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#595 「A社事件」東京地裁(再掲)

2023年9月6日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第595号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【A社事件・東京地裁判決】(2022年4月19日)

▽ <主な争点>
顧客の引き抜き、業務データの削除などの不法行為による損害賠償請求など

1.事件の概要は?

本件は、医学部受験塾を運営しているA社が元従業員であるXおよびYに対し、Xらが共謀して、生徒の引き抜き行為、教材の持ち出し、関連データの削除等を行い、授業料等の逸失利益、および同社の信用と名誉が毀損され無形の損害が生じたとして(不法行為)、またXがA社の校長という立場にありながら、その職務に専念しなかったことにより、売り上げが減少し(債務不履行または不法行為)、またA社在職中に不正に通勤交通費を詐取したとして(不法行為)、各損害の賠償および遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<A社、XおよびYについて>

★ A社は、学習塾の経営等を行う会社であり、医学部受験特化型の個別指導塾等を運営している。上記個別指導塾は医学部受験専門校舎として「B校」等がある。

★ Xは、2004年にA社に入社し、2012年9月頃にB校の立ち上げに携わり、2013年3月から同校長を務めていたが、2018年11月20日付で解雇された者である。

★ Yは、2007年10月にA社に入社し、2010年12月以降、子会社であるC社で営業職として働いており、2012年9月頃にはB校立ち上げの際に営業活動等を担当したが、2014年11月に退職した者である。なお、Yは2018年8月以降設立された医学部受験塾である「D塾」の塾長と名乗っていた。


<XがA社から懲戒解雇処分を受けるまでの経緯等について>

▼ Xは2018年6月頃、インターネットの株式に関する掲示板に、A社が多くの訴訟を抱えていること、訴訟における同社の対応を批判する旨、また粉飾決算で金融庁に踏み込まれた旨、社内で暴行事件があった旨の投稿をした。

▼ 同年9月、XはYに依頼され、D塾に使用する建物について3年間の定期建物賃貸借契約を締結した。また、XはD塾で使用するパソコンのリース契約で同塾の代表者として署名していた。

▼ Yは同年10月、D塾を設立するとともにXと同じ居室に転入した。Xは同月中旬頃、B校の講師控え室や指導ブースあるいは電話でA社に所属する複数名の講師に対して、D塾で働くよう勧誘した。その際、同塾は自分の知り合いが運営している旨、時間給はA社と同額程度である等と説明した。

★ B校の在学生であった生徒7名が同月以降、D塾でA社において担当となっていた各講師から授業を受けた。

▼ A社は同年11月13日、Xと面談し、自宅待機を命じた。同日、YはXに対し、「他塾への斡旋の証拠を可能なかぎり用意してね」「PCのデータ消去も忘れずに」「ログアウトも」とのメッセージを送信した。

▼ A社は同月20日、Xに対し、D塾への講師や生徒の勧誘、自宅待機命令を受けたのにB校に侵入したこと、出社命令を拒否したこと、同社が購入した教材をD塾のために利用したこと、通勤交通費を不正に受給したこと等の非違行為により、懲戒処分を行う旨の通知書を発行した。

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