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子宮腺筋症に伴う過多月経に対するMEA+TCMAM


子宮腺筋症とは?


 子宮腺筋症は、子宮筋組織中に、子宮内膜と類似した組織が入り混じった特異な「腺筋症組織」が増殖し、子宮が腫大する疾患です。子宮腺筋症組織は超音波画像では筋腫と紛らわしい筋層内腫瘤になる場合もありますが、MRIで診断できます。子宮筋組織と子宮内膜類似組織が顕微鏡レベルでも入り混じって存在しています。

 子宮筋組織内に形成された腺腔は内膜類似細胞で形成されており、腺腔内に月経期間中は出血します。腺腔は腺管を形成し、最終的には子宮腔内に開口していますので、月経出血量が増加します。子宮内膜の面積が子宮腔を覆うだけの場合と比較して何倍にも広くなっている状態ともいえるでしょう。激しい月経痛を伴うことが多いですが、大きい腺筋症組織を持ちながら月経痛が特に問題にならない患者さんもみられるのが不思議です。

 子宮筋腫とは異なり腫瘍ではありません。子宮の腫大、過多月経など子宮筋腫との共通点もある腫瘍類似状態で筋腫と合併することもしばしばあります。子宮筋腫との共通点ですが、腺筋症組織の増殖はエストロゲンに依存しています。言い換えると、卵巣から分泌されるエストロゲンが低いレベルになると腺筋症組織は委縮します。閉経に伴って症状は消失します。性成熟期の女性を苦しめる疾患ですが、一生の間、慢性進行性というわけではありません。したがって、偽閉経療法や手術以外の低侵襲治療で一定期間、症状を抑え込めれば、加齢により女性は閉経しますから、子宮摘出術を必ず行うこともありません。


子宮腺筋症に伴う過多月経に対するMEA単独の治療

 MEA単独で器質性過多月経を治療して好成績を得るためには、適応を十分に検討してから治療することが大切です。以前にMEAを解説する講演を行った時に、器質性過多月経をMEAだけで治療するときは、子宮腺筋症合併例では子宮壁の厚さが15mm未満の制限するべきであるとの見解を示しました。子宮腔内のマイクロ波アプリケーターからマイクロ波を照射して、10mm以上の深部まで壊死させることは困難です。70W、50秒で2度焼きすると壊死する組織は厚くなりますが、このような子宮腔内からの照射では限度があります。

 粘膜下筋腫に伴う過多月経の治療の場合に、術前の適応を考えるさいには、その大きさと子宮腔内への突出率から計算できるRODNeVの値がMEA後の筋腫の縮小率と関係してました。MEAだけでも筋腫が壊死し縮小する可能性が高い場合はMEAだけで治療すればいいのです。しかし、腺筋症はもともと血流豊富な子宮筋組織の中に子宮内膜組織が入り混じっており、熱伝導によって大きい壊死組織を得ることは期待できません。

 腺筋症には内膜から連続するタイプと、筋層内に限局するタイプと、漿膜化に発育するタイプがありますが、内膜から連続するタイプと筋層内に限局するタイプのみをMEAの対象とすべきです。漿膜近くの腺筋症組織を子宮腔内からマイクロ波を照射して壊死させることはできませんし、子宮腔内から穿刺して漿膜面まで子宮腺筋症組織を壊死させると、子宮外臓器を熱で損傷する可能性があります。

 MEA+TCMAMで過多月経は治療できたが、深部の腺筋症の遺残により月経痛などの症状が出現したという場合では、GnRH antagonistや黄体ホルモンを投与して制御できます。MEA+TCMAMで過多月経が改善されていると閉経までの保存的治療はずいぶんと施行しやすくなります。


子宮腺筋症組織が大きい場合にはMEA+TCMAMで可及的に多くの腺筋症組織を壊死させたらどうなった?

 標準的なMEA後に、症状がほどなく再発する原因が腺筋症組織の遺残の再燃であるなら、遺残を可及的に少なくする方法を採用する必要がありそうです。子宮筋腫に伴う過多月経の治療ではTCMMを導入し、筋腫が大きい場合へもマイクロ波治療の適応を広げることができました。同様に、子宮腺筋症組織に対しても経腹超音波ガイド下に経頸管的穿刺を行い、マイクロ波アプリケーターを腺筋症組織内へ挿入して腺筋症組織へマイクロ波を照射することができます。はたしてその効果は?

