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#278 「H社事件」東京地裁(再掲)

2011年2月2日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第278号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【H社事件・東京地裁判決】(2010年4月9日)

▽ <主な争点>
営業先を出入り禁止にされる等勤怠不良であった従業員に対する解雇等

1.事件の概要は?

本件は、勤怠不良等を理由に解雇されたXが当該解雇の無効を主張して、H社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、賃金請求権に基づき、未払い賃金等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<H社およびX等について>

★ H社は、医療機器の販売等を目的とする従業員約100名の会社である。

★ Xは、平成17年4月にH社に入社し、19年9月30日当時、同社の従業員であった者である。なお、H社はXをキャリアアッププラン適用学卒新人(将来の幹部候補)として全社共通役割区分「リーダー」という区分で採用した。

★ H社は従業員について、年俸制をとっており、Xは本件解雇を受けるまで年俸340万円の支給を受けていた。

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<本件解雇に至った経緯等について>

▼ Xは入社当初、H社ホスピタル事業本部における営業職に配属され、営業担当社員とともに、同社の製品を卸している病院等に対する営業業務につくこととなった。

▼ Xは試用期間中の17年6月7日、手術中の立ち会い(H社製品を用いた手術に技術サポートのために立ち会うこと)実習のため、先輩社員ともにY病院に赴き、手術に立ち会ったが、その後、H社は同病院から、Xの態度(手術立会中に声を上げて伸びや欠伸をしたり、手術室のドアを開閉させたりするなどの行為を繰り返した)に問題があったことから、クレームを受け、Xに対し、手術への立ち会いを禁止したが、その際、この件についての始末書の提出は求めなかった。

▼ Xは同月14日、社内会議の際に上長から居眠りを指摘された。その後、Xは試用期間を修了し、同年7月1日に本採用となった。

▼ H社は、Xが社会人としての基本的事項を守れない人物であって、営業職に従事させることができず、これを指導する必要性があるものと判断し、同年8月、Xを人事室付へと配置転換を行った。なお、人事室付となってからのXの業務は、社内便(社内の事業所間の郵便物)発送作業、社内文書英訳、品質保証室の補助業務(苦情対応や製品の不良率を引き下げる方策の検討、苦情処理データの移行など)、社内スケジュールシステムの管理(コンピュータソフトの使用方法の説明や新規参加者の登録等の管理作業)などであった。

▼ Xは同年10月、給与明細を配って歩いた際、従業員Aに対し、「たくさんもらえていいですね」と声をかけた。Aから人事室に「Xは給与内容を見ることができるのか」とのクレームがあり、BマネージャーはXを呼び出し、給与明細を渡された社員が不快に感じたからとして、始末書の提出を求めた。

▼ Xの上司は18年1月末頃には、Xの過誤・不適切な言動による支障を懸念することなくXに任せることができると判断できる仕事が見当たらないと判断した。

▼ H社は同年3月、Xを品川区所在のK社の保有する「八潮作業所倉庫」に「配置転換」を行った。Xは同倉庫において、荷物の荷造り、積み替え、段ボール組み立て等のH社商品の出荷作業に従事することになった。なお、H社はキャリアアッププラン適用幹部候補として採用したXについて、同年4月、全社共通役割区分を「リーダー」から「スタッフ」へと変更した。

▼ H社は19年1月、Xに対し、同年3月末までは出勤義務を解くので他の職を探し、週に1回報告をするよう述べ、さらに同年4月からは在宅勤務になると伝え、同年4月1日付でSOHO勤務(在宅勤務)を命じた。

▼ H社は同年8月、Xに対し、Bマネージャーから口頭でXを解雇することおよび解雇の理由を告げ、同月、解雇理由を就業規則31条1項(5)、同40条(2)および(4)とし、同年9月30日付で解雇するとの意思表示を行った(以下「本件解雇」という)。

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