見出し画像

『エタノール』の気になる毒性。ネイルサロンの論文から。

最近、空気質測定器で商業施設の空気を測定していたりするのですが、その結果として気になるのが『アルコール消毒』の影響。

アルコール(エタノール)の毒性については、一般的に酒等で経口摂取している人が多いこともあり、『空間中の蒸気程度であれば無害も同然』と思ってしまうところ。

そして、コロナがフェードアウトしつつある今でも、お約束としての『アルコール消毒』は多くの施設で行われ続けています。しかし、『マスク』とは異なり特に懸念されていません。

果たして大丈夫なのか?

なかなかこれと言った情報も無いのですが、今回参考になりそうな論文を見ましたのでご紹介します。


◆『揮発性有機化合物への曝露が少ないにもかかわらず、ネイル技術者における酸化ストレスおよびDNA損傷のマーカーの調節障害』

論文は以下です。
研究の対象はポーランドのネイルサロンです。
超ざっくりまとめると『曝露量が基準より大幅に低いのに健康被害はあるっぽいけど?大丈夫?』という感じです。
気になった箇所を抜粋引用します。

Scand J Work Environ Health
. 2015 Nov;41(6):579-93. doi: 10.5271/sjweh.3523. Epub 2015 Sep 8.

揮発性有機化合物への曝露が少ないにもかかわらず、ネイル技術者における酸化ストレスおよびDNA損傷のマーカーの調節障害

Peter Grešner, Maciej Stepnik, Magdalena Beata Król, Radosław Swiercz, Anna Smok-Pieniazek, Ewa Twardowska, Jolanta Gromadzińska, Wojciech Wasowicz

ネイル技術者は、揮発性有機化合物(VOC)を含む多くの潜在的に危険な化学物質を含む様々な化粧品に職業的にさらされています。その中でも、エタノール、アセトン、トルエン、酢酸エステルなどの有機溶剤は、最も頻繁に使用されるものである。エタノールは、国際がん研究機関(IARC)によって発がん性物質第1類に分類されており、この化合物に長期間さらされると、いくつかのがんの強い危険因子になると認識されている。エタノールの遺伝毒性および発がん作用の主要なメカニズムは、エタノールの主要代謝物であるアセトアルデヒドの生成であると広く考えられているが、エタノールによる他の発がん物質の浸透促進や酸化ストレスの誘導などの他のメカニズムも提案されている(2)。

最近の研究では、ネイル産業で使用される化学製品への職業的曝露が、皮膚、目、上気道粘膜の刺激、頭痛、筋骨格系および生殖器系障害、喘息など様々な健康への悪影響と関連しうることが実際に報告されている(1、27-32)。

考察

本研究では、ネイル技術者は VOC への職業的曝露量が少ないにもかかわらず、酸化ストレスや DNA 損傷のバイオマーカーレベルが変化している可能性があるという仮説を支持する証拠を提示した。

ネイルサロンにおける空気中VOCプール全体は、主にエタノール、2-プロパノールおよび酢酸エチルから構成されており、残りのモニター化学物質の空気中濃度の中央値は、これら最も多い3つの化学物質の中央値に比べて2~3桁低いためであった。しかしながら、調査したすべてのVOCの空気中濃度の中央値は、ポーランドで義務づけられているTLVをはるかに下回っており、本研究に参加した109のネイルサロンでは、測定した化学物質のいずれについてもポーランドのTLVを超えているところはなかった。

まとめ

結論として、ネイルサロン作業室における VOC の空気中濃度が低いにもかかわらず、ネイル技術者の酸化ストレスと DNA 損傷のバイオマーカーの調節異常の証拠を提供することができた。現段階では、これらの変化の根底にある正確なメカニズムを解明することは難しいかもしれないが、ネイルサロン作業室に存在するVOCやその他の化学物質への長期にわたる低レベルの職業曝露によって生じた可能性を排除することはできない。このような変化は、生理機能の重大な障害の発生に直接関連することが示され、おそらく病態につながる可能性がある(67)。

Scandinavian Journal of Work, Environment & Health - Dysregulation of markers of oxidative stress and DNA damage among nail...
www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。
[2023.02.10 引用]
https://www.sjweh.fi/show_abstract.php?abstract_id=3523&fullText=1#box-fullText

◆まとめと所感

論文中では『曝露量が少ない』とされていますが、これは『ポーランドのTLV』との比較において、ということです。

上記はエタノールに絞った場合、以下となっていました。

・空気中濃度、測定結果中央値:3.60 [mg/m^3]
・TLV(閾値限界値):1900 [mg/m^3]

TLV高すぎ!と思わなくもないですが、一体どのような基準で決まったのでしょうかね。理由はわかりませんが、世界的にこの程度の基準値のようです。

◇◇◇

論文中では、これだけの差があっても『ネイル技術者の酸化ストレスと DNA 損傷のバイオマーカーの調節異常の証拠を提供することができた。』としています。

また、健康被害として『皮膚、目、上気道粘膜の刺激、頭痛、筋骨格系および生殖器系障害、喘息』にも言及しています。

エタノール単体でどれほどの影響があるのかは不明ですが、気になるところです。

◇◇◇

ちなみに、ポーランドのネイルサロンの実績である『中央値:3.60』という数値は、個人的にとても高いものだと思います。

私がこれまで測定したHCHOがすべてエタノールだったと仮定しても、商業施設での最高値は『2.0』未満でした。

とはいえ、慢性曝露におけるリスクを考えた場合、安全かというと個人的にはどうにも怪しいと思っています。(妄想です。)


◆おわりに

コロナ騒動後、私たちは『アルコール消毒』の機会が圧倒的に増加しました。

たまにやる程度なら問題なさそうな気がしますが、今回の論文で示されたように『低い濃度でも慢性的な曝露が健康被害に繋がる』ということはあるのではないでしょうか?

もし酸化ストレスとDNA損傷が起きているとしても、それは直接的な健康被害を自覚出来るものではありません。そのようなものこそ、慎重な評価が必要だと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?