リーガルテック研究論文 「法務2.0 リーガルテックのフロンティア」。全連載記事約3万字掲載

第1回連載:
リーガルテック活用による契約法務の変化

1 連載のはじめに

 リーガルテック(Legal Tech)とは、法律(Legal)と技術(Technology )を組み合わせた造語であり、その定義は広範に及ぶ。法律分野に広く関連すれば本カテゴリーに属すると市場又は消費者からは分別され、代表事例では、弁護士マッチングサービス、クラウド契約サービス 、判例検索サービス、法律事務所向け事件管理サービスなどが挙げられる。

 本連載では、日本を含めた諸外国にて日進月歩で発展するリーガルテックサービスを日本の法務部が如何に活用できるか、また、将来活用を前提として、現在の法務部をどう運営すべきかを問う連載とする。法律と技術の架橋を適切に分析、予測することで、インタラクティブ 性の高い特徴を有する「人間」の活用範囲、教育体制、採用方針等、多岐に渡る法務部運営が経営可能となる。現在地点でのリーガルテック事例と、近未来に訪れる予測を紹介する。

【連載予定:目次】
 第1回 リーガルテック活用による契約法務の変化
 第2回 スマート・コントラクト時代における裁判以外の紛争解決可能
 第3回 知的財産権分野におけるリーガルテック進化
 第4回 一般消費者(BtoC)向けリーガルテックの現在
 第5回 裁判所のテクノロジー活用で変わる裁判の利便性
 第6回 AIは弁護士/法務の働き方をどう変えるか

2 契約法務におけるリーガルテックの現在地

 リーガルテックが現在、契約法務に及ぼしている影響範囲を紹介する。契約法務に関連するテクノロジーは、主に3類型に分別することができる。

 1つ目に、契約書の作成、修正等の「契約審査業務」の類型が挙げられる。いわゆるリーガルテックが紹介されるとき、契約作成、審査業務の自動作成、審査が紹介されることが多い。「AI による人間の業務代替」はテーマとして興味深く、物語として読む分には面白い。もっとも、契約書の自動作成、修正は、その本格実用化は難しい。

 その理由は、契約書の取引実務による役割に起因する 。契約書の背後には当然の如く実務上の取引が存在し、取引には、取引関係における力関係、継続取引か単発取引か、他の契約との関連性、業界ごとの商慣習等、契約書に記載された文字認識だけでは完結し得ない力学が介在する。ゆえに、リーガルテック企業が提供できるサービスとしては、「一般論からすると当該条項は委託者にとって不利な条項である」といった一般論のリスク判定、及びそれに対する模範的回答の提示に留まる。当該サービスでも、スタートアップ企業や、大量の取引数があり人的リソースでは対応し切れない企業においてはニーズがあるが、人間の業務を全て代替するには程遠い。

 2つ目は、「契約締結業務」の類型である。当該類型にカテゴライズされる「クラウド契約サービス」は、日本を含めた諸外国において最も導入が進んでいるリーガルテックサービスといってよいだろう。とりわけ日本では、商慣習上「判子文化」が形成されている結果、取引に付随する契約締結時間が諸外国に比べても時間を要していた 。昨今では、3Dプリンタ技術 により、相手方の代表印、又は取引印の陰影さえ取得可能であれば(実際に、取得は至極容易である)容易に判子を生成することが可能であり、企業のコンプラインスの観点からも、インターネット技術を活用したクラウド契約を導入するインセンティブが働いている。

 契約締結業務の中には、契約書の製本・郵送といった直接的業務のみならず、契約締結の前段階として取引先の与信確認、稟議申請及び承認等の決裁の他、契約締結後においても契約不履行時の債権回収業務や訴訟提起なども付随して含まれる。クラウド契約サービス提供企業は、契約の製本や郵送業務の代替機能だけでなく、与信業務、稟議承認業務、債権回収業務をも代替する機能開発に着手・提供している。

 最後に、「契約管理業務」の類型が挙げられる。従来、一部の企業では自社内で契約管理システムの開発を行なっていたが、自社向けにカスタマイズ開発されたシステム導入は往往にして初期費用がかさみ、法務部予算も起因して導入企業数が伸び悩んでいた。昨今クラウドの活用により初期費用なく導入できるサービス も増加し、法務部によるクラウド型の契約管理サービスの検討が進んできている。

 しかしながら、多くの企業では、クラウド型の契約管理サービスは未だ導入が進まず、契約書を有体物(紙)のまま自社保管庫や外部倉庫に保管している場合が大半であろう。検索の利便性を上げることを目的としてデジタル管理を行っている企業においても、紙の契約書をスキャン し、PDF形式にてストレージサーバに保存しているに留まる場合が一般的である。

 テクノロジーの進歩は目覚ましく、契約管理の適切な技術選定により、企業活動における契約管理の在り方は今後劇的に変わることが予測される。企業活動における契約書情報はテクノロジー活用により「生きた情報 」と変貌を遂げるため、法務としては、現在から契約管理の利活用を念頭に置く必要がある。単なる利便性の向上に留まらず、企業活動における法務力の差異に繋がる可能性が高い。

