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エルヒグSSまとめ

ポイピクにあげようと思ってたけど書式とフォントが気に食わなくてこれ以上他のものをあげる気にもなれなかったので、折角ならノートにまとめちゃお!という経緯から残す。


エルヒグとは
Twitter企画「雨ノ国」において、自キャラとよその家のキャラでCPを組んだ2人のCP名を指す。
エルザン(よその子)×日暮(うちの子)のBLである。
なんなら年下攻め×年上受け。
地雷が多い方への配慮を行わないため、なんでも食べれるという人以外はこの文を読んでいる時に帰って欲しい。読了後の責任は一切持たない。

Twitterのツイートに続きをぶら下げる方式で書いていたもの、加えてそれを加筆+手直しして再掲する形とする。あと余念があったら書き下ろしも書く。(書いた。)

なお、このノートは投稿時にTwitterへ企画ハッシュタグ「#雨ノ国」をつけるものとする。


向日葵に誓って

以下の要素を含む
・死ネタ(のち転生)
・ゆるい捏造
・転生時現パロ
・転生時 日暮のみ前世記憶持ち

大好きな人が死んだ。
自分と組んでいない仕事だったのだが、重症で運ばれてきて、手が尽くせないと匙を投げられた彼の体は血で塗れていた。今日は彼の好きな料理を作ろうかな、と買い出しに行こうとしていた矢先だった。血清も打てないほど消耗した身体は、血が巡るほどの力も持っておらず、日暮が手を握っている間にみるみる生気が失われていき、ふ、と消えた。
「エルザン、くん……?」
冷たい身体はピクリとも動きやしない。さっきまで僅かに温かく熱を持っていたはずの肉体は、徐々に冷たくなっていっていた。
「……エル、…っ」
決してまだ泣くまいと心を奮い立たせ、冷たい肉塊と化した彼を背負い上げ、家の裏へと運ぶ。

日暮が日々丹精込めて育てた花で簡易的なブーケを作る。それを胸元で手を組み、その上へ置く。家の裏には見上げるほどの大きな樹木が生えており、雨の勢いも弱めてくれる。ぽつぽつと僅かに漏れ落ちる雫の他には、彼の頬を伝うものはない。だというのに、堪えきれなかった涙があとからあとから出てきて頬を濡らしていく。植栽用のシャベルで湿気を吸った地面を掘る。男性1人分の穴を堀り、ずりずりと引擦るように穴へ彼の体を収める。
「もう大丈夫です、怪我も…もう痛くないですよね、もう…もう怖くないから、」
半ば独り言のように呟きながら、彼の冷たい体に土をかぶせる。次第に埋まっていくにつれてエルザンの姿が見えなくなっていく。最後の最後に顔に土をかけようとするも、己の身体は氷で凍らされたかのように軋んで動かない。頭ではちゃんと埋葬してあげなくては、変異生物にかぎつけられないうちに埋めてあげなくてはと思っているのに、ほんのり赤みの残る優しい顔に土をかけることができなかった。
「なんで、」
カラン、とシャベルが足元へ落ちる。その途端力が抜けて彼のそばへ崩れ落ちた。
「…名前呼んでよ、笑ってよ、帰ってきたって言って…!」
『日暮さん、』
「うっ……うう……!う"、ぃやだ…ひとりにしないで……」
死人に口なし、返ってくる言葉は無く、ただ雨がずっと降っている。
誰も話を聞く者などいないと言わんばかりに、強い雨が打ち付けている。涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、震える手で彼の顔に土をかけた。心臓が千切れそうなくらい引絞れて苦しく、立っているのも辛い中、必死に墓を作る。手作りの墓標を立てて、家で育てていた彼の好きな花だけで作ったブーケを墓標の前に手向ける。
この冷たい土の下には愛する人が埋まっていると、白い若竹の墓標が現実を伝えていた。

