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医師の回顧:〜研修医時代の成長と困難を振り返っみよう〜

2024年に専門医研修を終え、ようやく自律した家庭医のところまで辿り着いたので、研修医として経験した良かった事、そして辛かった事について振り返って共有したいと思い、この記事を書いてみた。


研修医、専攻医とは

イギリスのレジデント(研修医)期間は日本と同じ2年間。その後、専門医になるために専門医研修プログラムを決め、さらに3〜5年間ぐらいの専攻医として研修が続く。

イギリスの家庭医療専門医プログラムは3年間。コロナなどのため延長されることになったので、私の総合研修医期間が6年間だった。

この6年間の間に、心がどう変わったのか、どう成長したのかついて語っていきたいと思う。

私のキャリアパスについて

新米研修医

アイルランドの首都であるダブリンで勉強し、2017年に医学部を卒業した。研修のために渡英したのが7年目になるけど、研修は終わってもアイルランドに戻らず、イギリスで医師として活動している。なぜかというと、アイルランドはあまりにも小さな島国で昇進できる機会が少ないので、イギリスで働きつづこうと決心したのだ。

レジデント(研修医)として最初の仕事がブラックプールという、イギリス北西にある海岸の町だった。低所得者が多く住む貧相な町で、外国人はほぼいない。治安も悪いので、首都であるダブリンからやってきた私は中々の衝撃を受けた覚えはある。

あの町の病院がいつも人材不足のため、イギリスでは珍しい残業が毎日の茶番だった。ヨーロッパでは、週に48時間以上働くのが禁止されているという法律(European Working Time Directive)があるので、労働時間は制限されているはずだったが。それに、多くの患者さんは麻薬中毒やらアルコール中毒やら厄介なやつばかりで、外国からやってきた新米医師としては難易度を高く感じたのだ。研修医期間はたった2年間だけだったけど、この見慣れぬ場所に溶け込むのが相当大変だったので、より長く感ていた。

その後、夜勤や病院の環境が苦手だったので、家庭医になろうと腹を決めた。2020年にブラックプールからマンチェスターへ逃げるように引っ越して、家庭医療専門医プログラムに加入した。

家庭医とは

家庭医とは、病院ではなく診療所で働く総合診療医のこと。赤ん坊や妊婦さんから年配な方まで、あらゆるの年層や病気を診たり対応したりする、内科に似ているような総合診療専門医だ。もし対応できない重病が現れたら、病院に紹介状を書く。

同じ患者さんとご家族も何度も診ることになるので、病院で働く医師さんより親しい関係と信頼を築けるのが本職の特徴だ。それに、疾患だけではなく、心理社会的問題から予防医療まで、全人的に対応できる能力が求められている。

いわば、専門医制度である病院では患者さんは変わるけど、病気が同じ。家庭医の場合、病気が変わるけど患者は同じという事です。イギリスでは「プライマリ・ケア診療」、もしくはGeneral Practitioner(GP)、アメリカ・カナダではファミリードクター(英語:Family Medicine)だと呼ばれている。この名の由来について、家族との関係性を重視しつつ患者さんを診るということらしい。

簡単に言えば、皆の町医者のよう感じかな。日本にはまだ珍しい専門なんだけど、広まっているらしい。大都市より外部や田舎で見られるかもしれない。

家庭医〜専門研修医期間

マンチェスターはロンドン程ではないけど、イギリスの大都市の一つとしてバーやクラブ、若者などに溢れている賑やかな街だ。デビッド・ベッカムのおかげでサッカーとしては有名かな。ロンドンより安くて住みやいので、専門医研修が終わってからも、まだ住み続けている。

私がここに来たのはコロナの最中の最中(2020年3月)だったので、医療側に立つ身としては負担は多く、死亡率も爆上がりの時期だった。

良かった事

人を助けられ、感謝される

人を助けたいから医師になった方が一番多いんじゃないかな。この職業の本来の目的は、患者さんを治療することであってお金や地位ではないので、助けたいという願望がなければ、精神的に苦労すると思う。確かに仕事としては多忙で責任感も重いけど、患者さんに感謝される度に嬉しく思う自分がいる。たまにプレゼントやカードなどもらったりするんで、誰かの頼りになっているって悪い気持ちではない。

信頼関係

医師と患者の間に一番大事なのは信頼だと思う。医師は職業として結構信頼されているけど、100%ではないし、この世の中にやぶ医師も存在している。
信頼されなければ、患者さんは医師が提供した治療法に納得せず、拒否するだろう。でも、信頼される医師になることができれば、そのメリットも大きい。治療を受け入れてくることはもちろん、家族にも言えない事情も打ち明けてくれる。疾患の本当の原因に突き止める機会になれるし、より総括的に対応できる。

