ホロライブは客をよく見ている

はじめに

 既に色々な所を騒がせた通称ホロライブ無許諾配信問題。今回は7月30日から発生した一連の出来事によってファン層にも大きく認知されたがその反応はまちまちであるように見受けられる。
私個人はここにホロライブの戦略の上手さ、悪く言えば狡猾さを垣間見た。勿論これはホロライブプロダクションが悪徳という断定するものではなく、よく客層を見ていてマジョリティ層が望む事をよくわかっているという意味だ。
今回は騒動の経緯と共にその辺りの個人的な推察をメインにしたいと思う。

出来事の整理

 まず一連の流れに直接関係する出来事を下記に記す。ホロライブ周辺で起きた小火というか小規模炎上や問題事項は他にも掘ったら色々出てくるが、今回の騒動に直接的な関係無いものは割愛する。
①:6月1日、任天堂株式会社(以下、任天堂)が著作物の利用に関するガイドラインを更新
②:6月5日、株式会社カバー(以下、カバー)より「弊社における無許諾配信の不手際のお詫びと今後の対応につきまして」が発表
③:7月30日、カバー所属タレント大神ミオの配信アーカイブが株式会社カプコン(以下、カプコン)による著作権侵害申立により削除
④:7月30日、ホロライブ所属タレントの投稿動画、配信アーカイブが大量に非公開になる
⑤:7月30日、カバーより「権利者様の許諾を得られていない著作物使用に関するお詫び」が発表
⑥:8月1日、カバーより「任天堂株式会社の著作物に関する、包括的使用許諾契約締結のお知らせ」が発表

一連の出来事に補足として下記を挙げる
・カバー所属タレント大神ミオが7月30日午後3時過ぎのツイートにて放送をお休みする事になったと発表。休止時期、休止理由についてその時点で説明は無し
・7月31日にカバーより「弊社所属タレント「さくらみこ」についてのお知らせ」が発表。概要はカバー所属タレントさくらみこが持病によって活動継続するにあたって芳しくない状況が続き、療養に専念するため1~2ヶ月の活動制限を行うというもの

6月1日

 事の発端となったのはこの日に行われた任天堂の発表だった。
■任天堂の著作物の利用に関するガイドライン更新
既に騒動を取り上げた記事、動画等を追っている人は飽きるほど見たと思うので、要点を下記に記す。
・QAの№9にて「別途契約を締結した下記法人については法人業務として任天堂ゲーム著作物を利用した投稿が可能」と記載
・上記法人リストの記載内に「株式会社カバー」の名称は無い
・一方で、同業とも言えるいちから株式会社は①の法人リスト内に記載がある
この出来事から同じような業態を取っており任天堂著作物を用いたコンテンツ投稿を行っていた別法人は包括契約されているのに、カバーは無契約状態で任天堂著作物を用いたコンテンツ投稿を行っているという疑惑がファンの間で発生した。これを事実上肯定する形になったのが次の6月5日の発表である。

6月5日

 カバーより「弊社における無許諾配信の不手際のお詫びと今後の対応につきまして」が発表。こちらも概要を纏めると下記のようになる。
①:カバーは個人事業主クリエイターの支援を行う業態を取っていた。
②:任天堂著作物を利用したゲーム配信については個人向けのガイドラインを参照していた。
③:②の為、法人として個別に許諾を得ておらず無許諾配信を実施していた。
④:③とは別に、一部企業については個別で配信許諾を得ていた。
⑤:④以外の企業について、③と同様の無許諾配信を実施していた。
⑥:③について、カバーから任天堂へ直接問い合わせ、下記回答を得た。
  「これまでに配信した動画については収益化をOFFにする事を条件に現時点において非公開にしなくて良い」
⑦:任天堂以外のゲームIP(⑤)についても改めて配信許諾の可否について確認中
⑧:弊社関係者によるSNSの不適切な投稿
⑨:再発防止策の制定や権利確認の徹底を進める事で対策とする

 6月1日のガイドライン更新について問題視された点についてはカバーが②および③の中で自社の対応ミスと明かしている。任天堂との問題視された部分については⑥にて問い合わせ及び回答が行われている。この6月5日の発表以降はカバー所属タレントは任天堂著作物を用いた放送は行っていないが発表以降は収益化OFFを条件としても放送が禁止されていたのか、自主的に行っていなかったのかは不明である。但し権利問題をクリーン化するまで控えるという対応は至って正常と考える。

ここで気になるのは④の部分である。②の事由についての理由を①で示している通り、カバーの発表前時点での認識は「カバーとして確認する必要がある許諾は個人対象のもの」だったという事になる。つまり④で得ていた一部企業についての許諾は個人対象で個別に許諾を得ていた事になり法人としての包括契約は行われていないはずである。もし包括契約した上で許諾を得た企業が別途に存在するなら任天堂に対しても法人として包括契約を締結するあるいはその要否を確認するのが当然であり、悪く言えば相手によって自分の業態の解釈を都合良く変えていた可能性が疑われる。対象が個人/法人で許諾条件(契約料など)が変わらない企業であれば問題は起きなさそうだが、仮にこれまで許諾を得た企業の中にも本来包括契約の必要があるものに対して個人対象の契約を締結していたといった事があったとすれば、まだまだ爆弾は内在している可能性がある。そもそもが何の根拠も無い仮の話な上にあったとしても6月5日の発表以降で企業間で見直しがきちんと行われて合意が取れていれば問題は無い。カバーの言う確認徹底がちゃんと実行される事を願う。