それから毎日、今まで彼が日暮に会いに来てくれていたのと同じように、日暮はエルザンの墓に向かう。その日あったこと、花が咲いたこと、辛かったことを話す。頷いてくれる声も、笑ってくれる声も、励ましてくれる声も、何も返ってこないが、墓に向かって話している時だけ、なぜか雨が弱まる。
その暮らしを続けて何年か経ったころ、ある日の狩りでミスをして、致命的な怪我を負ってしまった。命からがら逃げ出して、家の近くまで辿り着くも、体力の限界と大量出血の影響からその場に倒れ込んでしまう。目に入ったのは、少し色褪せた花束だった。しばらく家に帰れず、墓参りもろくにできていなかった。褪せた花は1週間ほど前に供えたものだった。日暮が倒れ込んだそこは、エルザンの墓の上だったのだ。
すっかり暗く茶に染まった墓標が日暮の目の前にあった。水気を吸った冷たい土は寝転がった体にはやけに心地よくて、彼に寄り添って寝ている時のことを思い出してしまった。静かに涙が頬を伝う。一度体を横たえてしまったからか、既に限界まで追い詰められていた体からは生気が失われていき、意識が朦朧としてくる。ぼんやりした頭の中で、このままここで死ねるなら、と思う。
彼の腕の中で死ねるのならそれでも構わない、と。
その時、「…日暮さん」と聞こえるはずのない声がする。これは夢だとわかっていた。あるはずがないと思い知っていた。けれど、エルザンくん、と掠れた声で返事をする。
「辛かったでしょう、僕がそばにいてあげる」
土に埋めたはずの彼は四肢からひどく出血していて、見るものの目を顰めさせるようなひどい怪我をしていた。だというのに、今そこにいる彼は優しい笑みを浮かべて、いつも抱きしめてくれるその姿のまま、日暮の前に膝をついている。おいでと言わんばかりにいち早く自分が彼の腕の中に入り込むのを待っている。それを見て、もう目もろくに開けていられないのに、重い体を引きずって彼に手を伸ばした。すると、ぎゅっと温かい手が迎えてくれる。その温かさと、彼の柔らかい髪の感覚にまた涙が出た。
「…これでずっと一緒。ずっとね」
「……ええ、ずっと…永遠に、」
そこで意識は完全に失われ、日暮の命の灯火も静かに絶たれる。冷たい雨が降りしきる中、黒くなった墓標に竹笛と金属製の首飾りがかけられている。そこにいたはずの彼らに、そこを訪れた誰かが花を手向けるのは、きっとずっと未来の話になるだろう。

**
向日葵が一面咲き誇る花畑がある、と朝のテレビで放映されていた。
雨森日暮は大学院に通う院生として、長く一人暮らしをしていた。彼には前世の記憶が有り、その生涯を共にした男の記憶も生まれた頃から抱えて育っていた。さすがにこの世に生まれ落ちた今世で巡り合うことはないだろうと覚悟を決めて生きていたのだが、同じ大学の別の学部にいるのをたまたま見かけてしまった。友人と同じサークルに入っている後輩だとわかり、友人経由で今の彼の話を聞くことができたのは、かなり運が良かったと言えるだろう。
覚えていないとわかっていても、期待はしてしまう。名前を名乗ったらどんな顔をするのだろうかと思ってしまっていたが、それも仕方のないことだと思う。
初めて話した彼は、あの雨降る土地で過ごした時より一層平穏な暮らしを送っていたようで、少し緩い雰囲気を醸し出すところは記憶の中の彼となんら変わりがなかった。
いつしか「雨森先輩」から「日暮さん」に呼び名を変え、彼との関係も「サークルの先輩の友人」から「恋人」へと変化した。エルザンには悪いが、個人としては今世も好きな相手と恋人になれるとは思っていなかったので、家に帰って密かに祝杯をあげたのはずっと秘密にしている。
「……向日葵、か」
あの暗い空には雨しか降らず、けして日の光など射さなかった。今ではそんな世界があるというのも信じられないほどの陽の光を浴びて生きている。それにあの眩しい黄色い花を見ると、彼とあの花を見たい、見てみたいと強く思うのだ。陽の光の下でしか咲かない、前世では縁遠かった花。図鑑でしか見たことのなかった花。
迷うことなく、スマホのメッセージアプリから彼に誘いの連絡を入れた。

