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火葬

母の火葬が決まった。 東京の東の果て、一度も降りたことのない駅を降りて、火葬場へと向かった。 このときはじめて、母の死亡診断書を手渡された。 祭場の人の案内で棺の前へと行き、焼香をする。そういえば、焼香の作法など、頭に入れていなかった。抹香を摘まみ、目の高さぐらいに上げてから香炉へと落とす。これでいいのだろうか? 後ろの通路へと移動し、最後のお別れをする。病院の安置室で見たときより、少し皮膚が黒ずんでいるように感じた。やはり、何も感じない。 棺が運ばれていく。通路の

    • 母が死んだ

      正確には、母が死んでいた。 私に物心がついたとき、すでに家には母親がいなかった。私が3歳のときに失踪したらしく、行方が分からなくなってしまっていたからだ。 だから、私には母親に関する記憶がない。知っていることのすべては、少し大きくなって聞かされた伝聞でしかない。 母親がいない家庭環境が、私にとっては子ども時代の日常だった。 『腹を痛めた我が子を母親は捨てられる』 その事実が、思春期の心を責め苛んだ時期もあった。長い時間が経ち、それに固執するようなことはなくなったが、