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シンデレラ、やせ我慢の小夜

*本投稿は「溢れるスキを布教する」シリーズの1つです。動画埋め込みも多いので、体質に合わない方もいるかと思いますが、読んでいただけたら非常に嬉しいです。

平成の日は去ってしまったが、書き残したことが1つだけある。それは音楽家TKのプロデュースによって舞台に華々しく姿を現し、消えてはまた現れてを繰り返した歌手TKのことだ。
彼女の数奇にして不遇な運命、それはこれまで男性優位社会の象徴として、またフェミニズムのサクリファイス(生贄)として語られることが多いものであった。しかしそんな社会学的見地からの批評は、僕にとっては無縁のものである。彼女がどんなに幸福だろうが、不幸だろうが、僕は歌い手としての彼女を愛して止まない。

一般的にその女性の代表曲は「あなたと出会ってから私は自分自身を誇れるようになった(超訳)」であろう。そこに込められた恋愛観と、時代や風潮といったものを切り離して考えるのはなかなか難しい。やはり平成前半まで神話のようにあったシンデレラストーリーはなかなか強固なもので、彼女のキャラクター、台頭・ヒットの経緯を含めて、その神話と強固に結びついてしまっている。そこで本記事では、彼女のあまり知られていない名曲にこそスポットライトを当てたいと思う。溢れんばかりのスキを込めて。

まずはTK時代から。セカンドアルバム『storytelling』よりシングルカットされた「YOU DON'T GIVE UP」。1998年発売、通算10枚目のシングル。

冒頭のAメロから引き込まれる。静かなバッキングの中で彼女の響き豊かな声が際立つ。一音一音、丁寧に歌っているのがよく伝わってくる。抑揚、声の伸び、音の処理まで、技巧的な部分で彼女は気を抜かない。そして一般的に高音の印象が強い彼女だが、実は中低音で聞かせていることがこの曲からよく分かる。中音域のビブラートは特に美しい。

クラシカル、シンフォニックなテイストのバラードを得意とする彼女だが、実は色々なジャンルに挑戦しており、僕はロックが一番似合うと思っている。11枚目のシングル「tumblin' dice」は、初出時に怪曲とファンから称されるほど、ヴォーカルが不安定な曲であった。しかしロック色の強いシンセポップは、彼女にとってはライブで盛り上げるための重要な一曲である。

動画は2005年のライブでのヴォーカル。何年も歌い続けたことで、声の力強さが増していき、この頃にはキレッキレになるまでに進化している。疾走感が素晴らしい。正直、シングルのレコーディングとはまるで別物だ。スローテンポでの多彩な表現が持ち味の彼女は、それらを捨ててスイッチを切り替えた瞬間、まったく別の魅力を放つシンガーになる。

ここまでTKプロデュースの楽曲を紹介してきたが、個人的にはTKプロデュースを離れてからの彼女の作品が好きだ。TKを離れて復帰後のシングル3作はもっとも好きなところ。2000年、歌唱力の不安定さのみならず、テレビに映るときの視線も虚ろだった頃。「as A person」「be honest」に続く3枚目がこの「Believe In Future 〜真夜中のシンデレラ〜」。

3作はいずれも敬愛する作曲家、菊池一仁の手によって書かれ、華原朋美自身が歌詞を付けている。以前の投稿にも書いたように、菊池氏はELT「fragile」、浜崎あゆみ「Who…」などを手がけていて、女性シンガーとの相性が非常に良い。歌詞の世界と結びついて、曲が放つ香りが変わってくる(インストで聞くと無機質な印象もあるが、おそらく歌い手に余白を上手に差し込んでいるのだと思う)。この3曲を通して聞くと、人が大切な人との別れから立ち直っていく過程がよく分かる。「as A person」では恋人への未練が、「be honest」では美化された思い出が、それぞれ綴られる。そしてこの「Believe In Future」において彼女がしたためたのは、自分自身へのエールであった。「未来 信じていて」。明るい未来が待っている保証など何一つない。そんなこと自身がもっとも分かっているにも関わらず、彼女はか細い声で何度も何度もそう歌う。これは私論になるが、人が挫折から立ち上がるとき「やせ我慢」を最低一度は通らなくてはならないと思う。それまでに誰かの肩を借りていようと、いちど自分の足で立ち上がれることを確かめるために。この曲はそのひとときの感情にフォーカスを当てて、絶望との狭間に揺れながら、希望に向かおうと足を踏み出す一瞬がよく描かれている。「やせ我慢」は美しい。しかしずっと持続できるものではない。また挫折を克服した後になって当時の意味付けをすると、陳腐なものになりがちだ。だからこそこの曲に歌われるリアリティは、僕の心にいつまでも鮮やかな情景を見せてくれるのである。

休養と復帰を繰り返し、電波少年での挑戦やコロッケとのデュエットなど、それなりに話題性を確保して活動をしていた彼女だが、2005年に発売されたアルバム『NAKED』はプロモーションにおいて若干落ち着いていた時期だと思う。しかしこの頃から彼女の歌唱力が飛躍的に向上し始めた。それまでも天賦の美声と幅広い表現力を充分に兼ね備えていたが、この頃から明らかに腹の底から太い声が出てくるようになっている。本人の意識が変わったか、ヴォイトレの効果か。3つ目の武器を手に入れた彼女は無敵だった。現時点で最後のオリジナルアルバムとなっている本作だが、もし初学者にオススメするとしたらTKプロデュース作ではなくこのアルバムを選ぶと思う。

クラシカル、スローテンポなバラードが多いアルバム。そういう意味で彼女のライフワークにおける集大成のようになっている(もちろん次作を期待はしている)。中でも 6.「愛のうた」は至宝の一曲だと思う。星、月、秋、夢、、、アンニュイなワードと織りなす愛の刺繍。とことん低い音から高音まで、いっさい声を張ることなく、優しく囁くように歌う。きっと蝋燭の火は揺れない。彼女自身が愛の女神になったかのような音楽。本人歌唱の動画がなくて、紹介できないのが残念。。。

「tumblin' dice」でも書いた通り、彼女にはロックが非常によく溶け合う。2014年からはカヴァー曲に徹しているが、そこに1990年代のロックバンドの楽曲を入れてくれたことは僕にとって限りない喜びである。

GLAYの「HOWEVER」原曲は1997年。「あなたを幸せにしたい」と男らしく歌う彼女も意外としっくりと来る。

1994年にリリースされたLUNA SEAの「ROSIER」(アルバム6曲目)

とにかくカッコいい。クールに、抑えめに歌うことで、むしろ激しい愛が迸っているようだ。もし彼女がロックミュージシャンだったら、きっと全く違う活動だったろう。そんなことを想像してしまうほど楽曲の完成度が高い。一朝一夕のカヴァーでは断固として片付けられない。

近年はまたメディアからは遠ざかっているようだ。しかし休養するたびにパワーアップしてきた彼女のことだ、また不死鳥のような復活劇を期待している。たとえそれが叶わなくとも、これだけ素晴らしい曲を多数残してくれたことにこの上なく感謝している。だから彼女が健康で幸福であることが第一の願いだ。

溢れるスキにお付き合い頂き、誠にありがとうございました。もし好きな楽曲がありましたら、ぜひコメントをくださいm(_ _)m



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矢口れんと

詩・物語・音楽の作り手。魔法の言葉「#RRETENSE」を唱えて、ときおり少年や女性に化けて出る。現在「#男の日傘推進委員会」絶賛活動中!!

レントよりゆったりと〔随想録〕

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