見出し画像

やさしくノックする音

「あなたはいつかきっと、幸せになれる」

精神科医の宮地尚子氏は、訪れる患者さんに対し、たびたびそう伝える。

下の引用は、以前の自分に伝えたい言葉だ。

「幸せになんてなれるはずがない」と思い込んでいた人、「幸せになんてなっていけない」と思い込んでいた人には、過去の呪縛から解き放たれるための言葉が必要になる。恐怖にすくんだ人が足を伸ばし、歩きはじめるには、未来を捕捉する言葉が必要になる。
実際の命綱やガードレールがどんなに頼りなくても、人はなにかが、もしくはだれかが、自分の安全を守ろうとしてくれていると感じるときにのみ、人として生きられる。『傷を愛せるか』宮地尚子

誰かにそう言ってもらえるだけで、救われることがある。本当に救われるかどうかはわからないし、どんなに言葉を投げかけてもその命綱は届かないかもしれない。でも、自分の殻のなかに閉じこもっていても、その助けようとする姿は感じ取ることができる。ノックする音が、聞こえてくる。

何もかも閉ざし、耳を塞ぐような時間も、きっと必要なのかもしれない。世間や人とのあいだに壁を作って、これ以上傷つかないように、傷が深まらないように、ただただ暗い部屋で引きこもる時間が。
それでも、ときどき優しくノックしてくれる音が、再び外の世界に飛び出すための安心感を与えてくれる。

専門家の言葉だけが、頼りになるわけじゃない。身近にいる人、たまたまネットでつながった人、こころを動かす音楽、絵、写真。役に立つわけでもない、頼りないものかもしれないけれど、そういうものに助けられることがある。すくんでいた足が、また動く。力が入っていた身体が、ほぐれる瞬間がある。

だれかを助けることは難しいし、とても勇気が要ることだ。実際に、絶望を抱えた人に対して、他人ができることはそんなに無い。だから、ときどきやさしくノックをする。ノックの音に気づいてくれたらいいな、と、でも無理ならゆっくり休んでいていいよ、と、思いを込めて。あなたはいつかきっと、幸せになれる。

読んでいただいて、ありがとうございます。お互いに気軽に「いいね」するように、サポートするのもいいなぁ、と思っています。