オトナプリキュア 感想

私はプリキュアをあまり視聴していない。
何故ならばプリキュアは女児アニメだからであり、26歳の成人男性が視聴するのは倫理的によろしくないのでは、と思っていたのだ。
しかし、マクガイヤーチャンネルというアニメ、映画、おもちゃなどのオタク文化を解説・批評するチャンネルがあるのだが、プリキュアをそのチャンネルの動画で度々取り上げている。その動画には当時アラフォーのオタクがプリキュアを語っており、視聴者の対象は4~9歳の女児、19~30歳の男性と説明していたので、私も見てみようと思ったのである。

それでは、キボウノチカラ ~オトナプリキュア'23~のレビューをこれから書いていく。


1.劇画オバQを想像していた

劇画オバQをご存じだろうか。
オバQの15年後、正太とQ太郎が再開して、大人になった正太と15年前から変わらないQ太郎との差が、大人になることの悲哀と漫画家が自分だけ子供向けの漫画を描いていて、学友は安定した仕事をしているという取り残されを描いている作品と言えるのだ。

そんなオバQのように子供の頃、一緒にプリキュアだったかつての仲間たちと再会して、プリキュアだったころを回想しながら社会の荒波に揉まれるというアニメだと思っていた。
放送がNHKだからスポンサーも付かない、ということは新しく変身することもないだろう。

子どもだった主人公が大人になった作品は、子供のときの力を取り戻すことが出来ない。それは子供のときの力の源が若さゆえの純粋さのためであり、大人になると立場や家庭、ストレスなどからそんな力を持てない。
それが子供が大人になるということである。

しかし、その浅はかな予想は外れていた。
それは良いことである。

2.対象視聴者は誰か?

この記事の冒頭でプリキュアの対象者は4~9歳の女児と19~30歳の男性が対象だと伝えた。
「ふたりはプリキュアSplash Star」、「Yes!プリキュア5」と「Yes!プリキュア5GoGo!」はそれぞれ2006年~2007年、2007年~2008年、2008年~2009年に放送された。
「ふたりはプリキュアSplash Star」が放映された年に4歳だった人は現在22歳である。同作品が放映された年に9歳だった人は現在27歳である。
放送当時見ていた子供が女児だった場合、成長後はプリキュアの対象にはかぶらない。男児が見ていた場合、成長後はプリキュアの対象内である。

では、オトナプリキュアが現在20代後半の男性だけをターゲットにしているのか。
それは違うと思う。
この作品は、全ての大人たちのためのヒーロー作品であるといえるのだ。
その理由をこれから述べていこう。

3.プリキュア版仮面ライダーBLACK SUN

オトナプリキュアを見て考えたことは、この作品は仮面ライダーBLACK SUNと似た方向性を向いているのではないかということだ。

3-1 朝のプリキュアでは出来ない描写

オトナプリキュアは朝のプリキュアでは出来ない描写を描いている。
朝のプリキュアで離婚や別離などを描いた話はあったらしいが、ここまで生々しくはない。
どのように生々しいかといえば、離婚話で父親が酒に溺れたり離婚によって転校先が決まったり転校先に目的のクラブが無かったりといった具合だ。

また、朝のプリキュアでは子供が視聴対象であるため、教育アニメではないのに教育に悪いことはしない。
しかし、オトナプリキュアでは売れ残ったご飯を捨てたり、飲み干したビールの空き缶を捨てたり、バズるためにスイーツの写真を撮って食べなかったりといった教育に悪い描写をしている。
これは、対象年齢が大人であり善悪の分別がついているから、視聴者を信頼して教育に悪い描写をしているのだと思う。

一方、朝のプリキュアでは現在放送されている「わんだふるぷりきゅあ!」のように教育に良い=子供の視聴を意識した描写をしている。
いろはがニコの実を食べて「グミみたい」と感想を話すと、犬の姿のこむぎが食べようとしたら制止する。犬には害だから食べてはいけないからという理由なので、こむぎが人の姿になって食べるというシーンがある。

このようにペットには人が食べるお菓子を与えてはいけない、料理は楽しく作って楽しく食べる、のように教育アニメではないのに教育に良いことを教えるという社会的な役割を果たしている。
それがプリキュアを20周年続かせた要因かもしれない。

3-2 社会派プリキュア

オトナプリキュアは社会派な一面をもっていると思う。
のぞみが学校の授業で環境問題のことを話していたし、劇中でも何度も取り上げられた。それにラスボスの行動原理も環境問題による都市の崩壊という理由だった。
ラスボスの行動原理も環境崩壊というガンダムなどで取り上げられる悪い意味の大きなテーマでなくて、環境問題によって都市に災害が起こってしまい、人が他の地域へ移ってしまうことで都市がゴーストタウン化してしまうという、良い意味で身近な話題になっていた。
環境問題と自分たちが住んでいる街とを繋げることで、考えやすいテーマにしているというのは巧い構成だと思った。

