「生き延びるすべ」について

昨日の領域うちうち忘年会ではとても大切な話を交わした.参加メンバーがワタクシ以上の年長者組と30歳台ポスドク組に世代分離していたので自然とそういう流れになったのだが.

そもそものきっかけは,若手研究者の「テニュアトラック上のポスドクでも “不安” からは逃れられない」という問題提起だった.彼が言うには「テニュアトラックの五年間の業績をどう評価されるかわからない」ので不安を覚えるそうだ.その意味で任期付き研究員やポスドクは〈不安の世代〉だと言い切る.仕事してアウトプットを出していれば問題ないだろうと返答してもやはり不安はぬぐえないという.とくに,独法研究所の場合,合併などの組織改編が大規模かつ頻繁にあり得る.彼が言うには,研究環境ががらっと変わったときに,自分のしている仕事を評価する側の視点もまた変わってしまうのではないか,そのときにはどう対応していいのかという悩みらしい.

ワタクシはこう答えた:「われわれのような[所内的に]マイナーな研究領域では,どうせ所内的な評価は上っ面だけなんだから,そういう皮相な評価者による評定を気にしすぎて,自分の研究内容を “over-fitting” するのは戦略的にまずいだろう」と.続けて「第一,研究組織が変わったりして評価者が異動・退職してしまえば,あるいは所属機関の基本方針が変わってしまえば,そもそも “over-fitting” するだけの価値はないだろう.新しい評価者や新しい基本方針が出現するたびに最初から “over-fitting” し直すのはむなしいというしかない」と言い添えた.

ここでもうひとりの年長研究者が発言:「所内での評価なんか気にしていたらダメになります.農水省の研究所はもともと悪しき意味での “公務員” 的な空気が漂っているので,管理職や評価者の言うことに従っても将来は拓けません.もっと “外” に出ましょう」と.彼いわく:「いったん “外” に出て広い人脈ネットワークをつくり, “外” の研究資金を取ってきた上で,独法の “中” で仕事をするように心がければこわいものは何もない.そうやってアウトプットをちゃんと出し続けている研究者は強い」.

確かに,独法的にマイナーな分野の研究者はマンパワーもなければ資金的にもきびしい.組織改編の際には最後まで “着地点” と身の振り方が決まらずやきもきすることが常である.周囲を見回したところで,研究者人生における “ロール・モデル” を身近に見つけることも簡単ではない.独法研究所でマイナー分野の研究者がキャリア形成をしくじるケースがあとを絶たないのは,当人の個人的資質や努力の欠如に主たる原因を求めるわけには必ずしもいかないだろう.ただ,そういう逆境を何度か乗り切れば,そして不運にも “淘汰” されなければ,その先の研究者人生を生きていくすべは身につけられるかもしれない.

所属する研究組織に対して “over-fitting” するなというのはワタクシ的にはもっとも重要な個人的スローガンである(この点に関してはいっさいブレはない).いろいろな外圧(政治的・戦略的・経済的)によって独法研究所の組織は変わっていくだろうが, “中” の関係者がそのつど右往左往しても疲弊するだけ.所内的にマイナー分野の研究者は,独法研究所の “中” でむなしくじたばたするよりも, “外” で「出る杭」「出過ぎた杭」になるのが研究者戦略的にはいいかも. “中” で「杭を出す」といろいろめんどくさいことになりかねないけど, “中” での存在感を消して “外” で暗躍すればまったく問題ないだろう.

というわけで,はからずも年長研究者ふたりの意見が合致した夜だった.研究組織や管理職や評価者はけっしていつも自分のことを考えてくれるとはかぎらない.独法研究所に在籍する若手研究者はもっと「したたか」になった方が身のためだと強く思う.

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