3 「契約書情報」の利活用の意義

 今後のリーガルテックの隆起からみるに、現在から契約書のデータ活用化を前提とした法務運営を行うことが望ましい。

 テクノロジー側の変化点として、OCR 技術の進歩が進んでいる。当該OCR技術を活用することで、過去の契約書をスキャンした際、契約書内に記載される条項を文字として認識可能となる。これらの技術の延長には、以下のような契約管理となる。

 まず、契約書に化体された情報がソフトウェアにより自動認識されることにより、契約締結日、契約開始日、契約終了日、自動更新の有無等、契約の期間管理は自動的に管理可能となる。「効力継続中の契約書は企業全体で5,595件。来月に自動更新の有無を判断する契約はその内852件、92件は通知ない限り効力が切れてしまう」といった情報が自動的に判別可能となり、人的リソースは当該92件の契約継続の必要性を判断するだけに集中することができる。

 また、損害賠償条項に損害額の上限規定が含まれているか否か、支払サイトが30日の契約書の割合調査等、契約内容の適切管理も可能となる。企業活動における事業変化により資金需要が生まれた際、外部資金調達のみでなく、債権の流動性管理によりキャッシュフロー改善を行い、内部留保から投資を行うことなども考えられる。

 そして、契約書情報には「企業活動の証憑」という側面も有する。例えば、二次流通市場では、地域や時期による価格の変動差により利鞘が生まれる業態であり、地域や時期による変動要因こそが事業の優位性となる。そのため、当該市場では、販売員を各地域に張り巡らせ市場調査に余念がない 。調査項目は公開店頭価格等を参考に地域毎の販売価格又は購買価格を決定するが、店頭価格は店頭での値引きやキャンペーン価格等を反映していない場合もあり、正確な情報でないことも多い。その場合、正確な販売価格は、契約書に記載された情報となる。当該市場における企業においては、過去に締結された自社の契約書情報をデータ化し、一昨年と今年の地域毎の販売価格を即時に検索可能とすることで、販売価格又は購買価格の戦略が容易になる。

 あくまで例示事例であるが、取引地域と販売価格の関連分析や、過去取引から部品価格の変動分析など、契約書情報の活用事例は様々考えられる 。

3 おわりに

 法務部員及び弁護士は、1940年代以降「和文タイプライター 」を活用し、手書きから機械による活字化をしてきた。それ以降も、「ワードプロセッサ」、「一太郎 」、「ファクシミリ 」といった、その当時におけるテクノロジーを活用し、法務機能を強化してきた。

 ソフトウェア技術の発展は目覚ましく、得体の知れない「アタラシイモノ」のように一時的に見られるが、時代の洗練さを通過した技術は法務活動に深く根ざした基礎技術となる。近未来で予測可能性の高い事象を、先んじて導入することは法務に限らず、事業活動において重要戦略と捉えられている。本連載では、その技術発展をなるべく客観的に解説していきたいと思う。

脚注:
1 本文脈の上での「Technology」とは、専らインターネット技術を活用したソフトウェアのことを指す。

2 筆者は、クラウド契約サービス「クラウドサイン」(URL: https://www.cloudsign.jp/) を運営している。リリース2年程で契約送信側の導入社数は2万社を突破し、事実上日本のリーガルテックの先進的事例となっているが、本稿では自らの立場をでき得る限り排除し、客観的に記述するよう最大限努める。

3「対話」又は「双方向」のことをいう。ここでいうインタラクティブとは、人間が得意な領域である文脈把握、表情・身振り等のフィジカルアクションの表出、沈黙等の「間」を読み取る能力値等、ソフトウェアによる自動処理では法的対話が困難なことの例えとして表現した。

4 artificial intelligenceの略称。広義の「人口知能」と定義付けられ、一般には人工知能に関する技術を一括りに「AI」と称されることが多い。技術的なアプローチは広範であり、背後にある技術を正確に分析、評価する必要がある。

5 その他、「日本語」の表現の多彩ゆえに機械学習時の判断が困難であること、及びソフトウェア開発に優れた外資系企業の参入が日本語ゆえに事実上困難であることが挙げられる。また、本稿では正面から論じないが、弁護士法第72条による影響も大きい。

6 また、契約書に押印された取引先の「代表印」と「印鑑登録証明書」記載の陰影を照合する手段は、現代実務として機能しているのか、或いは偽造防止機能として他の代替手段より秀でているのか真剣に検証が必要であろう。芸術分野での「文化」とは意味合いが異なる。

7 3次元コンピュータグラフィックデータを元に、3次元の造形物を安価かつスピーディーに製造することができる技術。筆者もラボ研究として、契約書に押印済みの陰影を元に偽造が可能であるかを検証したが、あまりの容易さに驚愕した。
実例を見るに、クラウド「契約締結」サービスが、クラウド「契約保管」機能を兼ね備えている場合も多い。

