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RIPPLE〔詩〕

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記事一覧

赤と蒼 【詩】

赤と蒼 【詩】

千里を駆けた脚はどこへ

体が役目を終えたのだ

もはや草の味も分からぬ

心が役目を終えたのだ

どこまでも伸びゆく山麓の大地

二度と立つことはないだろう

毛並をすり抜けていった風の糸

二度と感じることはない

この背に乗せたのは忠義だった

人に尽くすとはおろかなことよ

誰かに尽くす人だったからこそ

ならば忠の連鎖を断ち切ろう

ああ 死を連れてきてくれたのか

そうだ わたくしが死

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ほどけ【詩】

ほどけ【詩】

不信と過信の狭間はどうせ谷底
澱んだ河川で錆びた関節
石化している暇があるなら
ことばの脚力に賭けてみないか

つまさきは月の方角へ
かかとでカルデラを踏め
リープ オブ フェイス

胸を突き出した跳躍
青と黄にフラッシュする虚空
黒髪が たてがみとなってなびく

一本ではない世界樹の間から
よその銀河の太陽光が漏れ入っている
知らない雲を突き抜けて生きた
いつだって風は未来から吹く

さあ塵とな

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ひととき 【詩】

ひととき 【詩】

優男のグレーのマニキュアから
流れ出ていく現代音楽
英著論文を斜め読みしながら
直観で生きることを譲らず
不協和音を不測のリズムで
奏でる人のよく調和したフォルム

アイボリーのブラインドのように
遮るふりで誘い込みたい
憚らずに赦し合いたい

そこにない水槽の光と藻が揺れた
泡の群れは水面を超え
シーリングファンをすり抜けて
銀河の礫になるまでの道が用意されている
一瞬の気の緩みが即座に設ける天

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虚の壁 【詩】

虚の壁 【詩】

鋼の壁は
すり抜けられる日を待っていた
天使を迎えたがっていた

不本意にもそびえたのは
誰かの過信が養分になったせいで
ほんとうは誰のことも閉じ込めたくなかった

不信が咲かせた花は永遠のイエロー
誤謬が招いた鳥の飛跡よ

鋼の壁のあるところに可能性があった
南南西に雲の王冠 東北東に注ぐ光彩
刻一刻と法則の変わるユートピア

ほら狼煙が上がった

スラムとメランコリーの摩擦熱に
浮かされた人々

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青 【連詩】

青 【連詩】



Rhythm & Blues
深い深い青だ
天上の音楽と逆のベクトル
心の沈んだ先で
芥が煌めく音が聞こえる
それは
錆びたピアノの弦や
ケースの中のテナーサックスの輝き
クラリネット奏者の17年目の結婚指輪



リンドウを生けたコップを前に
すっかり動けなくなってしまった
まるで
「Rで始まる語を挙げなさい
  制限時間内に できるだけ多く」と
誰かに回答を急かされたみたい
戸惑いを

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インサイドアウト・イエローレイン 【詩】

インサイドアウト・イエローレイン 【詩】

言い伝えにあった黄色い雨は
坂に降り 丘に降り
ビルにも降ったが
どれもが紛い物だった

本物は そう
大樹の内側で ひっそりと
まるで 黒衣の僧たち数人が
粛々と蛇行したあいだを
きちんと埋めるかのように

黄色い雨は そうして
しゃらんしゃらんと降りしきった

みずいろのTシャツを着た少年がひとり
溶け始めのアイスクリームのように
笑った 染め上げられながら
大樹の天井のずっと奥に
水と光を放

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永遠の鈍色の内 【詩】

永遠の鈍色の内 【詩】

雨だれ 七色
次の粒が落ちるまでの
期待の色と 中間色の もどかしい
望んだものは 手に入らない 当然
意識は 数秒さかのぼって
他の色を欲しがるものだ

雨だれ カスミ草
主役の不在を嘆いた人の
期待の花と 世間知らずの くだらない
確固たるものは 目に映らない 当然
意識は 勝手に先回って
他の花を飾り立てているものだ