 腺筋症の場合は、子宮体部はほぼ球状に腫大しますからその断面はほぼ円形になります。この円の中心付近にマイクロ波アプリケーター先端を位置させて、1カ所から子宮腺筋症組織への照射を続けても、大きい腺筋症組織を壊死させることはできません。血流豊富な筋腫への対応を思いだしてください。血流豊富な子宮筋腫と同様に血流豊富な腺筋症組織では熱伝導で壊死範囲が拡大することは期待できないのです。

 バソプレシン生食を局所注入することで多少は灌流血液量を減少させることができるのかもしれません。しかし、子宮筋腫の場合は、正常筋層と筋腫の境界部にバソプレッシンを注入すると、薬剤溶液の注入圧で筋層と筋腫の間隙が広げられます。一カ所から注入するだけでも、バソプレッシン生食の注入圧で子宮筋腫の周囲に薬剤が十分行き渡り、血流の減少が起こりシメシメといえるような結果になります。しかし、腺筋症組織では正常の子宮筋組織とのはっきりした境目というものがありません。すなわち、バソプレッシンの局所投与にちょうど良い場所がないのです。腺筋症組織の周辺に何カ所か注射すれば効果はあるのですが、正常な筋層には子宮外臓器組織を熱から守るという役割を期待しているので、バソプレッシンを腺筋症との境界あたりにやたらに多数回の局所投与をすることは控えるべきでしょう。

複数の照射位置からマイクロ波を照射する計画を立てる


したがって、直接マイクロ波照射による発熱で腺筋症組織を壊死させることができるように複数の照射位置を組み合わせて可及的に腺筋症組織を壊死させる方法を採用することになります。マイクロ波アプリケーター先端の周囲にできる電場は電極の軸方向を長径とする回転楕円体状ですから、ラグビーボール状の壊死組織ができます。その壊死範囲をいくつかうまく組み合わせて、また照射時間を壊死させる大きさに合わせて調節し、正常筋層は温存しつつ、かつ十分に子宮腺筋症組織を壊死させる必要があります。

 たとえば、前壁主体の腺筋症がある場合には、子宮内膜面とそれに垂直な面では前壁の右半分を切り取った図を模式的に描くと見出し図のようになります。このような場合にはまずMEAを行ったあと、① 前壁腺筋症の右より方向、②前壁腺筋症の左より方向、③ 前壁腺筋症の中央方向、④ 底部部腺筋症の計4回の穿刺とマイクロ波照射をそれぞれ行うことになります。それぞれのラグビーボールの短径をどのくらいにするのかを決め、それに対応する照射時間でマイクロ波を照射します。同一の穿刺方向で細長く壊死させる場合は、照射位置を2cmずつ手元に戻す要領で複数回の照射を行います。腺筋症が前壁にある場合は、MEAを先に済ませてしまいます。

経腹超音波ガイド下にマイクロ波照射を行う場合は、つねに深部の照射から順に行うのが原則です。マイクロ波照射で変性した組織より深部は、超音波が十分に届かず、音響陰影が発生したりして観察できない可能性があります。後壁主体の腺筋症では腺筋症組織に穿刺照射を先に行い、MEAはそのあとという順に操作を行う必要があります。


アプリケーターの先端導体の癒着を防ぐ

 照射中は常時アプリケーターを回転させて、マイクロ波アプリケーターの先端表面が、焼灼された組織へ癒着するのを防ぎます。3分以上の連続照射の場合には、回転操作を怠ると先端が組織に癒着し、容易に抜けなくなります。その場合、先端導体と同軸ケーブルの結合部は頑丈とはいえないため、この部分でアプリケーターを破損する恐れがありますので癒着を軽視することはできません。

 組織に癒着してアプリケーターが破損したため、先端が脱落し筋腫組織から抜けないので、子宮鏡下に穿刺トンネルの壁を削って穴を広げ、癒着した先端部分まで到達し、鉗子で除去した2回の貴重な経験から、次のように断言できます。「落ち着いて、TCRを行えば先端導体は除去できるので問題はありません」。しかし、これはTCRがいつでもできる環境での話です。そうでない場合は、癒着させないように油断なく操作するしかありません。



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