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学校には通っていた。それでもオルタナティブスクールを選んだわけ

2023年6月に開校した神戸市灘区にある「ラーンネット・あーる」。今回は、9月から通っているAくんのお母さまに、ラーンネット・あーる(以下、あーる)に入学するまでの経緯や大切にしている教育観について聞きました。

Aくん プロフィール
年齢:7歳(小学校1年生)
入学時期:2023年9月
好きなこと:図鑑を見ること、お絵描き


学校に通い始めてから、息子の様子に変化が

—— あーるに通い始める前は、どのように過ごしていたのでしょうか?

もともと地元の公立小学校に通っていました。ただ、徐々に「つまらない」と言うようになって…。学校では先生が言うことを基本的にはすべてやらなければいけないので、そこに退屈さを感じていたようです。

幼稚園に通っていた頃は、目を輝かせながら大好きなお絵描きに毎日没頭していたのですが、小学校に入学してからは帰宅後にゴロゴロしていることが増えましたし、お絵描きも全くしなくなりました。妹にすごく強く当たることもありましたね。

—— それでも、学校には通っていたのですね。

そうですね。友達と関われることは楽しかったようで、「学校に行きたくない」と言うことはありませんでした。なので、他の学校やスクールへ通うことを考えるほどではなかったですし、家でできることをやったり、学校が終わったあとの時間に好きなことをやらせてあげたりすればいいかなと思っていました。

—— 公立学校に通わない選択をしたのは、なぜだったのでしょうか?

これはきっかけの一つではあるのですが、あるとき息子に「自由帳をたくさん買ってほしい」と言われました。「どうして?」と聞くと、「授業中に隠れてお絵描きをする」と言うんです。例えば、学校では授業でひらがなの書き方を練習するときに、全員が書き終わるまで手を膝の上に置いて待っていなければいけないんですよね。あの時間が苦痛だったようです。「隠れてお絵描きをする」というのは、息子なりにその時間をどう過ごしたらいいのか考えた上での答えだったんだと思います。

でも、学校は生活の中でかなりの時間を過ごす場所なのに、そんなに我慢させてしまっていいんだろうか?と改めて考えました。「もっと伸び伸びと自分らしさを出していいんだよ」と言ってあげたかったんですよね。

大好きな図鑑をきっかけに、カタカナや漢字を学ぶように

—— それで、学校以外の場所を探すことにしたのですね。あーるのことは、どのように知ったのでしょうか?

息子が通っていた幼稚園の園長先生が、子どものやりたいことを大切にするようなオルタナティブスクール出身の方でした。その先生との出会いがきっかけで、「オルタナティブスクール」という学び場が全国にあることを知ったんです。それでいろいろ調べていく中で知ったのが、ラーンネット・グローバルスクール(※)でした。

※ラーンネット・グローバルスクール:「ラーンネット・あーる」をはじめ、未就学児から中学生までの子どもを対象にしたオルタナティブスクールを運営している。

学校とは違う場所に通わせてあげたいな…と思っていたタイミングであーるが開校すると知って、説明会に参加しました。そこで初めてスクールディレクター兼ナビゲータの齊藤勇海さん(以下、いさみん)と出会い、「余白を大切にする」という理念を聞きました。まさに、我が家で大切にしてきたことと同じだと感じたんですよね。息子も「あーるに行きたい」と言っていたので、迷わず入学を決めました。

—— あーるに入学して、Aくんの様子はどう変化しましたか?

好きなことに没頭できる時間が十分にあるので、そこで満たされているからか自分のやりたいこと以外にも意欲的に取り組むようになったと思います。以前は教科書を見ることも嫌がっていたのに、今は「面白い!」と言って、自分から読んだり内容について質問してくれたりしますね。その変化には驚きです(笑)

図鑑を見ることがすごく好きで、最近は自分で図鑑に書いてある文章を読みたい気持ちが出てきたようです。それで、自分からカタカナや漢字を勉強し始めました。

今、子どもが「やりたい」と思うことを大切にしたい

—— あーるでは国語や算数などの基礎学習の時間はありませんが、その点についてはどのように感じていますか?

国語や算数などの学習が全く必要ないとは思っていません。知識として身につけておいた方がいいことはあると思います。ただ、強制的に学ばせるのは違うかなと。「何のために学ぶのか?」を子ども自身が納得していないと、意味がないと思うんですよね。

将来のために受験をさせたり習い事に行かせたりした方がいい、という考え方もあると思いますが、我が家では、それよりも「子どもが今やりたいと思うこと」を一番大切にしています。息子の場合は、図鑑をきっかけにカタカナや漢字を学び始めたように、結果的に基礎学習につながっていくのではないかなと思っています。

—— ご家庭の中では、お子さんとの関わりで意識していることはありますか?

日常生活の中でも学べることはたくさんあると思っているので、親としても子どもの興味を広げられるようにしたいなと思っています。例えば、子どもが本を読み終えたあとは、「どんなお話だった?」「どこが面白いと思った?」と質問をして、内容を深く理解したり自分自身が感じたことを言葉にできるようにしています。

あとは、親子で手紙を書き合ったり交換ノートをしたりもしていますね。息子がやりたいと思って選んだドリルやプリント学習もやっています。今はこれで十分だと思っていますが、成長に応じて子どもと相談しながら変えていくと思います。

あーるには、“自分ごと”として考える環境がある

—— どのようなところに、あーるの魅力を感じますか?

自分の好きなことを自由にやる余白があり、さらに少人数なので、「存在を無にして指示された通りに動けばいい」という環境ではないんですよね。なので、自分が何を感じているのか、どうしたいのかを常に考える必要があります。それがすごくいいと思っています。他人事ではなく、自分ごとで動いていける人になるのではないかなと思います。

そして何より、いさみんの考え方にはとても共感しています。オルタナティブスクールとしてはまだスタートしたばかりなので、保護者として協力できることはしていきたいなと思います。

—— 普段は保護者同士でどのような関わりがありますか?

お迎えに行ったときに他の保護者の方とお話しする機会があるのですが、皆さんとてもあたたかい雰囲気で話しやすいですね。公立学校だといろんな価値観の方がいるので、子育ての方針についてオープンにしづらいと感じることもありました。

もちろん子育てに正解や不正解はないと思うのですが、少なくともここではあーるの理念に共感している人が集まっているので、安心して話すことができます。

—— 最後に、子育ての中で大切にしていきたいことを教えてください。

子どもが生まれるときに夫婦で話していたのは、「子ども自身が自分のことを大切に思える人になってほしい」ということでした。自分自身が感じていることや考えていることは、すごく価値のあることです。それを大切にできたら、きっと周りにいる人のことも大切にできるようになると思っています。そのためには、「子どもにとってどんな環境がいいのか?」「親はどう接してあげたらいいのか?」とずっと考えてきました。

以前は公立小学校に行くことが当たり前だと思っていましたが、いろいろ調べたり実際にあーるに入学したりしたことで、公立に行くことはあくまで選択肢の一つでしかないこともわかりました。楽しく学校に通っている子どももいれば、そうではない子どももいます。

今私たちが選んだ教育が正解かはわからないし、たった一つの正解があるわけでもないと思っています。大切なのは、「子ども自身が生き生きと過ごしているかどうか」ではないかなと。迷ったときは「どうする?」と子どもに問い、一緒に決めていくことを大切にしていきたいと思っています。


取材・文:建石尚子


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