0003_20230528【鬼滅二次創作】reconstruct【獪岳】

【鬼滅の刃/二次創作/獪岳/黒死牟】

がむしゃらに鬼へ接近し、呼吸の型を打ち込んで首を落とす。そんなやり方が上弦の壱に通用しないのは明らかだった。
黒死牟が刀を一振りするだけで、再び踏み込もうとした獪岳の体は吹き飛び座敷の突き当りの襖を破壊しながら畳の上に転がった。
「話に……ならぬ」
声音に呆れた色を感じ取り、獪岳は奥歯をギリッと噛みしめる。力を求め人間を捨て目の前のこれと同じ鬼になりながら、まだ届かないのか。
「まだやれます! お願いします稽古を……!」
「何度やっても……同じこと。今日は終いだ」
 黒死牟は獪岳の懇願を相手にせず、稽古用の座敷部屋から姿を消した。
「ちくしょう……。ちくしょう!ちくしょう!近づけもしない!」
骨折、捻挫、擦り傷、打ち身、刀傷は一つも無い。獪岳は畳の上で駄々をこねる幼子のように叫び、ジタバタと手足を打ち付け、それからぜえぜえと息をしながら体の損傷を修復するイメージに集中しようと目を閉じた。

初めての稽古の日、今日と同じように獪岳の全身は何度も吹き飛ばされて手足や胴体の肉が裂け骨は砕け内臓もいくつも潰れていた。
「いてぇ……。血が止まらない……。鬼は怪我をしてもすぐ回復するんじゃ、なかった、の」
最強の鬼は人間であればほどなく死ぬであろう、けれど鬼ゆえに死ぬことなく苦痛にうめく小鬼を見下ろす。
「血と肉を……撚り《より》合わせろ。止血の呼吸ができればたやすい」
そんな呼吸は知らないと震える声で獪岳が言うと、あの鬼は獪岳の服の上衣を引きはがし、同じようにはだけた自分の胸を密着させた。
「私の呼吸に合わせろ」
「ふぁい……」
 それから内臓、脚、腕と意識を誘導されて肉体の修復を文字通り体で覚えさせられた。
「下位の鬼は食人と破壊衝動しか考えておらぬ……。そのためか体の修復は生存本能が勝手に行っているとあの方はおっしゃっていた。お前は記憶も知性も残っている上等な鬼だから……修復も意識してやらねばならない……」
 上等な鬼、という言葉にあの時の獪岳は思わずにんまりとした。

戦いながら修復も同時にできればと獪岳は考える。現に上弦の参はそういう戦い方をしていた。もっともその時手合わせをしていた上弦の弐は氷結の能力で参の動きを完全に止めて制圧していたので相手次第という部分はあるのだろう。
最後に残っていた手首の骨折を元に戻し、獪岳は立ち上がり、無人の座敷の奥を見据える。
また明日だ。あの人は律義にあそこに立ってくれる。明日こそ。

(了)