死体、ぬいぐるみ、ヘンペルのカラス

  好きなものについて。

  ひとつめ。生きているのに死んでいるように見えるもの、もしくは死に近いもの。体温の低い人、痩せている人、死んだように眠る人、人間味がないくらい美しい人とか。好きです。あとは切り花かな。あれ悪趣味ですよね。勝手に殺したくせに死体を瑞々しく保つために水を与える。矛盾だなって思います。いちばん美しい瞬間を切り取るという点では好きです。

  ふたつめ。死んでいるのに生きているように見えるもの、もしくは見せかけているもの。ぬいぐるみ、球体関節人形、標本とか。ぬいぐるみってすごくないですか? 動物の体毛を模した糸(!)を表面に敷き詰めた布をバラバラに裁断して、縫い合わせて、綿を詰めるんですよ? 死体の模造品じゃないですか。どうでもいいのですが、ぬいぐるみを作るとき裏返しにされた背中からペレットを流し込む瞬間がいちばん好きです。

  好きなものの話をするたびに思い出すのはヘンペルのカラスです。全てのカラスは黒い、なら黒くないものはカラスじゃない、ってやつ。全ての黒くないものをそうやってひとつずつ虱潰しに調べないと隙間に耐えきれなくて死んでしまいたくなる、という点で共感できます。好きにも嫌いにも理由が欲しい。死に近いなら好き、好きじゃないなら死に近くない。生きているみたいに見せかけているなら好き、好きじゃないなら生きているみたいに見せかけていない。わたし、あまり何かを嫌いだと思ったことがなくて、だからわたしが何をどうして嫌いなのか知りたくて。知らないことはぜんぶ知りたい、知らないことがあるのにどうしても耐えられない。無理だってわかっているけれど、無理なものしか欲しくないのです。

  こうやって書いていると言語化できなかった、してこなかった部分について少しずつ整理ができる気がします。読んでくれてありがとう。またね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?