個人的には環境問題と戦争とを共に人災と表現しているところが良かった。
シャドーが生まれて街に滅びが迫っているときの空を、雪城さなえが戦争のときの空と似た色をしている、と言っていた。
オトナプリキュアを視聴したときは環境問題がラスボスの動機と聞いて、環境問題の天災の部分だけを取り上げるのかと思った。
環境問題には天災的な側面が確かにある。
例えば、大雨や高熱、海面上昇などの災害だ。ただ、人の経済活動によってそれらが引き起こされやすくなっているということもあるので、人災といえる。
そして、ラスボスの動機が「人々によって引き起こされた環境破壊から街を守るため」であるから、人災の側面を見ているのだ。
戦争も人災である。責任者がいて初めて引き起こされるものだからだ。
今、世界で引き起こされている戦争と現在猛威を振るう環境問題とを人災とすることで、避けられない悲劇でなく乗り越えなければいけない課題とする。そのことにより、視聴者をエンパワメントする。そんな思惑があるから社会派な作品といえるのだ。

目次1で劇画オバQと比較していたが、劇画オバQは読者を勇気づけるためのものではなくて、児童誌のネタをシリアスにしたらというのがテーマである。
つまり、子供の理想論は大人の現実(ただし、昨今の露悪的な「リアリズム」といえる」)に勝てないということだといえる。
一方、オトナプリキュアでは子供じみた理想論こそ現実的(破滅が近づいているから)であり、希望(夢を見つけて頑張れば叶う)と絶望(人の行いによって破滅が近い)を描いている。
希望と絶望を描いている点では、2023年の12月に公開された「ゲゲゲの謎」を連想してしまう。
「ゲゲゲの謎」も夢を見つけて頑張れば叶う希望と人の行いによって破滅が近いという絶望を描いている点、問題提起が現代の問題である点を私は連想する。

3-3 政治と社会の密接さ

前項に似た話題ではあるが、述べていきたい。
政治と社会の密接さを描いているように感じた。
ミルクが故郷で総理大臣になったのだが、そのときに民から意見を募集するのだ。
困っている人から意見を聞いて、政治に反映する。
このシーンが社会的なテーマを描いていると思った。
私が社会性を感じたのはこのシーンだけではない。
個人的なイメージだが、プリキュアは学生生活と世界の危機とを社会を描かずに繋げている印象があった。

ラスボスが召喚した怪物が街を壊していく。
街が壊れていくのを食い止めるプリキュアを応援する市民たち。
そんな市民たちにブンビーが「あなたたちの街なんだから、あなたちが頑張らないと」という意味の台詞を言う。

この市民たちは私たち視聴者のことだ。
現実の世界でも熱波、大雨や強くなっていく台風などがある。
私たちは気にしていないが、この環境問題によって熱波によって亡くなる人、大雨や台風によって家を流される人がいるのだ。
それは遠い国の物語でも異世界の物語でもなくこの日本でも発生していることだ。

子どもは「プリキュア頑張れ」で良いのだが、大人はプリキュアではなく自身の問題として頑張らなければならない。
そんな厳しさを感じた。

話を戻そう。
市民が自身の問題として考えないから、ラスボスが行動を起こした。
街を壊されても自分事として捉えず、他人事と捉えてしまう。
未来を変えるには希望を持って、現実を変えていかなければならない。

現実を変えるための行動や考えをまとめるのが政治だとミルクを通して伝えているのがこの物語である。

4.仮面ライダーBLACK SUNと異なること

BLACK SUNの世界にはヒーローはいない。
私欲を肥やすために権力にすがる小物の悪、過去の女に囚われた私怨で動くもの、目の前の弱者を助けようとしない者と出てくる登場人物が多少は悪であるというのがBLACK SUNだ。それはバイオレンス映画の方式で作られているドラマだからヒーローはいない。

オトナプリキュアにはプリキュアというヒーローが出てくる。
だが、プリキュアの力を使えば体にダメージが蓄積する。
これは環境問題に取り組めば、仕事を休むなどして生活に影響を及ぼすかもしれないということといえる。
そのため、プリキュアに頼りっぱなしではいけない。
自分にできることを探して実行することこそプリキュアになれるということなのだ。
つまり、この映画は誰だってヒーローになれるし、ヒーローになろうという映画だ。
マクガイヤーの言葉を借りよう。
俺たちがプリキュアだ。

5.最後に

オトナプリキュアを見て、何をすれば良いか分からない大人はたくさんいると思う。
忙しい仕事に安い酒を飲んで寝る生活に追われているだろう。

そんな私たちにも万能アイテムがある。
スマホと本だ。
スマホで調べたら海洋中にはマイクロプラスチックが漂流していて、人がそれを摂取しているという話がある。
それが気になっているなら、情報の出どころの本や記事を購入してリテラシーを身につける。

小さい話だがそれが環境や社会に気を付ける対策だと思う。
後は、そんな話や対策を取る政治家や学者を調べる。

これくらい出来るなら自分を褒める、これがヒーローになる入口だろう。


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