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#59 「杉本石油ガス事件」東京地裁(再掲)

2004年10月20日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第59号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【杉本石油ガス(以下、S社)事件・東京地裁判決】(2002年10月18日)

▽ <主な争点>
内部告発を行った組合活動に参加したことを理由とする退職金不支給

1.事件の概要は?

本件は、S社の従業員であったXが在職中に同社の内部告発をする組合活動に参加したことを理由に、S社が退職金を不支給としたことに対して、Xが退職金および慰謝料の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

★ S社は石油ガスの配送、充填、米の販売等を業とする会社である。

★ Xは昭和63年11月、S社に雇用され、以後石油ガスの充填業務に従事していた者である。

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<労働組合による内部告発等について>

★ 東京東部労働組合S社支部(以下、東京東部労働組合を「T労組」、S社支部を「支部」という)は、S社の従業員により平成10年2月に結成されたT労組の下部組織であり、Xは支部結成当時これに加入した。

▼ 支部執行部は従業員の労働条件等に関するS社の対応を常々問題視していたところ、12年12月支給の冬季賞与に関するS社の回答が妥結できないものであるとして、これをキッカケにS社の米の販売方法を告発する文書(以下「本件文書」という)を顧客に配布する方針を立てた。

▼ 支部執行部は全体会議を経た後、同年12月21日、S社に対し、本件文書を示した上で同月25日までに冬季賞与の額を上積みする旨の回答がなければ、本件文書を顧客に郵送すると伝えたが、S社からこれに応じるような回答はなかった。

▼ そこで、支部執行部は本件文書を顧客に送付することにし、支部組合員で分担して、封筒の宛名書きを行い、13年1月、S社のダイレクトメールの顧客約1300名に本件文書を郵送した。その際、Xも封筒の宛名書きを行った。

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<本件文書の内容について>

★「本件文書」の内容は以下のようなものであった。

お客様各位へ

毎度お米をお買い上げありがとうございます。
私たちはS社で日頃お客様にお米を配達している従業員です。

私たちは二年前の労働組合の結成時からA社長に対し「魚沼米・多古米(編集者注:多古地区は千葉県香取郡多古町にあり、日吉地区に隣接)に古米を混ぜていること、また多古米は袋には100%の表示が有るのに実際は去年から茨城米を混ぜていることは私たちが日々配達しているお客様をだましていることになる。また、明白に法律に違反しているのでやめて欲しい」と繰り返し要求してきました。しかし、今日にいたるもA社長は私たちの訴えを聞き入れようとはしません。私たちはこれ以上、偽りのお米をお客様に販売し続け、お客様をだまし続けることは出来ません。

お客様におかれましては、私たちの真意をご理解いただきますよう心からお願い申し上げますと共に、ぜひA社長に対し抗議の声をあげていただければ幸いです。宜しくお願い申し上げます。

                           2000年12月25日
                  T労組S社労働組合 執行委員長Y

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<Xの退職金が不支給となった経緯等について>

★ S社は本件文書が顧客に送付される直前まで、川西米(新潟県中魚沼郡川西町で生産)または日吉米(千葉県匝瑳郡光町日吉地区で生産)の新米と古米を混ぜたものや、日吉米100%と表示した米に茨城米を混ぜたものを販売していた。

▼ 13年5月頃から同年11月頃まで、T労組がS社のA社長の自宅前、本社前
および取引銀行前において、同社長の行動等を非難する旨の集会を繰り返し行った際、Xはこの集会に数回参加した(以下、上記封筒の宛名書きを手伝った行為と併せて「本件各行為」という)。

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