7月30日

 6月の一件で企業発表まで出す大事にはなったが、今後は気を付けていきますで収束に向かっていった中で眠っていた不発弾が爆発する事になる。
■カバー所属タレント大神ミオの配信アーカイブが著作権侵害申立により削除
大神ミオが2020年1月11日に行った「ゴーストトリック」の配信アーカイブカプコンから行われた著作権侵害の申立により削除されるという出来事が起きた。これは6月5日の発表より以前に行われた配信アーカイブであり、厳密には「事態の再発」ではない。だからこそ問題なのだが。
■ホロライブ所属タレントの投稿動画、配信アーカイブが大量に非公開になる
今回の動きが大きくファンに知られた一番のターニングポイントだったとも言えるのがこのアーカイブの大量非公開化。ここは単なる出来事ではなく様々な背景が見え隠れした部分でもある。
まず押さえたい要点として
・この時に著作権侵害の申立によって削除対象になったのは大神ミオの配信アーカイブのみ
・アーカイブの非公開化対応は全タレントのアーカイブに及び、その数は最終的に1万本以上になった
この2点である。この騒動を追いかけていれば既にご存じの方も多いかとは思うが、これは下記の要素に起因すると推測されている

誰にでも間違ってしまうことはあります。著作権侵害の警告を 1 回受けても、初回であれば事前警告として取り扱われます。著作権侵害の警告を初めて受けた場合は、コピーライト スクールを受講する必要があります。コピーライト スクールでは、著作権とは何か、そして YouTube ではどのように著作権が保護されているかについて学べます。
警告を複数回受けると収益化に影響が出るおそれがあります。また、ライブ配信が著作権侵害により削除された場合は、ライブ配信の利用が 90 日間制限されます。
著作権侵害の警告を 3 回受けた場合:
・アカウントと関連付けられているチャンネルがすべて停止されます。
・アカウントにアップロードされたすべての動画が削除されます。
・新しいチャンネルを作成することはできません。
引用:Youtubeヘルプ 「著作権侵害の警告に関する基礎知識」

要するに著作権侵害警告を幾度も受けるとそのアカウントに関連付けられているすべてのチャンネルが停止措置を受けるの条項により影響がホロライブ全体に及ぶ可能性から大神ミオだけではなく全てのタレントのアーカイブについて対応する必要があったというのが最も有力視されている説である。
日付上は同一日だが時間としてはこの非公開化が始まったのは深夜3時近く、対応も一斉ではなく順次に消えていくという様相でありリアルタイムで出来事を見ていたTwitterなどでは動揺の声も挙がっていた。
そして翌日、この件について所属タレント・スタッフも反応を示し出すがその内容を見ると以下の点が浮かび上がってくる。
非公開化は急な対応として行われたものであり、事前に計画されていたものではない(友人A、ときのそらのツイート等)
非公開化の対象は明確に著作物を用いたものだけではなく雑談等の影響が出ないであろうものも含めている(不知火フレアのツイート等)
ここで疑問になるのはただ一点。何故6月5日の発表後にこれを行っていなかったのかという点に尽きる。と、言うよりここに疑問を持つか持たないかでファン層の振り分けになったと個人的には思う。
IT業界においても「横展開確認」「水平展開確認」と呼ばれる一つの問題事象に対して同様の問題が他の箇所で発生しないのかを確認する手順がある。
例えばある通販サイトで商品Aの値段が間違って掲載されていた事が判明したとする。この時に商品Aの値段を正しい値段に修正すると共に、他に値段を間違った商品が無いか一度全ての商品の値段を再確認する。こう見るとやって当たり前の事だとご理解いただけるだろうか。この時、通販サイトをそのまま購入可能な状態にしておけば間違った値段での購入者が新たに出てくる可能性があるため通販サイトを一度メンテナンスの名目で閉じて確認するのが常識とされている。今回で言えばアーカイブの非公開化がこの通販サイトのメンテナンスに該当する行為である。
6月5日発表の時点で許諾が得られていない著作物があった事は認識していたのだから、その時点で非公開化の対応は検討されるべき事であり、仮に「弊社のコンテンツ健全化の為〇月〇日より一度□月□日までの全てのアーカイブを一度非公開とさせていただき、許諾が確認出来次第再公開させていただきます」と事前に内部通達し、外部向けに発表していればこんな混乱は起きなかったのだ。
今回の事は事態の再発というより最初に一ヵ所で地雷が爆発したのでその場所だけ整地し他の場所は放っておいたら、まだそこら中に地雷が残っていてその一つが今回爆発した。なので慌てて全体の整地をしたというだけの話である。
ただ個人的には本当に尾を引くのはここまでの部分には無いと考える。今は大きく問題視されていないが、この非公開化に際しての各人の反応は見える人には見えてしまった。アーカイブが大量に消えた事への反応、その時に発言した言葉、テンプレのように揃った事を言った者とそうではなかった者。それは小さいかもしれないが確かに温度差として表に出てしまったものであり、例え断片であろうとこういった反応の差が如何に後々に影響するかは過去の歴史に学んだ人なら想像に難しくないと思う。これも杞憂に終わってくれればそれが一番だが、今回爆発しなかっただけで特大地雷が眠ってましたなんてオチは出来ればもう見たくないものである。

