スキー場のチケットを捨てた

 スキー場のチケットを捨てた。
 リフト券というのは意外と高くて、1日券だと大体、4000円とか5000円ぐらいする。お金に余裕のなかった若い頃の僕は少しでも安くあげようと、シーズン前に発売される前売りチケットを購入した。3枚綴りで確か1万円弱だったと思う。普通に買うより1000円ぐらい安くて、しかもレストランの食事券とドリンク券まで付いているから、実質半額ぐらいになって、なかなかお得なのだ。一緒に行く友人の分も立て替えて3セット買った。秋の僕の財布から約3万円の支出だ。
 冬になりシーズンインし、いざ出発の初夜、どこを探してもあの前売りチケットが見当たらない。引き出しという引き出し、ポケット、小物入れ、書類ケース、タンス、カバン、を探したが出てこない。友人をいつまでも外に待たせるわけにも行かず、結局その日はチケットを使わずに通常料金を払って滑った。実質倍損。
 帰宅して、家探しを再開するもチケットは発見されない。最悪だ。節約したいからと買ったチケットが出てこないなんて。本末転倒もいいとこだ。これはもう、阿呆みたいな顔してスキーに行ってる場合じゃない。ショックが大きい。精神的ダメージで当分立ち上がれない。
 探すのをやめたとき見つかることもよくある話と、かの人は歌うけれど、何日経てどもチケットは出てこない。いつしか、雪解けの、薫風新緑の季節。結局チケットは出てこないまま、シーズンが終わった。
 数年後、あの時探したはずの引き出しの奥からチケット3枚が、郵送されてきたそのままの姿で出てきた。なにかドラマチックな後日談があるわけでもなく、珍妙なオチが伴うわけでもなく、ただそこにあった。なんでだ、なんであの時に見つけられなかったのか。その理由もわからずじまい。納得できる要素がなにもない。なんにもない! 誰にぶつけていいのかわからない怒りとともに、価値0円の紙切れ3枚をゴミ箱へ投げ捨てた。

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