鉄分サプリメントを捨てた

 鉄分サプリメントを捨てた。
 国家資格の受験日が迫っていたあの夏の候、試験勉強は毎日我武者羅に取り組んでいたが、それだけでは不安は消えてくれない。漠とした不安感を乗り越えるべく、能力&脳力、即ち身体的ポテンシャルを最大限まで引き出すにはどうしたら良いだろうと、色々と苦心した。迫る試験日、理解できない公式、溜まるストレス、の複合的重圧。こういう差し迫っていて精神的余裕がないとき、僕はいっつも正常な判断を下せないのだ。ろくでもない事をする。
 外の騒音をシャットアウトするために耳栓にこだわってみたり、初老が飲むようなイチョウ葉エキスサプリを買ってみたり、集中力が向上すると謳うチョコレートを買ってみたりしたりした。どれも効果はなかった(個人の感想)。

 愚者の愚行はそれだけで終わらない。さらに鉄分サプリメントも飲み始めた。理由もなく飲み始めたわけではない。自分の中で成立していた理屈としては、脳がマックスフル回転するためにはエネルギーと酸素の補給が欠かせない、それらを運んでいるのは血液だ、鉄分を取れば血が増えるに違いない。という段階を経ていたのだが、合ってるんだかどうだからよくわからない。
 ただ言えることは、貧血気味の女性でもないのに成人男性が鉄分サプリメントを常飲すると、なんだか日に日に体がだるくなってくる(個人の感想)ということだ。鉄の摂りすぎは肝臓に負担がかかると後から知った。あのだるさは沈黙の臓器からの無言のメッセージ、阿呆かお前鉄分とりすぎじゃ、だったのかもしれない。アイアンパワーで脳ミソの処理速度がマックスフルスピードになるかというと決してそんなことはなく、むしろ逆効果(個人の感想)であったという事を伝えたい。結局、7割ぐらいを残して捨てた。

 結局、その年の試験は合格には至らなかった。翌年、正攻法で勉強して無事に合格できた。サプリにもチョコレートにも頼らなかった。

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