倉庫の天井のような空
見上げるのをやめたら
右手に握られていたドライフラ

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靴と声 【詩】

靴と声 【詩】

言葉は揃えても
靴は揃えなかった
ひっくり返った片割れ
あさっての方を向いた片割れ
ねじれる ねじれたままにする
その選択が
旅をするかしないかの臨界点になる

「空の高さを知るには
 分度器と赤い風船が必要です」
  とかいう 思い込みの定理

アン・オー 腕を上に
心を楕円に保ったままで
広がった 澄み切った 己の内で踊れ
巨人の創生とか 神体の宇宙とか
遺伝子の綻びより生まれし妄想は
なぜだ

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膨れる 薄まる 【詩】

膨れる 薄まる 【詩】

青空に見限られた心は
まだオレンジの香り
消えないように薫き染めた
A6用紙の世界に栞

行間から洩れ入る光の
かすかな熱で
蒸発させた情念を
多動症として生みなおす

ロッカーはリミッターを外せと歌った
詩人は超感覚の世界を勝手に覗いた

凡庸な病人のわたくしは
比較的調子の良かった数日を
一生にまで延長する

夢を「夢」として見たら終わり

限られていた 何かが 開かれてゆく
かつて 情念だっ

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あがく人へ【詩】

あがく人へ【詩】

夢は溶け
露は煌めき
何かが終わってしまう朝を
飾り立てた
濡れた向日葵

誰かに言葉を贈るたび
空虚を溜め込んだよ
新しい言葉はもう入らない
萎んだのは胸?
それとも夢?

情熱の素粒子が
まだ絶望をくすぐるから

別の歩み方を見つけたんだ

流れ出した
調律を拒む音楽よ
自由という檻の
片隅にある遊び場で
途切れ途切れに歌う
君と世界に隠れて歌う

震え出した
記譜を拒む音楽よ
理想という箱の

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限られた壁の向こうに【詩】

限られた壁の向こうに【詩】

光、無量に差すれども

生涯、照らされなかった言葉を

アイビーの蔦這う壁に

でかくでっかく 吹きつけた

路地裏はあまりに狭いものだから

誰の目にも留まらないし

この目にも

 もはや言葉としては 映らなくなった

只管に密度を増してゆく蔦葉らが

 投げてくる言葉は唯ひとつ

  「ここを去れ」と

嘆息との虚しい往来

──かつて

纏わる煤を友愛の証に換えた

煙突掃除夫たちのように

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suppression【詩】

suppression【詩】

面倒くさい空だ

コバルトブルーに澄み
ほどよく千切れた雲を散りばめ
どこにでも 我が物顔で 居すわる空

いつ誰にでも
美しいと
見上げられると
思うな

幾筋もの面倒くさい道の先に広がる
むずがゆい空め

その始点は紛れもなく私
奴らが面倒くさいのを 責めようがない

これ以上 空が無様に滲まないよう
もう何もしないことに決めた

もう 何も しない と

焦燥の熱で雲が膨れ
時のひしめく音 

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hole【詩】

hole【詩】

窓辺に身を横たえながら考えた

血は天から戻るのだろうと

なら抜けていった場所は何処だったのか?

地でもない 森でもない

崖にも 中洲にも

それらしき「穴」は見当たらないのだ

かえりみて

目にも口にも心にも

それらしき「穴」はなかったのだ

無尽蔵に注ぐ光が

再三、諦めろと諭してくる

穴を探すのは無駄骨だと

うるせえよ!

窓を閉ざした──

しかしなぜだか
 漲ってくるようだ

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過去詩ふたつ「樹」

過去詩ふたつ「樹」

『木々と君のコラール』より

「過ぎる樹の」

夕闇を照らす ガス灯の
こはく色したゆらめきに
うっとり ひたった帰り道

こころは ふるえてざわめいた
あたまの声は ひっそりとして

目覚めればそこは 白い 朝
夕べのわたし どこいった?
キライだ 太陽は正しすぎる

明るみに出る 気怠いからだ
照らされるのは 道しるべだけ

樹のよこを とおりすぎるたび
まぶたに緑が重なるよ
──絵画が うす

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