（ネタバレ）

「パラサイト」を見た。見終わってまず、大きなため息をついた。喉のあたりに、大きな石でもいるかのように。

韓国には一度だけ行ったけれど、よく知らないことの方が多い。冬がとても寒くて厳しいとか、美意識がとても高いことぐらい。

次々とパラサイトしていく家族を見て、こんなにも上手くいくものかー、可笑しいな、と笑いながら見ていた。あやしいではないほう、笑えるほうの可笑しい。

節々で、クビになった運転手のことを案じたり、長年勤めた家を振り返る家政婦の表情がやけに不安げだったりと、徐々に暗い影を落としていく。まるで階段を降りるかのように。

大雨が降る。キャンプは絶対中止になるだろうと思ったし、下手したら地下倉庫が水で溢れて存在がバレたりするかもなんて思った。

シルクのパジャマを着る夫婦の下で、息を潜める。自分は地下の臭いがする、なんて聞かされながら、セックスをする二人の下で。どんな気持ちだろうか。何か悪いことをしたわけではない。ベンツの運転は上手いし、料理も高級家庭の口に合うレベルでできるし、英語も美術センスも、他人を説得する口の上手さまで揃っているのに、ただ働き口がない。

ここまでお金持ちで、妻は家事ができなくて、夫は威圧的で、なんて描かれていたら、絶対セックスレスと浮気がセットだと思ったけれど、それは日本だけなのかもしれない。そっちの方向でパラサイトするのかな、と思ったけれど、兄と長女ですら純粋に愛を育んでいた。

そういえば地下の二人もセックスをしていたみたいだ。コンドームがレシートのように突き刺さって積み重なっていた。あんな状況でも愛を失わないのは、韓国の方の気質なのだろうか。借金で追われる男にも、あそこまでして匿いたいと思わせる何かがあるのだろうか。

自宅を追われた翌日、お金はあるところにはあるのをまざまざと見せつけられる。鼻をつまんで避けようとする、鍵の上に横たわる地下の男と、自分がふと重なったのかもしれない。度を超えた瞬間。目の前で血を流す我が子を見捨てるよその親。そりゃ家政婦や運転手や家庭教師より家族を優先するよな、とは思うけれど、あれぞ衝動というべきか。気持ちは大いにわかる。兄を背負う長女と、奔放に生きる息子の母譲りの純粋さだけは、どうか失われないでほしいと思った。

だいたいどんな作品でも、お金持ちはすべて持っているがゆえに「悪」で、貧乏な人は何も持っていないがゆえに「善」と描かれることが多い気がするが、この人たちはどうだろうか。パク社長一家に関しては、これと言った悪いところは見つからないし、騙して職を得ていった点は悪いとしても、それ以前のキム一家に悪いところは見つからない。

雨や臭いの伏線や、モールス信号だとか、下へ降りることの演出がもう一歩のところでわざとらしい瀬戸際ではあったけれど、決して超えない。そこがよかった。

韓国のことはよく知らない。けれど、描かれた格差社会は、誇張されすぎているわけでは、きっとない。遠い国の話でもない、私自身もいつどう落ちていくかわからない。