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igokuというぶっ飛んだ、いわき市の福祉メディア

先日、尼崎のまごころ茶屋という薬局が営むコミュニティスペースのオープニングイベントにて「igoku」というメディアのはなしを聞いた。

パッと見ただけで、なんかふつうの市役所のやるようなメディアとは違うのがわかる。だって「死ぬ人たち」なんてことがタイトルに書いてある。ケアの対象である人たちを、そう呼ぶことは反感や批判を招くかもしれない、ふつうはそう思ってそんなことを書かない。たしかに、高齢者は「死」に近い人たちだけど、それはタブー視されている。

本当は「死」のその前に話しておきたいことがたくさんあるはずだ。死ぬ前にどうしてほしいのか、死のその瞬間はどこで迎えたいのか、死んだあとはどうしたらいいのか。あるいは、死なないように、長く生きるために、準備しておくことはなにか。残された人のために、動ける今のうちにできることはなにか。「死」をタブー視していては、本当に話したいことが話せない。

地域包括ケアのシステムは、もともと介護が必要になるその前の段階から、より地域のネットワークを緊密にして、その予防に努めたい、という趣旨で生まれている。上の図は、厚生労働省のHPからの引用だ。

それまでの医療・福祉政策は葉っぱのところばかりに注目してきたけれど、その根っこの部分、土、鉢、そして鉢受けの部分がなければ、葉っぱは枯れてしまうのではないか、そんなことを表している。(※説明がなければ絶対分からない図だ。)

多様な生き方の「選択肢」を守る。「死」もその選択肢の一つだ。本人が選べる状態にあるときに、正しく選ぶことができて、周りの人もそれをちゃんと聞いていて受け入れることができる。
そんな死が迎えられるように一生懸命動いているのが、地域包括ケアであり、その周りで働く看護師・保健師・薬剤師・ヘルパー、医師や職員など、さまざまな専門家だ。

一生懸命働いている人たちのことをもっと知ってほしい、そしてこういうケアの仕組みがあることを知ってほしい、使ってほしい。そんな強い思いから「igoku」というメディアは生まれている。

起ち上げてからのスピード感もすごい。3年足らずのあいだに、ウェブメディア、フェスイベント、フリーペーパーの刊行などさまざまな企画を行い、その内容も奇抜で面白いものばかりだ。
イベントでは、棺桶を並べて入棺体験をする。VRで認知症体験をする。普通のフェスらしく騒ぐ。プロカメラマンの記念撮影もある。もちろん、遺影のための記念写真だ。

「igoku」はウェブから始まったが、その読者は10代から100歳の高齢者まで幅広い。インターネットなんて知らない、という人も多い。
だから紙を出す。最初の3部のタイトルは「やっぱ、家で死にてぇな!」「いごくフェスで死んでみた!」「パパ、死んだらやだよ」。「死」が続くことに、さすがに呼び出しをくらったらしいが、1度抑えたあとに最新号は「認知症解放宣言」。とても面白い。

ぶっ飛んでいて、タブーを壊して、ずかずかと地域に入り込んでいく。おばあのおひたしがとてもおいしい、ということに紙面を割く。認知症は周りの人が作っているんだ、と説く。それなのに、写真も文章も素晴らしい。とても行政がやっているメディアとは思えない。
どんな人が作ってるんだろうと、とても楽しみにして話を聞いたけれど、やっぱりとんでもないオッサンが作っていた。市役所の人とは思えない風貌の変人だった。話の途中もジジイとかババアとか平気で口にする。それまでも散々部署に迷惑を掛けながら、転々と移り変わっている。移り変わるスピードも早いのはたぶん気のせいじゃない。

でも、こういう人にしか、このメディアは作れない、とは思わない。基本的な考えは、ほかの地域包括ケアと一緒だ。すり鉢を整える、その考えからはみ出るようなことはしていない。ただ、遠慮なく、リスクを考えずに動き回っているだけで。

根っこの考えがちゃんと通じているから「igoku」は、破天荒なように見えて、同じように地域包括ケアに取り組んでいる人にとっては共感できる魅力的なものになっている。どの地域包括支援センターも、地域への入り込み方に悩んでいるし、手をこまねいている。どうしたら取り組みを知ってもらえるか考えているけれど、アイデアがない。
実際、自分の地域の支援センターがどこにあるか知っている人がどれくらいいるだろうか。

真似できる部分は、きっとある。小さなことでも、知ってもらう取り組みを「igoku」から学ぶことができる。ぶっ飛んだものはインパクトはあるけれど、属人的なものになる。これが単発で終わらないように、ぜひ「igoku」のことをもっと全国の自治体に知ってもらえたらいいな、と思う。そうやってたくさんの人に知ってもらうことが、たくさんの人の「幸せな最期」につながるから。

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