マガジンのカバー画像

捨てる人

14
僕はいろんな物を捨ててきた。その抒情を800字で。
運営しているクリエイター

記事一覧

菓子パンを捨てた

 菓子パンを捨てた。
 ポケットにハンカチを入れ忘れたとか、予約していたのに散髪に行くのを忘れてた、みたいなことは皆の衆も日常茶飯事だと思う。

 今は昔、当時勤めていた職場の人から菓子パンをもらった。聞いたことのないマイナーなメーカーの、クロワッサンみたいなパンで、ありがとうございますとは言ったものの、全然美味しそうでなかった。その人のことをあまり好きではなかったから、余計にそうなったのかもしれ

もっとみる

巨大なカレンダーを捨てた

 巨大なカレンダーを捨てた。
 僕が小学生の頃の話。近所の酒屋のおっさんが、なぜかコカ・コーラ社のカレンダーをくれた。自分の身長よりも大きかったから、おそらくB0サイズぐらいはあったと思う。下の方にちっさく申し訳程度に3ヶ月分の暦が配置されていて、一応、カレンダーの体は成しているものの、ポスターのほぼ全面はコカ・コーラっぽい爽やかなイメージの写真が占めている、イメージ広告のための販促ポスターである

もっとみる

落ち葉を捨てた

 落ち葉を捨てた。
 ピカソが朝食の焼き魚の骨からインスピレーションを得、粘土に押し当てて、骨の型を取って彫刻作品を作ったというエピソードが妙に印象深くて、ずっと記憶にこびりついたままで、今も時々思い出す。誰も見向きもしない、身近にある物でも、それをどう使うかでアートが生まれるとかうんぬんかんぬん偉い人は言うのだけれど、きっと誰もが、そんなんピカソだからですやん、僕らがやってもゴミが増えるだけです

もっとみる

インクジェットプリンターを捨てた

 インクジェットプリンターを捨てた。
 インクジェットプリンター(音引きを付けたほうが素人ぽさが出て良い)に対する世間一般の不満といえば、およそ次のとおりである。

 いざ使おうとすると、たまにしか使わないせいで、起動のたびにヘッドクリーニングが始まり、大量のインクが消費される。実際の印刷に使ったインクより、ヘッドクリーニングで使ったインクのほうが多いぐらいだ。そしてヘッドクリーニングでインクを使

もっとみる

ワークマンの靴下を捨てた

 ワークマンの靴下を捨てた。
 口コミなんてものを信じてはならない。クチコミなどというものは一人の誰かが言っただけの、n数=1の、まるで信用ならない情報である。「地元民御用達、知る人ぞ知る中華の名店です。あんかけチャーハン最高!」という口コミを信じた僕は、旅行先で塩っ辛いだけの焼き飯を食った。雪の飛騨高山。

 人間、それなりに年を積み生きてくると、大体の日用品は自分にぴったしくる一品が見つかり、

もっとみる

自動車教習所の通学カバンを捨てた

 自動車教習所の通学カバンを捨てた。
 高校3年の冬に通った自動車教習所。背が低く出っ歯の教官はネズミと呼ばれていた。タツノという教官は理不尽に怒るので皆が予約を避けていた。二階の教室の隣の休憩室でローソンのサンドイッチを食べた。友人も僕も原チャで通っていたが400ccのバイクで通っていたT君。駐輪場に整理整頓と書かれた張り紙があり、そこで頓の字を初めて知った。好きだった同級生の女子に偶然出会えて

もっとみる

スキー場のチケットを捨てた

 スキー場のチケットを捨てた。
 リフト券というのは意外と高くて、1日券だと大体、4000円とか5000円ぐらいする。お金に余裕のなかった若い頃の僕は少しでも安くあげようと、シーズン前に発売される前売りチケットを購入した。3枚綴りで確か1万円弱だったと思う。普通に買うより1000円ぐらい安くて、しかもレストランの食事券とドリンク券まで付いているから、実質半額ぐらいになって、なかなかお得なのだ。一緒

