ポメ部長の叱咤激励(仮題) 第1話 『スマホアプリ』

「トマト君、ちょっと」
「はい、何でしょうか、ポメラニアン部長」
「先日お願いしたスマホアプリの企画書なんだけど」
「はい」
「昨日、メール送ってくれたやつ、見てるんだけどさ、何だねこれは」
「なにかまずい箇所ありましたでしょうか」
「まずこれ、君の考えてくれたアプリの名前さ、ティックトックって読むの?」
「そうです」
「意味分かんないじゃん。普通さ、ツイッターとかさ、フェイスブックとかさ、インスタグラムとかさ、なんとなくイメージできるじゃん、でもなにこれ、ティックトックって、時計が針刻んでるの?」
「そうなんですよ、よくわかりましたね、部長すごい」
「いやすごいじゃないよ。それとさ、これ、こんなアプリ誰が使うの? 10秒だけ動画を投稿できるって。今どきユーチューブでもなんでも時間無制限で使えるようになってるんじゃないの?」
「そうなんですけど、逆にアリかなって思いまして」
「10秒足らずの動画がループしてるのをずっと見るわけ?」
「そうです」
「ターゲットは女子中高生だよね」
「そうです、ティーン層です」
「女子高生が皆でおんなじ動画ずっとぐるぐる見続けるわけ?」
「ないですかね」
「ないと思うねー。ちょっとした狂気だよ。それと、この、参考イメージで付けてくれてる写真だけどさ、これ何。東尋坊? 女子中学生が東尋坊行ってきましたってあんまりなくないか。場所のチョイスが渋すぎるよ。っていうか、そんなことのためにこのアプリ使うか?」
「まあ、イメージなので例として…」
「あと、もう一つの写真だけどさ、これどこ? トマト君とこの自宅?」
「最近建てたんですよ」
「そういうことじゃなくて、これ。場所、玄関だよね」
「そうです。玄関先で娘に協力してもらって写真撮りました」
「女子中高生がネットに動画アップするために、玄関先でダンス踊るわけ? 周りの目とか気になってダンスとかできないでしょ。玄関先でダンスしてる人見たことある?」
「たしかに、これ撮影してる時、近所の人の目線が痛かったです」
「でしょ。あとさ、これ音はどうなってるの? 音付くの?」
「もちろん! そこは抜かりないです。楽曲はミュージシャンとかレコード会社と提携して著作権フリーで使わせてもらえるように今交渉中です。とりあえず、アプリリリースの時には1曲だけ許可もらえるようになってます。」
「なんて曲?」
「め組のひとです」
「え?」
「あ、滑舌悪くてすみません。め・ぐ・み・の・ひ・と、です。」
「滑舌じゃなくて。め組のひと? ラッツアンドスターの?」
「そうです。」
「はああああ??? 女子中高生ターゲットのアプリだよね。それで使える曲がめ組のひと? ラッツアンドスター? どういうこと??」
「10秒の動画なんで早送りバージョンですよ!」
「テンポの問題じゃないよ、大丈夫か、この企画。で、この最後のページだけど、デコレーション機能が付いてるんだ?」
「そうです、顔認識で犬になったり、シルクハット被ったりできます」
「それさあ、エクスペリアがやったけど結局誰も使わなかったじゃん。なんであえて再挑戦するの?」
「それだけじゃないです、美白機能とデカ目機能と、人工知能によって手足を細く補正してくれるスリム機能も付いてます」
「白くて目がデカくて手足が細いってロズウェル事件の宇宙人じゃんかよ」
「だめですかね」
「まあ、上に通しては見るけど、だめだろこんなアプリ」

 続く。

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