大神ミオの放送休みとさくらみこの活動制限での会社対応の違い

 出来事の補足に挙げた大神ミオの放送のお休みの告知、理由については「話ができるようになったら説明する」と告知時点での説明は控えられているが、先に引用したYoutubeヘルプ内の「ライブ配信が著作権侵害申立によって削除された場合ライブ配信の利用が90日間制限されます」に引っ掛かった為というのが有力な説である。たまたま同日に別の事由が発生した可能性も否定はできないが
 一方でさくらみこについては7月30日の出来事が起きるより以前に活動の一時休止を行っており、当初7月26日には復帰予定だったが運営との相談結果延期する事になったと発表している。その後の7月31日の発表にて療養の為の活動制限が発表されているのでこれは相談の結果での決定と思われ、ここに特に矛盾は無い。
(6月5日以降に許諾記載について疑惑となる出来事もあったのだが、それが活動制限と関係あるかを断定するのは難しい)
 疑問なのは大神ミオのお休みについてはカバーとして一切の発表を行っていない点である。元々スケジュール上で事前に周知されている休みや、当日の体調不良などといった休みは発表されないが、大神ミオの場合突発的かつ時期未定の休みにも関わらず触れられていない。これだけなら過去に突発的かつ時期未定の休みは他にも起きており一々発表する内容ではないという解釈も可能だが、カバーが活動休止・制限の発表を出す基準が今一つわからないという印象と共に、明確に発表したくない理由でもあるのかという印象も生まれうると考える。

この件を受けてホロライブはどうなるか

 これは完全に個人的な推測であり確たる情報でも何でもないと前置きした上で、今回の事による直接的なダメージはほとんど出ないだろうと思う。
理由は至極簡単で一番の売りになっているマジョリティ層が抱くイメージの部分に傷が付く話では無かったからである。実際この騒動の前後で大きく低評価が増えたという事も無く、大きく登録者や同接が減ったという事も無い。
掘り返しにはなってしまうがアイドル部騒動がファンからの印象を落とした核心は「12人の仲良しアイドル部というイメージを壊した」事である。
(私が夜桜陰謀説に無理があると過去に書いたのは運営へのヘイト誘導は意図的に出来た可能性は高いが身内のバックスタブを意図的に誘導したとするのはかなり無理のある話になるからである)
 この二つは起きた問題の時期も質も違うが本質的な所には大多数のファンが見たいのは「てぇてぇ」「あったけぇ」のイメージ部分であるという共通点が存在し、そこさえ損なわなければ外装にキズが付くくらい気にかけていないのである。それはそれで権利問題の軽視という別の危険性を抱えるのだが。
 実際常闇トワの放送中に男性の声が乗った問題では「配信中にプライベートな通話を行うプロ意識の低さの指摘」と共に目立ったのは「交際関係の可能性に対する反感」である。結局この時は謝罪配信を行い、公式の発表も行い、謹慎として1週間の放送自粛までしたがあれはホロライブプロダクションが自分の所のファン層(のマジョリティ層)が「女性配信者が異性との交遊関係を推測させる事には非常に敏感な反応を示す」性質を理解していたからこその対応だったと思っている。
これ以外にも同プロダクションの男性タレントグループ、ホロスターズと絡む事に対して苦言を示すコメント等が度々見られる。
これがホロライブ信者のユニコーン・ホロコーン等とファン層の"一部"が蔑称される理由でもあり、一方で売上として最も柱が太いのがこの層である事もおそらくカバー側は理解している。そして真っ当な指摘をする層を排除しても残った層でマネタイズができるのであれば全肯定を抱える方がコントロールが楽なのである。

最後に

 これまでも度々配信のコメント中で「このタイトルスパチャ大丈夫?」と聞かれたものも大丈夫だと答え続けたものが全然大丈夫ではなかったり、他所が収益OFFでようやく配信許可に漕ぎつけたタイトルを平気でスパチャONで配信していた事を懸念する声は届かないままだった。
 全肯定は楽だ。ただただ画面越しの演出の中にあるてぇてぇを感じて自分の時間を豊かにする。だがそこには何の成長も無いし問題を先送りするだけなのは多くの人が気付くべき事だと思う。
モンペ発言から始まるアイドル部騒動が起きるまで.LIVEは業界で一番安泰な箱とまで言われていた。
一ファンの視界から見えるものなんて限られているし、問題が起きないのは無いのではなく見えていないだけ。これはVtuber業界で起きた数々の出来事を見ていれば必然とわかる事だろう。
歴史に学ぶ事は大事なのである。