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子宮腺筋症に伴う過多月経に対するマイクロ波治療・・・治療レシピ集


このレシピ集を利用する方が準備すべきこと

    マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)と経頸管的マイクロ波腺筋症融解術(TCMAM)を併用して過多月経を治療するときには、患者の年令など、さまざまな要素を考慮しつつマイクロ波の照射条件を決定しなければなりません。腺筋症の組織の位置・大きさに応じて、マイクロ波アプリケーター先端の位置と、マイクロ波照射時間を決める必要があります。
    このレシピ集を利用してTCMAMを実施する方にひとこと申し上げたいのですが、これまでに記事にしてきたマイクロ波照射の基礎的事項について理解していることが臨床的実践開始の必須条件です。 

 

マイクロ波照射の原則

をまとめますと、

  1. MEAではマイクロ波アプリケーターの表面から、子宮壁の厚さがどの方向にも10mm以上あることを超音波ガイド下で確認できた場合に、出力70Wで1か所あたり50秒間照射する。

  2. マイクロ波照射を経腹超音波ガイド下に行う場合は、経腹超音波プローブから遠い部分を先に処理するのが原則である。照射中に発生するマイクロバブルや照射後の組織変性に伴う音響陰影が、すでに処理した領域よりも遠い領域の観察を妨害するためである。すなわち、背側から腹側への順番で照射位置を移動させる必要がある。

  3. マイクロ波照射中は、マイクロ波アプリケーター先端2cmの全長を超音波断面に描出しつつ、その周囲組織の輝度の変化を常に観察する。マイクロ波照射の影響が子宮漿膜面まで届いていないことを確認しながら処理を行う必要がある。

  4. TCMMとTCMAMでは出力を70Wと一定にし、処理したい組織の大きさに従って、照射時間を決定する。

マイクロ波照射で発生する壊死組織は回転楕円体様で(長軸はマイクロ波アプリケーターの方向)、照射直後に壊死させることが可能な組織の短径は
 60秒で20mm、120秒で25mm、180秒で30mm程度である。

 血流豊富な筋腫組織内では 血流による冷却と熱伝導による熱の供給が均衡する位置から外側にある組織の温度は上昇しない。したがって、照射を持続しても、周辺の組織へ壊死範囲が30mmを大幅に超えて拡大することは期待できない。
 いっぽう、血流が乏しい筋腫では、熱伝導による温度上昇が周辺の組織に及ぶため、筋腫と子宮筋層の境界まで壊死範囲が拡大する可能性がある(子宮筋層は血流豊富)。マイクロ波照射時間と壊死範囲の関係は、腺筋症組織でも筋腫と同様である。
 
なお、漿膜に腺筋症組織が及んでいる場合はTCMAMの適応外である。
 

 

まず腺筋症のレシピを60例を順番に提示します。

 60例は1000例から130例を選んだ治療レシピ集の一部です。およそよく似た7~8例を代表するように症例を選びました。この7~8例は画像もよく似ていますので、患者さん自身もどれがご自分の画像であるかわからないと思います。もちろん、個人情報保護の観点から、匿名化はもちろん、治療施設、治療時期、治療時の年令など個人を特定できる情報は抹消してあります。
 

治療前の子宮体部の体積で小さい順にならべて、子宮腺筋症をMEAとTCMAMで治療したA3~A64をMRI画像、超音波画像で示しました

 A1、A2,A5は欠番です。1枚目の表には提示可能な情報と、治療経過をまとめています。続いて、画像を提示しています。提示する順番はホルモン治療など手を加えていない時期のMRI画像、マイクロ波治療前のMRI画像、術後のMRI画像あるいはパワードップラー血流画像などです。術後は造影MRI画像で壊死範囲を無血流領域として観察したいところです。しかし、全例に造影MRI画像を撮像することは保険診療では認められませんので、超音波血流画像で代用している場合もかなりあります。
 マイクロ波治療前のMRI画像には、マイクロ波照射を行った位置を、照射の順番に①、②・・・というように番号を付して示しています。各症例の基本情報と術後経過をまとめた表を一枚目の画像としています。マイクロ波照射位置と照射時間を示しました。MRI画像の子宮断面に示した黄色の①、②・・・はこの番号に対応しています。

 MRIは直交する3方向の断面での画像ですので、必ずしも穿刺位置や方向をMRI上に正確に表現できているわけではありません。特に正中から右20度とか左30度とか斜めに穿刺する場合はMRI画像上に表現するのは困難ですのでご容赦ください。

 照射は3次元的に位置を決定し、その方向へ経腹超音波ガイド下に穿刺器具を使用して経頸管的に子宮組織にトンネルを作成し、そのトンネル内にマイクロ波アプリケーターを挿入して照射します。子宮頸部と頸管の方向が、穿刺操作の際には膣鏡で固定されますから、MRI撮像時の子宮の位置と方向は、治療時の位置と方向とは非常に異なる可能性があります。例えば、大きい筋腫で変形した子宮体部は子宮頚部を固定するときに、しばしば90°近く回転します。したがって、MRIで得られた情報を頭の中で再構成しつつ、穿刺時には超音波画像を参考にして、子宮外への穿刺を完全に回避しなければなりません。さらにマイクロ波照射を一定時間続けても子宮外臓器を熱損傷しないように、照射時間に対応する大きさの壊死組織の外側にさらに10mm程度の子宮筋層が残ることを確かめつつマイクロ波を照射する必要があります。

なお、レシピ集に使用した画像には、あちこちに白い矢印が映り込んでいます。通常は、矢印は関心がある場所を示すマークですが、今回の画像内では画像作成時に映り込んだだけで、意味はありません。ご承知ください。



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