見出し画像

ストとマニフェスタシオン〜肩を張らずにフランス168

 フランスの « grève »ストと « manifestation »マニフェスタシオンのニュースは今では日本にも隠さず伝えられている。年中行事の様になってしまった国民の権利。権利であって大義名分があるので大いにやればいいのだけれど、どうしても「やりすぎ」感を持ってしまう。回数にしても程度にしても度を越すと意味をなさない。「ああ、またか」「そこまでするか」「あとどうすんねん」。一般市民にはため息と諦めと苛立ちの色が顔にでる。

 「フランスは世界人権宣言の国。だから権利を主張する手本でないといけない。」

 過激な組合の代表の口振や顔つきを見ると、口には出さないが言いたいことがありありと伝わってくる。まるでお祭り。

 この辺りの詳しい話は社会学とかの学者さんにお任せするとして、一市民としてこの示威運動が広くどう受け止められているかを話してみたい。

 はっきり言って迷惑。いつゼネストやるって言ってたんだ?と毎回尋ねたくなる。それほど裾野の市民にまで影響が降りかかる。むしろ迷惑をかける目的でやっている。いくら権利と大義名分があると言ってもねぇ…このあたりが日本人には理解できないフランス人らしい個人主義(自己中心主義)だ。「他にやり方がないか考えろ!」と心の中でいつも叫んでいる。

***

 具体的に何が起こる?いくつか具体例を挙げるが、幸いなことにこれらが同時に起こるわけではない。

1/ 電車、飛行機が止まる

 SNCF国鉄の運転手が石炭を焚べなくなって久しい。この連中が一番酷い。今だに当時の労働環境にいるかの如く権利を主張する。聞かれないとわかると電車を止める。「公共」の概念を持っていない勝手な奴ら。労働者として国から特別なステータスを今だに固守している(例えば55歳定年!)。 « Régimes spéciaux »と呼ぶ。国も言いなりにならざるを得ない状況。国民から最も白い目で見られる特殊な人種。
 「電車」はTGVばかりではない。国鉄の管轄でRER郊外線も当然止まる。このRER、何もなくても老朽化で工事ばかりしている。パリの郊外に住む人たちの動脈であるにもかかわらず、ストとなるとどこかが止まる。いい加減にしろと言いたくなる。
 RATPパリのメトロも同じ。こちらは国の管理ではないが、SNCFと同じように止まる。ただパリ内部に留まるので被害はRERほどではない。パリ市民は慣れっこになっているので、自転車や電動スクーター(今は禁止になったかもしれない)で代用する。そこで5kmほどのこと。たいした差は出ない。
 飛行機も止まるか、もしくは減る。パイロットのストは割と稀。多いのは管制官。ここがやられると飛行機は動けるのに飛行場がストップする。利用頻度が鉄道ほどではないので直接市民に影響が出にくいが、たまにヴァカンス時にやられる。SNCFも狙ってやることがある。これは酷い。北駅、モンパルナス駅などの大きい駅に人が溢れる。クリスマスを家族と過ごせなくなったのはついおととしの話。流石にこの時はSNCF当局が謝らざるを得なかった。

2/ ガソリンがなくなる

 ガソリンスタンドが閉まるのではない。石油精製所が止められる。精製所職員のストもあるが、トラック運転者がでかいトラックで出口を塞いでしまうことが多い。こうなるとジリ貧でガソリン、軽油がみるみるなくなっていく。個人的な話になるが、30km離れた仕事場に毎日車を利用するのでこれは怖い。ストの「ス」の字が聞こえただけでガソリンを満タンにする癖がついてしまった。一回の満タンで約1週間。ストが解除されればいいが、そうでなければガソリン探しにガソリンを使うことになる。それに解除されてもすぐにスタンドが満タンになるわけではない。まるで終戦宣言の後も影響がズルズル長引いている印象を持ってしまう(戦争を生きたわけではないが)。

3/ 店が壊され車が燃やされる

 何でこうなるのか分からない。組合の人間がやっているのではないのは明白なのだが、毎回マニフェスタシオンとなるとどこかで何かが襲撃される。パリで起こる破壊行為は日本にも届いていることと思う。地方、それもうちのような奥まったところでも、正面ガラスを割られたブティックを見かける。国家権力に対する敵視がこれも大義名分を持って顕著に現れる。こうなるとまるっきり « Anarchie »無政府状態だ。警察、憲兵隊はどれだけ暴力を振るわれても市民に手を出さない。出すと逆に訴えられる。暴力と示威行動は別物ではないのか?といつも思い憤慨している。画面で見るだけでは実感が持てないが、燃やされた車を目の当たりにしてみるといい。1回だけあった。危ないとか仕方ないとかではない。あれは気分が悪くなる。吐き気を催すと同時に恐ろしさに震えた。

4/ ゴミが溢れる

 ゴミ回収は公営。ここがストップすると道端に山のようなゴミがあちらこちらに見られるようになる。毎年どこかでやっている。何千トンというゴミが回収されないまま町中に放置されていた。臭いだけの問題ではない。パリのドブネズミは割と有名だが(一時チュイルリー公園のドブネズミが話題になった)これはまずい。時代が時代ならペストが流行っていたかもしれない。実際溢れるゴミを減らすために市当局が民間に依頼したと聞いた。

***

 あげ出すとキリがあるのかないのか分からない。もうお分かりかと思う。実生活に支障をきたすことになる。これが年に何回か、ほぼ予告なしに起こる。それも無期限で…

 「パリ症候群」というものがあるらしい。外国人が、抱いていたパリのイメージと現実とのあまりの差にノイローゼになるということらしい。これはパリに着いて、ゴミの山に出くわすとか、テントとかバラックがあるのを見て理想と現実のギャップにショックを受けることを言うが、ストの最中に旅行に来た外国人は自由に移動もできず、いよいよ悲惨だと思う。

 自分がその立場だったら旅行費返せと言うだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?