8 文字情報を光学的に読み取り、デジタルデータ化する技術。現在はコモディティ化し、付加価値としてOCR技術を搭載される傾向にある。OCR技術については、後述。

9 情報は固定された量的知らせであるが、受動媒体(この場合、人間)により如何なる加工処理するかにより「生き死に」が決定される。例えば、車の運行情報は従来も計測可能であったが、加工処理により、最適な都市デザインに活用できるようになった。

10 Optical Character Recognitionの略称。光学文字認識のことを指し、文書内の画像を文字コードに変換することができるソフトウェアのことをいう。

11 最近では、フリマアプリ「メルカリ」を代表として、消費者と消費者(インターネット業界では「CtoC市場」という)との取引において、二次流通市場が活性化されており、その場合にも取引市場の情報格差が利鞘に大きな影響を及ぼす。

12 昨今、名刺をデータ化することにより営業活動を組織的に行うことができるサービス(代表事例として「Sansan」)が浸透している。従来まで活用されていなかった紙文書をデータ化することで「生きた情報」とするという概念は、同様であろう。

13 ワードプロセッサが流通するまで文章の活字化を支えた機械装置。和文(日本語)は欧文より文字数が多様に過ぎ、その専門性から、タイピスト技能検定などの資格試験なども実施されていた。

14 株式会社ジャストシステムが開発した、日本語ワードプロセッサ。Microsoft Corporationが開発する「Microsoft Word」に徐々にシェアを奪われたが、日本の裁判所や官公庁での利用など、長らく日本のワードプロセッサを支えた。

15 いわゆる「FAX」。画像情報を通信回線にて伝送する機器のことをいう。その技術は1840年代に発明され、長距離送信技術として1800年代から本人確認の立証などに利用された。

第2回連載:
スマートコントラクト時代における裁判以外の紛争解決可能性

1 スマートコントラクトとは

 近年シリコンバレー を中心とするテクノロジー都市では、「スマートコントラクト」に対する期待が高まっている。スマートコントラクトとは、ソフトウェアプログラムで動作する自動執行プログラムのこと である。ソフトウェア言語で記述可能な形式で「契約」を締結することで、契約上記述した条件が到来すれば記述通りのプログラムが発動し、自動執行が可能となる革新的なテクノロジーと評価される。

 現在社会ではあまり意識的にはならないが、企業又は個人間で取引を行う際、取引先の信用懸念(カウンターパーティーリスク)が常に存在している。そのため、取引には中央政府や金融機関等の信頼ある仲介者 の存在が必要となるが、その代償として、取引主体たる企業や個人は仲介者に対して高いコスト支払い、社会生活を営んでいる。そのイメージしやすいよう、代表的事例を先に述べよう。

2 スマートコントラクトの代表事例:不動産売買

(1)不動産取引における仲介者の存在

 不動産売買は、売り手と買い手との間に存在する信用不安が、動産と比較して相当程度高く、歴史的にも様々な仲介者を介して取引が行われてきた。古くは律令制下においても、土地の売買には官庁の許可を要した上、売買成立時には管轄地の役所に対して公験 の交付を申請し、申請を受けた郡司 は要件審査を行い、公験案を作成していた。かかる公験はその後国司 に移送され、国司による承諾により土地売買の効力が発生した。

 現代の不動産取引においても、物件査定、物件調査、権原の確認、契約等の書類管理、売買代金預かり及び精算、登記事務などの業務を、日本では宅地建物取引業法に基づく宅建業者が司法書士や土地家屋調査士などの専門家と連携しながら取引仲介を行い、当事者の不動産取引に介在している。更に、不動産取引の前提として、中央政府である法務局が登記管理者として正確性を担保している。

 その結果として不動産仲介手数料は一般的には売買代金の売買代金の3% +6万円のコスト(厳密に言えば、これに加え印紙税、登録免許税、都市計画税、消費税等の税負担コスト)が発生し、当事者の負担とされる。取引に対する信頼担保のために第三者である仲介者に支払うコストの代表事例といえよう。不動産取引には、日本でも不動産の正当な所有者に成りすまして売買を行われた事例 や、買主が売主に手付金を支払ったにも関わらず返還されない事例など が多分に想定され、信頼の置ける仲介者の必要性が高い取引事例といえる。

(2)不動産取引におけるスマートコントラクトの活用事例

 スマートコントラクトを活用した場合、不動産売買は上記仲介者の存在を失くす可能性があると期待が寄せられる 。既に米国バーモント州サウスバーリトン市において、バーモント州の法律事務所である「Gravel&Shea法律事務所」と組み、初めて不動産取引を、ブロックチェーン技術を活用して取引を完了している。諸外国においては実証実験から、取引の試験運用フェーズに入り始めている。

 不動産取引においてスマートコントラクトを利用することで、二重売買の防止、権原者への成りすまし防止、資金決済と登記移転の同時履行、第三者対抗要件である登記手続の24時間365日対応等が可能となる。仲介者が必要なくなることは、当事者の財務的コストを大幅に軽減することになり、取引の円滑性は大幅に増す。その理由について、スマートコントラクトの基礎技術であるブロックチェーン技術について簡単に紹介する。

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リーガルテック研究論文 「法務2.0 リーガルテックのフロンティア」。全連載記事約3万字掲載

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橘大地