海とアイスと誘蛾灯

  短歌ネプリ「海とアイスと誘蛾灯」について。何から話そうかな。じゃあまずタイトルの話でも。

  タイトルは参加者から2字・3字・5字の単語を募集してシャッフルしたものです。偶然ですが「海とアイスと」で昼間の楽しげな海と照りつけるような日差しを連想させておいて「誘蛾灯」で裏切る、という構成になったのでかなり気に入っています。余談ですが、誘蛾灯をモチーフにみんなで百合短歌を詠むというブーム(?)が一瞬あったのでよかったら遡ってみてください。

  連作「夏」について。ひとりめ。順番に遥ちゃんから。

冴返る朝もだんだんなくなって代わりの海もまだ閉じており

  遥ちゃんの短歌の好きなところは、歌意がはちきれんばかりにみちみちに詰まっているところです。伝えたいことが溢れて止まらないのだろうな、と勝手に思っています。褒めてるよ。短歌の話に戻ると、この歌を読んで最初にイメージしたのは、春と夏の間のどの季節にもなりきれない、そんな中途半端な季節です。ひんやりと冷え込むような朝もなくなってきて、でも海開きには早い。晩春でも初夏でもなくて、でも名前を付けたらきっと死んでしまうんだろうな、と思います。好きです。

  ふたりめ。からすまちゃん。

更衣室誰かが忘れた浮き輪あり恋に溺れていたくなかった

  からすまちゃんの短歌は果汁100%のフルーツジュースみたいだな、と思います。今回もさわやかで甘酸っぱい夏の短歌を詠んでくれました。この上の句にこの下の句、良くないですか? 「浮き輪」と「溺れる」が縁語のようにゆるやかにイメージを繋げていて、順接と裏切りが自然に同居しているな、と思います。「恋に溺れていたくなかった」の過去形も好きです。

  さんにんめ。すいかさん。

終末の火蛾となりゆく空しさに私に似ない姉と死ぬ夏

  はい!! 好き!! 単純にわたしすいかさんのファンなのでどうしても贔屓してしまいますね。すいかさんの短歌は詩歌としての美しさが大切にされていてとても好きです。「あなたの短歌はこんな味がしそう」の企画、確かすいかさんは参加していらっしゃらないのですが例えるならすずらんの紅茶です。片方のカップは毒入りの紅茶、もう片方のカップは普通の紅茶を湛えていて、でもどちらがどちらかわからない。ふたりで同じカップの紅茶を飲んでふたりで生きる、あるいは死ぬことを選ぶのか、それともそれぞれ別のカップの紅茶を飲んでせめてどちらかが生き残る道を選ぶのか。そういう短歌です。話を戻します。この短歌は特に上の句から下の句へのイメージの重ね方が好きです。灯りに誘われて死ぬ蛾、似ていない姉妹。百合じゃないですか? そういえば「誘蛾灯」という単語を出してくださったのすいかさんなんですよ。本領発揮って感じです。好きです。

  よにんめ。すのちゃん。

五時になり流れるチャイムの違和感をせめて一生抱えていたい

  すのちゃんはほんとに奇才って感じ。ぜんぶ他人事みたいな感じで淡々とずれてる。初めて見るタイプ。戸惑いつつも目が離せなくて面白いです。この歌の好きなところは「違和感」です。すのちゃんの強みといえば「ずれ」と「違和感」にちょっとだけ「切なさ」を加えている点だと思います。そういう強みが特に上手くハマったのがこの歌かな、と思います。あと没案にめちゃくちゃ好きなやつがあったので早く公開して。破局ドッキリのやつ。よろしくね。

  最後。自分の。

ここじゃないどこかに行こう、さんざめく悪意をホームに置き去りにして

  自分の短歌を自分で解説するの限りなくダサいし蛇足だと思うのですが、一応。テーマは「心中」です。絶え間ない悪意に晒され続けたふたりの、行き止まりまでの短い逃避行のお話。正しい愛って何でしょうね。座敷牢みたいな家から相手を救い出すこと? 現状を打破するだけの力を手に入れること? 一緒に死んであげること? きっとどれも正しくなんてなくて、でも愛だったらいいなって思います。

  しりとり短歌について。個人的な見どころは最初は単語でしりとりしてたのに途中からグダクダになって普通のしりとりになったところです。ゆるくて好き。ぜんぶ解説するのもな、と思うのでいちばん好きな歌を引きます。すのちゃんのやつ。

くらくら  死んだ金魚はゆらゆらしていてあなたも夢に出てくる

  自分のを含めてもこの歌がぶっちぎりで好きです。めちゃくちゃ好き。まず度肝を抜かれたのは、最初の「くらくら」の大胆な字足らずです。不協和音のような違和感を覚えつつ読んでいくと「死んだ金魚はゆらゆらしていて」。ぼんやりした曖昧な不安が輪唱のように重ねられていきます。そして最後、「あなたも夢に出てくる」! 天才か? 天才だと思います。わたし、以前金魚を飼ったことがあるのですが、夏祭りの屋台ですくってきた金魚だったので1ヶ月もしないうちに死んでしまったんです。ひれに白斑ができてぼろぼろになって、塩水浴させてもなかなか治らなくて。ある朝起きたらおかしな角度でポンプの水流にゆらゆら漂っていて、あ、死んでしまったんだなって。そんなことを思い出しました。夏って何かが終わる季節だな、と思います。地面に転がる蝉、浮いた金魚、もう会えないあなた。だから夏が好きで、嫌いです。

  自己紹介とあとがきは読んでもらえればわかるからいいかな。ちなみにデザインとレイアウトはわたしがやってます。好きにやらせてもらえて楽しかったです。

  こんな感じです。読んでくれてありがとう。好きです。おやすみなさい。

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