もっとみる

鉄分サプリメントを捨てた

 鉄分サプリメントを捨てた。
 国家資格の受験日が迫っていたあの夏の候、試験勉強は毎日我武者羅に取り組んでいたが、それだけでは不安は消えてくれない。漠とした不安感を乗り越えるべく、能力&脳力、即ち身体的ポテンシャルを最大限まで引き出すにはどうしたら良いだろうと、色々と苦心した。迫る試験日、理解できない公式、溜まるストレス、の複合的重圧。こういう差し迫っていて精神的余裕がないとき、僕はいっつも正常な

もっとみる

サボテンを捨てた

 サボテンを捨てた。
 リビンクの40V型液晶テレビの傍らに、寝室の無印良品製デスクの片隅に、小さい観葉植物を置いている。心が休まるので、植物は好きだ。植物が成長していくその様に明日への活力を与えてもらう。生きる力に満ちたその姿に魅了される。中でも、サボテンはその見た目の愛らしさが良い。今までも何度かサボテンを購入して育ててきた。そして毎回枯らせてしまっている。申し訳ないと思う。理由は毎度同じだ。

もっとみる

LED電球を捨てた

 LED電球を捨てた。
 自宅のリビングの照明はちょっと特殊で、丸型蛍光灯2個とその上部に白熱灯3個がついていて、この白熱灯がよく切れる。白熱灯も決して安くないから、ランニングコストが意外とかかる。ならば、この白熱灯をLED電球に交換したらいいのではと奮発、いきおい3個買った。よくわからないメーカーの製品はすぐ切れるような気がしたので、パナソニッ!のやつにした。放熱性を高めるためにフィンがついてる

もっとみる

ナイキのスニーカーを捨てた

 ナイキのスニーカーを捨てた。
 道頓堀川と御堂筋が交差する一等地に立つ、今は驚安の殿堂が訪日客相手にドラッグを売りさばいている12階建てのビルに、スポーツタカハシが入っていた頃、そこでナイキのバッシュを買った。エアレイドというモデルで、X状の2本の交差したストラップが甲を覆っていてフィット感が良い。とても気に入った僕は当時毎日のように履いていたが、このストラップの脱着が面倒なこともあり、徐々に儚

もっとみる

車載用スマホホルダーを捨てた

 車載用スマホホルダーを捨てた。
 詳しい目的は覚えていないが、愛車の車内にスマホをセットできたら便利だろうと思い、車載用スマホホルダーをホームセンターで買った。自分のスマホとのサイズを間違えてしまうと意味がないので、通販ではなく、ふむと実物を手に取り品物を確認した上で購入した。抜かりはない。僕はそういうちゃんとしている人だ。

 いざクルマに戻り、パッケージを開封し、取扱説明書の詳読もほどほどに

もっとみる

スウェットを捨てた

 スウェットを捨てた。
 古着屋で980円で買った真っ赤なスウェット。店で見たときはおしゃれに見えたが、いざ日常では、いささか気恥ずかしく、一度は着て出掛けたものの、その後はすっかり2軍落ち。ずっとクローゼットで眠ったままになっていた。
 でも、せっかく買った服なのだしなんとかならんかな、と時々は思い出したりしてはいた。ハンガーに掛かっている姿は悪くはなかった。
 そんな折、ネットでブリーチ染めの

もっとみる

プラカラーを捨てた

 プラカラーを捨てた。
 何年か前、オートバイのプラモデルがとてもかっこよく思えた時期があって、自分でも作ってみようと思い、カタナ1100のプラモデルと、プラカラーやら接着剤やらを、大手電気店で唯一の関西資本ジョーシン電気は阪神タイガースを応援していますで買ってきた。休日の午後、早速組み立ててみようと箱を開け、ワクワクしながらランナーからパーツを切りはずし、接着剤を断面に塗ってみて、あかん、と思っ

もっとみる