ちと危機感でぐちゃぐちゃになった。

そこで今改めて「レイプ」や「痴漢」で検索をかけてみると、2019年2月時点でGoogleやYahoo!で上位表示されているTOP10にアダルトコンテンツはなく、すべて被害事例などの記事や言葉の意味を解説しているサイトのみになっていた。

いつも仕事で使っているツールでサジェスト※も調べてみたが、そういった傾向はみられない。
マイクロソフト社の検索エンジンであるBingでは、数は少ないものの娯楽目的でのレイプや痴漢の動画にまつわる検索結果があった。ぞわっとした。
(※サジェストは、検索窓にキーワードを入力したときに下に勝手に出てくる単語のこと。おにぎりだったら「おにぎり レシピ」とか)

小川さんが記していた2016年に比べたら、たしかに世の中は少しずつ変わってきているのかもしれない。でも、あらゆるところで簡単に情報を受け取れる以上、自分の見たものが正しいと安易に信じてしまいがちなわたしたちは、常に危うさを抱えていると思う。つまり、知識がなかったり間違った情報を受け入れることで、いくらでも加害者側になってしまう可能性があるということ。

個人的な感情としては、いったんレイプや痴漢もののAVはこの世からなくなってしまえとか横暴なことを思うけれど、きっとそんなに単純なことじゃないし、それが根本的な解決になるとも思えない。インターネット上の情報を正しいものだけにするのも、簡単なことではない。

女だからとか男だからとか関係なく、一人ひとりが世の中の情報とどう向き合うか。正しい知識をどんなスタンスで受け入れるのか。結局、個々人に委ねられてしまう部分がほとんどなのかもしれない。

世の中で起きている理不尽なこととかショッキングな出来事を前にすると、自分の無力さを感じてひどく苦しくなる。わたしもまだまだ勉強不足で、何をどうしたらいいのか分からない。漠然ともっと影響力があったらなあ、とかどうしようもないことを思ったりもする。

でもこうやって微力でも発信しつづけることで、自分の周りの人たちだけでも少しだけ考えてもらうきっかけになればいいな、と思う。この地球上に本当に無関係な人なんてたぶんいないし、みんなが自然と問題意識を持って議論できるようになったら、社会も少し変わっていくんじゃないかな。

センシティブなテーマなだけに、あんまり友達と気軽にできる話題じゃないかもしれないけど、わたしはもっとみんなと話したい。女とか男とか関係なく、フラットに話せる人やコミュニティがとても好きなので、今度そういう場を自分でつくってみようかな、とふと思った。

#エッセイ #コラム #日記 #ジェンダー #性  

illustration:ameno_yofuke


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