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【5つの物語】4. あいとダニエル #2

あいはしばらくそこから動けなかった。心の底から熱いものが込み上げて来る。それはそれまでの人生で最も感動した瞬間だった。そして本当の感動は静かに訪れるものなのだと思った。

「何を見てるの。」声が聞こえて我に返ったあいが振り向くと、男の子がこちらを不思議そうに見ている。

「ここにね、書いてあるのよ。」

「何て書いてあるの。」

「私には夢があるって書いてあるの。キング牧師って知ってるかしら。その人が1963年の8月28日にここに立って、アメリカ中から集まった人達に向かってそうお話したの。」

「1963年っていつのこと。」

「そうね、あなたが生まれるよりずっと前のこと。私が生まれるよりも前よ。ところで私はあい。あなた名前を聞いても良いかしら。何才かな。」

「僕はダニエル。6歳だよ。でももうすぐ7歳になるんだ。」

「そう。じゃあもうすぐ学校で習うかもしれない。ずっと前にキング牧師って人がみんなに呼びかけて、ここにとてもたくさんの人がやって来たの。今ここから見えるところ全部が人でいっぱいになったのよ。」

「何をしに来たの。僕とパパみたいにリンカーンを見に来たのかな。」

「リンカーンもそうだけど、その人達はね、私達の住んでるこの世界を変えたかったの。みんなで変えようってお話するために集まったの。」

「ふうん。キング牧師って人はどんな夢があるのかな。」

「キング牧師とその時ここに集まった人達は同じ夢を持ってたの。それがこの世界を変えようってこと。」

「どんな風に変えようと思ったの。」

「そうね。ダニエルは自由って知ってるかしら。」

「うん。聞いたことあるよ。」

「自由ってね、とっても大切なもの。みんなにあるように思うかもしれないけど、そうじゃないこともあるの。この国もね、みんなが同じ自由を持ってなかったの。だからみんなが同じように自由でいられるように世界を変えようって。そしていつかそういう世界になるっていうのがキング牧師の夢で、ここに集まった人達みんなの夢だったの。」

「それでどうなったの。」

「そうね、その夢のような世界になったかどうかって言うと、未だ途中かな。」

「あのね、自由ってなに。」

「なんだろうね。凄く難しい質問ね。」

気がつくと、あいとダニエルは階段に並んで腰を下ろしていた。あいはしばらく間を置いてから、再びダニエルに向かって話し始めた。

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