”ダッドシューズ売り場”にて

 こないだイオンモールに行ったら靴屋の一角にダッドシューズコーナーが作られてて、デカデカと「DAD SHOES」って書いてあるわけですよ。興味のない人には何のことかさっぱりわからず通り過ぎてしまうでしょうけど、これはもう、なんていうかすごい何重にも入り組んだメタのメタのメタみたいなことになってるわけで。ダッドシューズっていうのはおとんが履いてそうなもっさい感じの、でも、おとんが履いてないファッション的エレメンツを備えたシューズ、そんなシューズをエッジーな俺はディグして、救い出して、こうやって履いてるんだぜ。おめえらにディグできんのか、あ?っていうマウントの取り方に妙味があるわけで、「コレガダッドシューズダカエカエオマエラ」って言われたら、それはもうダッドシューズじゃなくなる、だってそれで若者がみんな買ったら、それは若者が履いてるヤングシューズやん、ダディは履いてないやんっていう勢力図になるでしょ。しかも、そのダッドシューズコーナーがあるのが、イオンモールの中のちょっともっさい、量販店の靴屋やから、ダッドシューズを最初にディグしてた人たちはそういうとこに埋もれてた、ださかっこださださかっこいい日陰の名品に正当な評価を与えていたわけやから、お前ンとこの店がそれやったら、その前提が崩れるやん、だから一線は越えてくるなよ、お互いウィンウィンで行こうぜっていう不可侵条約違反みたいなところがある。しかも、そこで紹介されているダッドシューズが、ダッドシューズとして作られたシューズなので、本当のディグされてきたダッドシューズではなくて、ダッドシューズ的非ダッドシューズをダッドシューズであると紹介して、ダッドシューズをディグできない、選定眼のない一般人に売りつけようとしてるんやからもう、話がややこしい。さらに言えば、そんなふうにダッドシューズが取り上げられるようになってしまった今、もはやあの頃ダッドシューズを履いていたディガーたちはもう、ダッドシューズを履いてないんですよね。というか、そもそもダッドシューズをディグしていたような人たちが世の中にどのくらいいたのか、ブームを作るためのブームであって、雑誌の中とランウェイの上でしか見られない幻、本当にそんな人達が存在したのかどうかすら実は怪しんでいいのかなっていう、そこまで考えさせられる奇妙な構造です。

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