法律事務所運営にサブスクリプション方式要素を入れる場合の指針

昨今サブスクリプション方式が経済活動の中で注目を浴び、法律事務所運営にその要素を組み入れられないかの議論が一部で始まっています。

前職が顧問サービスを中心とした弁護士活動経験があり、現在はクラウド契約サービス「クラウドサイン」事業責任者にてサブスクリプションビジネス(≒BtoB SaaS)を提供する立場から、少しでもヒントになることはないか書いてみたいと思います。今回は企業法務向け企業の顧問先へのサービスを念頭に置きます。

サブスクリプション一般に関する2019年予測は以下記事をご参考にください。BtoB SaaSのIPO事例が複数出て、飲食店などでもサブスクリプション方式が採用されるなど、現在時点では予測通りになっています。

従来の企業顧問契約はサブスクリプション方式か

この議論になると、では従来の企業顧問契約はサブスクリプションモデルではないのかという疑問が出てきます。そもそもサブスクリプションとは何なのかを簡単に説明したいと思います。

サブスクリプションの本質は、所有するものから利用するものへのパラダイムシフトにあります。よって、販売方式は買い切り型からサービス型にシフトしていき、これを「XaaS」と呼びます。よく言われる従量課金制度は馴染みがあるだけで、サブスクリプション方式の必須条件ではありません。代表事例が「Software as a Service」の略称の「SaaS」です。従来までインストール型のソフトウェアを買い、バージョンアップの度に購入してきましたが、サブスクリプション方式では月額利用料を支払えば、バージョンアップ費用などはかからずに永続的に利用が可能になります。

それが音楽の分野ではCD買い切りではなく「Spotify」が台頭し、映画の分野では「Netflix」が台頭し、遂に自動車でさえトヨタが「MaaS」分野に参入を表明し、全てが「XaaS」 化してきています。今までも家を買うか、賃貸かなどは典型例ですが、家具ごと利用型にシフトさせるイノベーションを起こしているのがインドユニコーン企業の「OYO LIFE」です。

このようなサブスクリプション方式が隆起する中、従来までの企業顧問契約は「XaaS=Legal as a Service」になり得ているのでしょうか。答えは、一部はYesと考えます。企業顧問契約の種類にもよるので一概に断定はできませんが、一般的なモデルである「複数時間分のタイムチャージ分を月額固定費用とし、設定時間を超えた場合には時間当たりタイムチャージを課金する」を念頭に置くことにいたします。

一部Yesの意味合いですが、月額固定費用内のタイムチャージ分を事前購入し、事前購入した枠内でおさまる範囲の法律相談であれば、顧客から見て予測可能な法律サービスであると評価できます。実際に一部大手法律事務所においても、対スタートアップ企業に対してはフレンドリーな価格帯で企業顧問契約を打診している実態もあり、サブスクリプションモデルとして機能していると考えています。

よく議論になるのが、超過金額の予測可能性です。超過金額のタイムチャージ費用は事前予測できるも、依頼した内容が超過しているか、またはどの程度の時間超過するかの予測がつかないような現象です。法律事務所/顧客間のコミュニケーションの問題ではあるのですが、事後的請求が基本になっているのもまた事実です。

外資系法律事務所では、顧問先向けに現状の稼働時間とその内訳の最新状況を確認できるクラウドサービスを提供している事務所もあります。また、サブスクリプション型法律事務所と呼び声の高い「Atrium」では、事前見積り制度を運用し、事前見積り時より時間が超過しても見積り金額しか請求しない方針をとっているようです。詳細は、以下記事から。

Atrium」の重要な視点は、ビラブルアワーの構造にあります。課金体系がビラブルアワーであると、(プロフェッショナルの倫理的観点から逆誘引は働かないと信じるものの)ツール導入する業務効率化に逆誘引が働くことに問題があると彼らは言います。ここでは深入りしませんが、彼らの主張は重要です。

より重要な、プロアクティブ視点

(自分から書いておいてなんですが)重要なのは従来のモデルがサブスクリプション型かどうかの判断よりも、より顧客のためになるサービスモデルがないかの視点です。ここで参考になるのは、買い切りモデルから「XaaS」化にあります。要するに、限界費用を個別化するのではなく共通化することにあります。

顧問企業毎に業務委託契約書を作成するカスタマイズ性は絶対に重要ですが、汎用的/共通化できる部分は顧問料の範囲で無料公開をすることです。そしてその共通化作業は、常に毎月最新アップデートされる必要があります。利用規約やプライバシーポリシーの雛形など、アプリ型、SaaS型、メディア型など、汎用的な条項はどんどん顧問先であれば無料提供/アップデートをしていくことです。

また個別相談ニーズや自社に適したカスタマイズも必ずありますので、オフラインでの共通セミナーとセミナー後の個別相談実施などで、共通化と汎用化で限界費用をバランスを取ることができます。こうすることで顧客からの発注型の個別法律相談費用を構造上は下げることができます。

ざっくり作成したくらいですが、例えばこういうモデルです。

このようなプロアクティブモデルを採用することで、ソフトウェア活用による顧問サービスを提供するインセンティブが発揮されます。

法律事務所側が顧問先管理SaaSを活用し、顧問先企業が従業員を採用始めた場合にはSaaSサービスから就業規則作成の必要性がアラートされ、雛形の無料提供と就業規則作成方法の過去セミナー動画を無料で提供することができます。そして個別カスタマイズする部分だけを個別相談することでビラブルアワーを顧問料金の範囲に含めることができます。また、このような機能が顧問先管理SaaSに備わっていれば、顧問先企業が積極的に顧問法律事務所にSaaSを通して情報登録をするように構造上なります。

他にもサブスクリプションから学習することはあります。顧問先企業からNPS測定することで改善点を計測する手法、終わりのない製品開発をするようにプロダクトである法令情報、契約書雛形、チェックリストを磨き続けるプロダクト開発など、学習の視点があります。

以上、駆け足でブログを書いてしまいましたが、サブスクリプション事業運営の立場から法律事務所運営の視点に触れてみました。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

お読みいただきありがとうございます( ´ ▽ ` )ノ

(´ー`)ノ⌒θ
25

橘大地

サブスクリプションビジネス