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子宮筋腫と腺筋症に伴う過多月経をマイクロ波で治療するレシピ集:Mシリーズについて

 

はじめに


   前回まで、腺筋症に伴う過多月経を治療するために行われる子宮摘出術の代替治療法として、マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)に併用し、組織内マイクロ波照射によって腺筋症組織を加熱し壊死させる経頸管的マイクロ波腺筋症融解術(TCMAM)の症例を提示してきました。A3からA64までの基本情報とマイクロ波照射位置と照射時間を1枚目にまとめました。マイクロ波照射位置はMRI画像上に示しました。この腺筋症に伴う過多月経に対する治療レシピ集:Aシリーズに続き、子宮筋腫に伴う過多月経をマイクロ波で治療するレシピ集:Mシリーズを画像として投稿していきます。

Aシリーズの順番について


 Aシリーズでは、治療前の子宮体部体積の小さい順に番号を付けて整理しました。腺筋症組織の量に過多月経・月経痛のような症状は関係が深いと感じていたからです。腺筋症は子宮体部が球状に腫大することが特徴ですので、子宮体部の体積が、腺筋症組織の体積を大まかに示すと考えていいでしょう。最小は97cc、最大は1091ccでした。

Mシリーズは手術施行の日時順に提示しています


 いっぽう、子宮筋腫に伴う過多月経は、筋腫の大きさ、個数、位置、筋腫内の血流量など多くの要素が関係しています。小さい粘膜下筋腫であっても、重度の貧血の原因となる場合もあります。漿膜下筋腫は大きくなっても出血量との関連は少ないようです。さらに筋腫が複数ある場合も多いため、Mシリーズを整理しようとすると問題は複雑になります。
 過多月経の治療を待つ子宮の形状が、筋腫によってどのように変形・拡大しているのかをうまく整理できたらいいのですが、腺筋症の場合のように、症例を整理する便利な変数はなさそうです。そのため、Mシリーズの症例の順番はおおむね手術施行の順番になっています。

 M1-M68とMA1-MA5までの計73例について、MRI画像に示したマイクロ波照射位置とそれぞれの位置でのマイクロ波照射時間を示します。Mシリーズは筋腫に伴う過多月経、MAシリーズは筋腫と腺筋症が合併している可能性がある症例です。ただし、MAシリーズは腺筋症が明確にMRIで描出されていない症例を含んでいます。

 子宮が正常大で変形のない場合は筋腫や腺筋症の関与がない過多月経です。それ以外の子宮筋腫や腺筋症の場合は、腫大している箇所にはマイクロ波を照射するぐらいの気持ちで、MEA+TCMM+TCMAMを行っても問題はないと考えます。ただし、MRI診断が困難な場合は、悪性病変を否定するために経頸管的針生検を行うことも時には必要です。

筋腫に経頸管的マイクロ波融解術(TCMM)を施行する際の要点


 基礎編で述べたように、血流豊富な筋腫組織に大きい壊死範囲を発生させるときは、① vasopressin生食を筋腫と子宮筋の間隙に投与して筋腫の血流量を減少させる前処置と、② マイクロ波照射時間は一カ所について180秒にとどめ、複数個所からマイクロ波を照射します。たたんぱく質の変性温度である60℃を超えると変性した組織が収縮し、組織と水分の分離が起こります。生体組織の主な発熱媒体である水は、温度が上昇すると比誘電損率が低下する特性があるためマイクロ波による発熱量が照射時間とともに減少します。また、100℃以上になると水は気化しますが、この時に気化熱が必要になりますから、マイクロ波のエネルギーは水の気化に使われるだけで、周辺組織の昇温には役立ちません。
 Mシリーズの中には、マイクロ波を1か所で240秒以上照射している場合があります。しかし、240秒の照射で効果不十分であったと考えられる症例では、120秒を2か所とか180秒と60秒の2か所のように照射した方がより適切であったと考えられます。
③ 術前に偽閉経療法を行い筋腫を縮小させておくことも大きい筋腫を処理する際には役立ちます。
④ 過多月経の原因となる筋腫が複数個ある場合は、それぞれに対してマイクロ波を照射する必要があります。 
⑤ マイクロ波照射終了時の次亜塩素酸水による子宮腔内消毒は術後の感染防止には有効です。

 筆者の場合は、さまざまな症例の経験によって徐々に①、②、③、④、⑤が確立してきました。筆者らが改善を図るきっかけとした症例と類似した症例は、基礎編にまとめておいた原則に基づいて、より洗練された照射位置と照射時間を術前に立案して治療していただく必要があります。基礎編に引用したビスマルクの言葉を思い出してください。Mシリーズには、さまざまな筋腫症例が採用されています。自分が治療する症例と類似した画像をMシリーズの中に発見できれば、照射位置や照射時間を決める大きなヒントになるでしょう。


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