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#566 「日本郵便事件」札幌地裁(再掲)

2022年7月6日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第566号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【日本郵便(以下、N社)事件・札幌地裁判決】(2020年1月23日)

▽ <主な争点>
旅費の不正受給を理由とする懲戒解雇など

1.事件の概要は?

本件は、N社との間の労働契約に基づいて業務に従事していたXが、2018年3月22日付の懲戒解雇が無効であると主張して、同社に対し、(1)同契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、(2)同契約に基づき、同年5月分の未払給与42万7574円(同年4月分および5月分の給与と解雇予告手当との差額)、同年6月分から毎月45万2680円ずつの給与および遅延損害金の支払を求め、(3)同契約に基づき、毎年6月に60万円ずつの夏期手当、毎年12月に70万円ずつの年末手当および遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社およびXについて>

★ N社は、郵便局を設置し、郵便の業務、銀行窓口業務および保険窓口業務ならびに郵便局を活用して行う地域住民の利便の増進に資する業務を営むことを目的とする会社である。

★ Xは、1992年4月、N社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、勤務していた者である。なお、Xは2000年10月から甲郵便局の主任、2004年7月から乙郵便局の主任、課長代理を順次務め、2010年9月から丙支社金融営業部営業インストラクターを務めていた。


<本件非違行為、本件懲戒解雇に至った経緯等について>

★ Xは2015年6月から2016年12月までの間、100回にわたり、臨局指導の目的で北海道内各地の郵便局に出張したところ、以下の各態様により、交通費、日当、宿泊日当および宿泊料合計194万9014円を受給したうち、52万1400円を不正に受給したほか、クオカード代2万1000円も不正に受給した(以下「本件非違行為」という)。

(1)社用車で出張したにもかかわらず、公共交通機関を利用したものとして旅費を請求したもの(95回)
(2)クオカード代金が上乗せされた宿泊費を請求しながら、このことを告げず、クオカードを受領したもの(8回)
(3)駐車場料金が宿泊費に上乗せされた宿泊プランを利用したが、駐車場料金を含めて宿泊料と表示された領収証の発行をさせ、これを添付して旅費を請求したもの(7回)
(4)駐車場料金を含めて宿泊料と表示した領収証の発行を依頼し、これを添付して旅費を請求したもの(3回)

▼ XはN社からの事情聴取後である2017年9月、本件非違行為による不適切な旅費額を認め、これと正当な旅費額との差額54万2400円を返納する旨約し、同年10月18日に返納した。

▼ N社は懲戒委員会の意見聴取を経た上、2018年3月22日、Xに対し、本件非違行為が同社就業規則81条1項1号および5号の規定に該当することを理由に、懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という)の意思表示をし、同月27日、解雇予告手当として47万7786円を支払った。


<N社就業規則等の懲戒に係る定めについて>

 N社は、社員が法令または会社の規程に違反したとき(1号)、業務取扱いに関し不正があったとき(5号)は、懲戒を行うことができる(就業規則81条1項)。
懲戒の種類は、
(1)懲戒解雇(即時に解雇する。退職手当は支給しない)、
(2)諭旨解雇(退職を勧告して、退職させる。退職に応じない場合は、懲戒解雇する)、
(3)停職(1日以上1年以下の期間、職務に従事させず、その間の給与は支給しない)、
(4)減給、
(5)戒告、
(6)訓戒および(7)注意 である(同82条1項)。

 懲戒を行う場合は、権限者は、懲戒標準により量定を決定する(懲戒規程4条1項)。
懲戒の決定に当たり、短期間内に複数の非違を犯したとき、懲戒を受けた後短期間内に再度非違を犯したとき、その他非違の情状が特に重いときは、量定を加重することができ(同5条)、また、懲戒の決定に当たり、非違の内容、非違者の在職年数、勤務成績、責任の程度その他情状酌量すべき事由があるときは、量定を軽減することができる(同6条1項)。

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