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マスクで懸念される酸欠、CO2再吸引に対して『マスクは酸素を通すから問題無い』は、たぶんちょっと違う。

マスク着用による酸欠や二酸化炭素(CO2)再吸引への懸念を度々見る。

そして、それに対してタイトルのような主張(マスクは酸素(O2)を通すから問題無い)がたまに見られる。

私はどっちかと言えばマスク肯定派だが、その主張はちょっと本質とはズレているように思う。ってか、さすがにマスクが酸素を通さないと考えている人はなかなかいないだろう。(まさか、いるのか?)

過去記事と重複する内容もあるが、良さそうな論文を見たので『マスクによるCO2再吸引問題』についてまとめておく。


◆個人的な見解

まず、マスクによるCO2再吸引の理論は『マスクがO2を減らす(O2を濾過する)』ではなく『マスクにより死腔(デッドスペース)が増える』によるものだろう。

前者は当然誤りでO2は通す。
問題なのはデッドスペース。

◇◇◇

鼻の穴から吐き出された呼気はノーマスクであれば環境中に排出され拡散する。しかしマスク有りの場合マスクと顔面の間の空間(デッドスペース)に一部が留まる。

そしてそれは吸い込み時に吸引される。
(CO2濃度の高い呼気の再吸引)

成人の呼吸量目安は1回あたり500mlらしいが、仮にデッドスペースが50mlある場合、取り込める外気は450mlになる。50mlは吐いた呼気の再吸引。

つまり、ノーマスクと比べて明らかにCO2の吸引量は増える。
(呼吸回数と呼吸量が同じ場合に限り)

◇◇◇

ところで、高濃度のCO2が危険だと言われているが、それはマスクに特有というわけでもない。

ノーマスクでも鼻の穴から肺胞に至るデッドスペースがあるからだ。
生体のデッドスペース容量は成人の目安で100-150ml程度と言われている。

そこの空気は息を吐ききっても体外に排出されない。
当然CO2は高濃度だろう。おそらくマスク内よりも。

◇◇◇

ということで、マスク着用によるCO2再吸引の問題は『マスクにより延長されたデッドスペース分でどれほどリスクが増すのか?』である。

で、マスクの危険性の主張では高いCO2濃度を懸念しているが、実際に吸引される数値ではなかったりする。そして測定が雑。このあたりが個人的には不満だった。もちろん全部見たわけではないが。

今回ご紹介する論文ではわりとそのあたりが解決されていそうな気がする。


◆論文引用

該当論文から一部引用する。
(長いので興味のある方はどうぞ)
リンクは以下。

PeerJ. 2023; 11: e15474.
Published online 2023 Jun 16. doi: 10.7717/peerj.15474

大人と子どもにおける医療用マスクの生理学的効果

要旨

背景
COVID-19感染を減少させるためのCDCガイドラインでは、サージカルマスクが依然として重視されている。換気に対するマスクの有意な効果を否定するエビデンスは、ほとんどが小規模な研究に限られており、子どもへのマスクに関する研究は少なく、子どもと成人を比較したものもない。

方法
合計119名の被験者(成人71名、子ども49名)を登録し、各被験者がマスクなしの対照となる前向き介入研究を行った。終末呼気CO2(ETCO2)、吸気CO2(ICO2)、呼吸数は、麻酔器D-fendモジュールに取り付けた鼻カニューレで測定した。パルスオキシメトリーと心拍数も追跡した。マスクなし期間の後、ASTMレベル3の使い捨て手術用マスクを着用し、15分間のマスク着用データを収集した。

結果
マスク期間中、ETCO2およびICO2は定常状態が確認され、平均ICO2値はすべての年齢群でマスク後に有意に上昇した(p < 0.001)。2~7歳児群のICO2増加量は4.11mmHg(3.23~4.99)で、7~14歳児群の最終ΔICO2値2.45mmHg(1.79~3.12)および成人群の最終ΔICO2値1.47mmHg(1.18~1.76)よりも有意に高かった(p<0.001)。小児群では、年齢とΔICO2の間に負の有意な相関があり、r = -0.49、p < 0.001であった。マスキングの結果、ETCO2値は成人で1.30mmHg、子どもへのマスキングで1.36mmHgと統計的に有意(p<0.01)に上昇した。最終的なそれぞれのETCO2値は34.35(33.55-35.15)および35.07(34.13-36.01)であり、正常範囲内にとどまった。パルスオキシメトリ、心拍数、呼吸数には有意な影響はなかった。

考察
被験者の年齢とICO2との逆相関を含め、機械的死腔の生理について考察した。その方法と結果を、外科的マスキングの生理学的安全性を否定した既発表の研究と比較した。

結論
サージカルマスクの装着はICO2の統計的に有意な上昇をもたらし、ETCO2の上昇はより小さい。ETCO2および他の変数は正常範囲内にあるため、これらの変化は臨床的に重要ではない。

サージカルマスクの孔径は約20マイクロメートルで、CO2分子は0.32ナノメートル、O2分子はさらに小さい。この研究で使用されたモデルのような三層構造のサージカルマスクでさえ、<5mmH20/cm2という低い差圧によって測定されるように、高い通気性を持っている。酸素も二酸化炭素もサージカルマスクを横切って流れることは妨げられないが、呼気の終わりには、ある程度の量の呼気二酸化炭素が機械的なデッドスペースという形でマスクの後ろに残ることがある。デッドスペースが著しく増加すると、有効換気量が減少し、PaCO2が上昇し、したがってETCO2も上昇する。各呼気はベースラインと比較してわずかに高いCO2濃度を持ち、この研究では、小児では3.16mmHg、成人ではその半分というICO2のわずかな上昇によって確認された(表1および図3)。このことは、ETCO2のわずかではあるが統計的に有意な上昇につながるが、小児群のマスク後のETCO2値35.07(34.13-36.01)mmHgでさえ、正常範囲(34-42mmHg)内に十分にとどまっている(Butterworth, Mackey & Wasnick, 2018)。

Physiologic effects of surgical masking in children versus adults - PMC
www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。
[2024.01.29 引用]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10278594/

◆所感

細かい箇所で気になる点はあるが大雑把な結論としては、吸気排気ともCO2レベルの増加が見られるが正常範囲内であり血中酸素濃度、心拍数、呼吸数に有意な変化を与えなかった。という感じ。

なお、他の研究によるとCO2濃度の上昇に応じて自律神経やらの働きで自動的に呼吸数が増加するようだが、今回の条件においてはそこまででもなかったようだ。

◇◇◇

ちなみに、著者は以下のようなことを研究の制限として挙げている。

  • 安静時の試験

  • 観察時間が15分

◇◇◇

個人的には以下も気になる。

  • 『D-fendモジュールに取り付けた鼻カニューレ』が、情報をモニタリングするためにマスク内で常時空気を吸引しているのだとしたら、結果を有利にしているかもしれない。(デッドスペース内のCO2濃度を減らしているかもしれない。)

  • デッドスペースの容積が測定されていない。

  • マスクの漏れ率が測定されていない。


◆おわりに

ということで、今回ご紹介した論文によるとマスクによるCO2再吸引は懸念されるほどではない。

しかし、これをエビデンスにして『マスクによるCO2再吸引に危険性は無い』と言えるもんではないだろう。研究の条件は限定されているからだ。

デッドスペースが大きく生じるマスクや安静時でない場合など、他の条件で結果は変わるだろうし、影響は個々人で異なる。

マスクはTPOで有効活用したいものである。

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