忍耐力が自然と高まる

忍耐力が必須。なぜかというと、医師って忙しいだけではなく、人間関係、医療ミス、クレーム、モンスターペイシェントなど色々な事を対応しなければならない。そして、患者さんの大半を助けられるけど、悲劇に囲まれている職業でもある。最初は辛いだろうけど、医師としての道を歩めば歩むほど、どんな困難なことでも乗り越えらる根気を身につけるはず。私は万能な人間とは程遠いけど、新米の時に比べるとより頑丈になったような気がする。

新しい出会い

主に同僚の話になるけど、今まで色々な病棟や診療所で活動してきたおかげで、色々国の方と交流できたし、前にいなかった愚痴仲間や信頼できる友人も得た。イギリスには他国の医師や看護師、患者などが多いから、色々な文化ついて学んだことで私の世界が広がったような気がする。

女性として自立できるぐらい給料が高め

給料が平均より高くて仕事も安定しているのが事実。イギリスの給料はアメリカやオーストラリアほど高くはないけど、平均より高いかな。そして、男女差別がほぼなくて給料も性別問わず同じだから、一人の女性として簡単に生計を立てられるのが大きなメリットだと思う。それに、医師不足のため、就職活動は普通の会社委員ほど難しくない。

辛かった事

「医者であろうと突きめればただの人間だ。大勢の人生を背負える程頑丈じゃない。そんな事は誰にも出来ない。どんな優秀な人間だろうと」
これは「カリギュラ2」というゲームで登場した医師キャラのセリフで、聞いた時にすごく共感できたので、共有しようと思った。

全員を救えない

医師はただの人間であって英雄ではないため、どんなに努力しても救えない命と必ず出くわすことになる。一人や二人より数が多いから、強い精神力が必須だと思っている。最初から持たなくても、自然と鍛えられていくはず。それでも、全員を救えないという事実を受け入れなければならない。

心がどうしても凍結してしまう

研修医一年目と今の私を比べたら、感情を抑えて常に冷静でいられる自分に気づいた。昔、癌や死を始めて対面した時に泣いた覚えがあるけど、今は涙を流すことは滅多にない。特にコロナの時代を乗り越えて、普段より数多くの死と直面させられたせいか、心が凍結されたように、悲劇に慣れてしまったのだ。もちろん医師全員とは言えない。この気持ちは私が個人的に感じたことだけになるんだけど、同じように感じた医師さんもいるだろうなと思っている。習い事や運動のように同じ事を経験すればするほど、気づかすに自然と慣れてしまうのが人間だ。

常に多忙である

どこの国でも医療従事者の仕事が非常に忙しくて残業も多い。夜勤や呼び出し、永遠に増えていく患者さん、そして高齢化の社会でこれからはもっと忙しくなりそうだと思う。労働時間や休日出勤も多いから、友達と出かけたり恋愛を楽しんだりする時間が少なく、人間関係や家族関係を犠牲にする医師もいる。友達がクリスマスやお正月にワイワイしている間に、私は働かされた。

バーンアウト

バーンアウト、いわゆる医師の燃え尽き症候群が増えているとアメリカで判明され、2022年にWHOで正式な病気として定義された。医師の4割がバーンアウトだと思われる。症状はうつ病や過労とほぼ似ているけど、他には仕事に対して否定的になったり、思いやりを持てなくなったり、攻撃的になったりする脱人格化のような状態という症状もある。それに、達成感とモチベーションの低下。

実は私が2回バーンアウトしたことがある。理由はざまざまあって仕事を休まなかったけど、カウンセリングを受けたり、上司がサポートしてくれたりして、数ヶ月後に落ち着いた。

生涯の勉強

新しい研究や治療法がどんどん出てくるから、常に勉強に励む必要がある。医学部を卒業して終わりってことではない。例えば、医学会やセミナーに参加したり、医学論文や雑誌を読んだりすることで知識を深める事ができる。古い治療法ばかりを提供する医師は、ネットで何でもかんでも調べられる現代の世界では、患者さんに信頼されないので。

私はどっちかというと勉強が好きな方なんだけど、新研究や毎週家に届いてくる医学雑誌に追いつくのが正直大変。


環境や経験した事は人それぞれなので、違う意見を持っている方もいるかもしれないけど、少しでも共感できたら嬉しいな〜

そして、すべての職業にもメリットとデメリットはあるけど、好きな仕事であれば頑張れるんじゃないかな。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


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