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血流豊富な筋腫に対する対策

照射位置の複数化

4cm大の筋腫であれば、全体として4cm大の範囲をカバーするよう照射位置を大略正三角形に配置して逐次3か所でおのおの2分間のマイクロ波照射を行います。このようにすると熱伝導に頼らない加熱が可能になりますが、照射位置を複数化するには穿刺操作がそれぞれ必要になります。3分間2回の照射でもいいでしょう。6分間の照射なら、1分間の照射6か所の方がさらに効果的なはずですが、小さい筋腫を6か所穿刺して焼灼するのは現実的ではありません。このようにして、比較的小さい筋腫では血流の問題もある程度対応できます。

 ちなみに、マイクロ波手術器の出力設定を70Wから最大設定の110Wにしたら、発熱量が増加するので、少しは血流による熱の流出に対抗できそうです、しかし、発熱量が110/70=1.57倍程度になっても、3次元方向への熱伝導による熱の流入量と組織の冷却力が均衡する面までの距離は1.16倍になるだけです。やはり複数の個所から照射する必要がありそうです(このような照射を臨床例で行った経験がありませんので推定になります)。  


筋腫を灌流する血液量を減少させる処置で問題は解決

  このような処置で灌流血液量を低下できれば、血流が乏しい筋腫と同様に、熱伝導による組織温度の上昇が期待でき、また、組織の冷却が遅延するために熱伝導による温度上昇に伴った遅延した組織壊死が発生すると期待できます。熱伝導による温度上昇は血流豊富な子宮筋層と筋腫の境界で止まりますから、うまくいけば筋腫全体を壊死させることができます。


 簡単に実行できる方法として、バソプレシン生食を筋腫と子宮筋層の間隙に注射することが考えられます。バゾプレッシン生食の局所投与は、筋腫核出術において使用されており、出血量の減少に効果があります。バゾプレッシン生食の局所投与は、適用外使用ではありますが、世界中の腹腔鏡下筋腫核出術で使用されている標準的な術中処置の一つです。これをTCMMの前処置として、筋腫と子宮筋層の間隙に投与します。TCMMで使用する経腹超音波ガイド下の穿刺システムを使用し、長い針(PTC needle、あるいはsuction needle)の先端を常時超音波で確認しながら、投与位置まで経頸管的に筋腫を穿刺して注入位置まで挿入します。経腹超音波穿刺システムが使用できれば簡単に実施できます。

  バソプレシン生食で前処置を行ったうえで、MEA+TCMMを血流豊富な筋腫に行った7例の結果をmarmar_001先生(津田 晃先生、山王レディースクリニック、秋田市)が論文にまとめています(Tsuda AKanaoka Y. Int J Hyperthermia. 2019;36(1):739-743)。要するに、血流豊富な筋腫であっても、TCMMを行う前処置としてバゾプレッシンを局所投与すると、筋腫を灌流する血流量は減少するので、MEA+TCMMで血流の乏しい筋腫と同様に全体を壊死させることができ、MEAの効果も併せて、その後は筋腫の縮小と過多月経と貧血の改善が得られることが示されています。

見出し画像として、この論文に使用された、経腹超音波ガイド下に子宮筋層と筋腫の間隙にPTC針をもちいてバソプレシン生食を局所投与する模式図を使用しました。



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