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街路灯は夕暮れより早く

街路灯のあの光は橙色だってなぜかずっと思い込んでいたのだけど、

うす紫に染まる夕方の空に、少しだけ早く光りだす白色のランプは美しくて、ひとつの詩のようで。

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街路灯に目を向けるのは、いつも決まって夜中だった。

等間隔に並んだ、古めかしいかたちのそれをわたしは結構好きで。

街のあかりと混ぜこぜになって、カーブミラーに逆さに映るその様が

水中の光みたいに幻想的だとか思ってときどき立ち止

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唇は赤の哲学

赤の口紅をずっと探していた。

店先で見かければ手にとってみて、時に柔らかい筆先ですっと色をのせてもらったりもして、

それでももう何か月も、何年も、これという赤色には出会えずにいた。

少しずつ、何かが違うような気がして。

深く黒の混ざったような、ヨーロッパのマダムみたいな赤色とか

あるいは中国の美女めいた、朱色に近い赤色とか。

美しい艶のあるものから、寝起きのようにそっけない質感まで

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さよなら春、また来て

ぐずぐずと泣いていたら春が終わってしまった。いつしか初夏になりかかっているのだった。

今年の桜は見事だった。美しい時季に、美しいままで咲いた。

わたしはこんなに幸せなことがあるのだろうかと夜ごと部屋を抜け出して、

すこし高台の家々の隙間から、川沿いの桜の散るさまを眺めてたり、

夜にぽっかりと浮かびあがる白い花びらを、首でも違えたように見上げて歩いたりした。

あるいは気分がもっとよければ、

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エゴイズムの配分

ずっと小さいころ、舞台の稽古をじっと観ていた時間がある。

ひな壇のホール、演出家の隣に座ってただじっと。ことによると、椅子の上で体育座りでもしていたかもしれない。

わたしの腕をいきなり引っ張って、演出家がおもちゃのような腕時計を覗き込んでも小さいわたしは黙っていた。演出家が問う。澪ちゃん、どう思う?

「舞台の上の方が埋まってないです」

はっきり記憶しているけど、わたしはそう答えた。演出家が

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憧れがいまを置き去りにする

ちょっと大人になりすぎたと思った。

背伸びをしすぎたのかもしれない。

その気持ちはふいにやってきた。友人からの映画の誘いを、終電が無くなるからといって断ったときだった。

バスタブの中でわたしはわけもなく悲しくなって、

シルクのパジャマも、上等のニットも、明日履くかもしれないピスタチオグリーンのタイトスカートも、わたしを癒してくれる気がしなかった。

今はどれもこれも着たくない、と思った。こ

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世界を、創り変える服

秋になったら着ようとツイードのスカートを手に入れた。

驚くほど状態の良いヴィンテージで、とあるヨーロッパのメゾンのもの。

そもそも一目見たときから、その生地のたっぷり使ってあることとか、その迫力とか気配の重さとか、

または裏地のほんとうに丁寧にとめられてあることとかに、まったくため息がでそうだったのだけれど、

ジッパーを上げて、腰の留め具を引っ掛けてそれを履いたらそれはただもう、なにか驚異

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