なぜロンドンなのか?〜美術館で体験したヴァーチャルとリアルの融合〜

実はロンドンは、ほぼすべての美術館や博物館が無料です。主なものを挙げると、大英博物館、ナショナル・ギャラリー、テート・モダン、テート・ブリテン、ナショナル・ポートレート・ギャラリー、ヴィクトリア・アルバート・ミュージアム、自然史博物館、科学博物館、もうとにかく沢山。

こんなに全てを無料で市民に開放してくれているのは、他では米国ワシントンDCのスミソニアン博物館ぐらいではないでしょうか

先学期は入学直後という事もあり、ついつい学校+実用的なビジネス系の予定で自分を忙殺してしまい、一つも行くことが出来ず、とってももったいないことをしたなぁと、反省しまして。今年の目標は「ロンドンという都市の文化をしっかり味わう」に決めて、2週間前の大英博物館を皮切りに少しずつ訪問し始めました。

そしてついに、一昨日、テート・モダンに行ってきました。目的はモディリアーニ展です。

テート・モダンは初めて来ましたが、変電所を改装した不思議な建物でした。もともとの発電所は、赤い電話ボックスの設計で知られるサー・ジャイルズ・ギルバート・スコットの設計だそうです。

近代美術の展示収蔵をしていたたテート・ブリテン(当時:テート・ギャラリー)がスペース不足に陥り、大きな展示面積を持つ建物として使われなくなって荒廃していたこの建物に白羽の矢を立て、この建物を活用して美術館を作る為のコンペを開催。結果、1995年にヘルツォーク&ド・ムーロンというスイスの建築家のペアが勝ち取り、建設されたのが現在の姿とのことです。余談ですが、安藤忠雄もコンペに参加していたとのこと。

建物に入ると、がらーんとした空間が広がっていて、下のフロアには絨毯が惹かれて沢山のブランコが立ち並び、巨大な球体がロビーの中をゆっくり横切っていく本当に不思議な空間。

で。肝心のモディリアーニの人生を辿る展示、とっても良かったです。

展示はもちろん面白く、彼の生い立ちをたどる形になっていてとても楽しかったです。更に、当時の人の動きを見られる動画コーナーでは、当時モディリアーニが親交を深めていたピカソ等の画家たちとの交流が見られたり。あぁ、この人たちって本当に生きていたんだな。という当たり前ですがなかなか実感する機会がない事に改めてハッとしたり。

珍しかったのは、VRのヘッドセットをつけて、彼のアトリエに座って中の様子を体験できる展示。

イタリアの田舎から憧れのパリに移り住み、同じ様にパリに憧れて集った芸術家達とつるみながら創作を続け、第一次世界大戦と結核に翻弄され、南に移住し、酒に溺れて、最愛の女性とお腹の子供を想いながらアトリエの椅子に座る。

前半の展示を通して知った彼の人生に思いを巡らせていると、アトリエの窓から降り注ぐ雨音がとても寂しく聞こえ、隣の建物の煙突から立ち上る暗い煙が何かを訴えている様で少し苦しい気持ちになり、でも、戦争中でも愛する家族と暮らしながら創作活動を続けられてよかった、と、安堵する気持ちもあり。

彼の事を振り返る友人たちのコメントを聞きながら、モディリアーニと自分が重なるような、不思議な体験でした。

VRの最後に遺作の自画像が目の前に現れ、モディリアーニが絵を描いていた席に座っていることに気がつくのですが、寂しくて、愛おしくて、なんとも言えない気持ち。

そして、VRを出て最後の展示の部屋に入ると、一番奥に遺作の自画像の実物が飾ってあります。

VR空間ではヴァーチャルだった絵や空間に対する認識が、最後にリアルと融合して、モディリアーニの一生を通して、自分の人生について深く考えるきっかけになりました。

これまでVRはジョイポリスでゾンビを打ち殺す経験しかしたことなかったのですが(Zero Latency)、こういう活用方法もあるんですね。とても面白い体験だったので、ご興味ある方にはお勧めです!

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