見出し画像

#568 「トヨタ自動車事件」名古屋地裁岡崎支部(再掲)

2022年8月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第568号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【トヨタ自動車(以下、T社)事件・名古屋地裁岡崎支部判決】(2021年2月24日)

▽ <主な争点>
ユニオン・ショップ協定に基づく雇止めなど


1.事件の概要は?

本件は、T社労働組合との労働協約に基づきシニア期間従業員(契約期間2年以降の期間従業員)を含む従業員についてユニオン・ショップ制を取るT社に期間従業員として雇用されていたXが、同組合を脱退し第二労働組合に加入したところ、契約更新を希望していたにもかかわらず雇止めをされたのは合理性、必要性や社会的相当性を欠き、処分は無効であるなどとして、(1)雇用契約に基づく賃金請求権により、2018年4月分から8月分までの賃金合計142万1655円および遅延損害金の支払、(2)雇用契約に基づく満了慰労金および満了報奨金支払請求権により、更新期間分の満了慰労金および満了報奨金47万5331円および遅延損害金の支払、(3)不法行為に基づく損害賠償請求権により、慰謝料100万円および遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社およびXについて>

★ T社は、自動車およびその関連部品等の製造販売等を業とする会社である。

★ Xは、2011年9月から2012年3月までT社で期間従業員(期間工)として勤務し、2015年9月21日から2018年3月31日まで、同社に再度期間従業員として雇用されていた者である。


<T社のシニア期間従業員、契約更新、ユシ協定等について>

★ T社の期間従業員は、初回および第2回の契約期間は3ヵ月で、以後6ヵ月ごとに契約更新がされ、契約期間は最長2年11ヵ月とされている。雇用契約が更新されて継続勤務期間が1年を超え、シニア期間従業員としての雇用契約が締結された者は「シニア期間従業員」となる。

★ 契約更新は、本人の希望、契約満了日以降の生産見通し、業務量、本人の勤務成績・態度、能力、健康・体力により総合的に判断することとされ、期間満了退社の場合、満了前に上司が退職書類を準備し、本人が記入して上司に提出することとされていた。

▼ T社は2008年4月以降、T社労働組合との間で「社員、準社員およびシニア期間従業員のうち、基幹職3級以上の者、T社と組合が協議決定した一部の主任、その他同社と組合が協議決定した者のほかは全て組合員とし(線引き協定)、T社はこれらを除き、社員、準社員、スキルド・パートナー、シニア期間従業員およびパートタイマーのうち、組合に加入しない者、組合から脱退した者、ならびに組合から除名された者については解雇する。ただし、T社が不適当と認めた場合は、その取扱いについて同社は組合と協議の上、決定する。」旨のユニオン・ショップ制を内容とする労働協約(以下「ユシ協定」という)を締結している。

▼ XはT社に対し、2016年7月、雇用契約(以下「本件雇用契約」という)を更新すれば同年10月からシニア期間従業員になるのを迎え、同社がT社自動車労働組合とユシ協定を締結しており、次回の契約更新によりシニア期間従業員となった場合、同組合に加入しないと退社しなければならない旨を理解した欄にチェックし、「期間従業員契約更新申請書」を提出した。

▼ Xは同年9月、契約更新を前にしたT社労働組合加入説明会に参加した。同説明会でXは同労働組合から、対象従業員は必ず労働組合に加入しなければならない旨の労働協約の説明や労働組合加入の目的等を聞いた。Xはシニア期間従業員になるのに伴い、同労働組合に加入した。


<第二労働組合、XのT社労働組合脱退と本件雇止め等について>

▼ T社の正社員であるAは2014年9月にT社労働組合を脱退し、以後、他の労働組合に加入したり新たな労働組合を結成したりした後、2017年に第二労働組合を結成した。Aはユシ協定による解雇の対象にならないためには、T社にXがT社労働組合以外の労働組合に加入したことを告知しなければならないことを知っていたが、Xが第二労働組合に加入したことを告知していなかった。

▼ XはT社労働組合に対し、2018年3月19日付「T社労働組合退会届通知書」を提出し、同日をもって同組合を脱退する旨を通知した。

▼ Xは同月22日、T社に対し、「契約期間満了により退職いたします」と記載した「期間従業員退職届」と「更新契約を希望する」欄に印をした「期間従業員契約期間更新希望調査票」を提出し、同月31日の契約期間満了をもって同社を退職した(以下「本件雇止め」という)。

★ T社がXに対して送付した「雇用保険被保険者離職票」には、離職理由として「労働契約期間満了による離職」「労働者から契約の更新または延長を希望しない旨の申し出があった」旨が記載された。

▼ Xは離職理由が自己都合とされていることに不満を抱き、ハローワークに契約更新を希望していたとして調査を求めたところ、同年5月、Xの主張が認められ、失業保険給付日数が90日から240日に変更された。

ここから先は

3,426字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?