***

「わ、すごく広い…!見てください、見渡す限りほんとに黄色だけだ…」
「…うん、きれい。ほんとに…飲まれそうなくらい」
エルザンの課題が終わった週に息抜きとご褒美にと車を出して、テレビでやっていた場所へと来ていた。退屈だったらどうしようと内心ハラハラしていたのだが、地平線の奥の奥まで続く向日葵の圧倒的な空間にそんな悩みは吸い込まれていってしまった。彼はとても喜んでくれたし、自分の背丈よりも少し上背のある花たちを見上げながら色の僅かな違いを楽しんでいた。
「…この花がずっと咲き続けるのと同じように…俺たちもずっとこの関係が続いたら幸せですね」
ふとそんなことを言えば、ぎゅっと手が握られる。人が多少なりともいるのに、と思って彼を見れば、「こんなに背が高いのに見えるわけないよ」と笑っていた。
その笑顔があまりにも優しくて、あどけなくて、幸せそうで。陽の光の下で見る彼はどうしてこんなに魅力的なんだろうと思って感慨深くなってしまった。涙腺が緩まったのを感じて少しだけエルザンから顔を背ける。その仕草が気になったのか、眩しかった?ごめんなさい、とこちらを伺ってくる。
「…あまりにも、綺麗だったから…」
「?向日葵が?」
「……いいえ、君が」
「僕……?」
「似合うんですもの、絵になるってこういうこと言うんです」
「それ日暮さんが言うんですか?」
また握っている手に少し力が込められる。あの冷たい肉塊の感触を覚えているからか、温かい彼の手を握るだけで目の奥が熱くなってしまう。優しい声も、柔らかな笑い声も、その体の中で脈打つ心臓も、あの打ち付ける雨の中には残っていなかったから。
ずんずんと前に歩を進める彼の足は止まることがなく、何か話した方がいいだろうかと考え始めたとき、「僕は幸せですけど」と声をかけられた。
「え」
「何をそんなに不安がってるのかわからないですけど……僕は今とっても幸せなんです。だから、向日葵にあやかりたいならそれでもいいし…そうじゃなくたって、日暮さんと過ごす日々は僕にとって宝物なのに」
「…エルザンくん」
「だから……えっと…もっと2人で幸せになりましょうね」
約束してくれますか?と聞く声が震えているような気がして、彼の背に少しだけ触れた。彼はそのまま振り返らなかったけれど、回した腕を抱きしめ返してくれて、それだけで満足だった。
向日葵たちが風にその身をそよがせながら、2人を優しく見守っていた。


あなたの声で聞けたなら

ある日のエルザン。日暮に新しく育てていた花が咲いたから見に来てと誘われて、日暮宅に足を運んでいた。居室のある建物の隣に作られた簡易的な温室で、彼を待っていた。エルザンと日暮はそれなりに歳が離れており、それもあってエルザンは彼に対して敬語を使っていたし、彼の方もおおよそ彼と同じ年代の人間とは違う対応をしていた、と思う。でも彼と自分はただの友人関係ではなく、愛情を共有する恋人同士だ。生意気かもしれないが、彼の名前を敬称なしで呼んでみたいと思うことになんの咎めも受ける謂れはないと思う。日暮がまだ戻ってこなさそうなのを確認して、小さな声で呟く。
「………ひ、日暮」
やっぱりちょっと慣れなくて、すぐに「…っ、さん」と続けてしまう。ええいままよと先ほどより少し大きな声で、「日暮、」と再び口にした。
2回目だったからか、さっきよりはややすんなり口が動いた気がした。
「ひぐれ、ひぐれ、ひぐれ…」
過去に聞いたことがある。
彼には2人の姉がいて、それぞれ空模様に関する名前を持っていたと。暁と夜明という2人は、元々は双子として生まれる予定だったそうだが、1人目が生まれた後なんらかの影響を受けて、2人目がその後すぐに出産されなかったのだという。その結果、彼女たちは3日違いの姉妹となったらしい。名前はどちらも夜半から明け方にかかる様子を指す意味を持ち、日が昇る姉達と、日が暮れる弟と名を冠することになったようだ。
写真を見せてもらったことがあるが、それぞれの瞳が夜明けの空や夕暮れの空、空を照らす星や月のような色をしていて、それもまた姉弟だなと感じた。
「…日暮」
「はい、なんでしょう」
「!?!!」
さっきまでそこにいるはずのない男がお茶のポットが乗ったお盆を持って、そこに立っていた。少し照れた様子で、こっちに来ていいか迷っているような。それを見て、結構前からいたに違いないと悟った。それと同時に羞恥感が込み上げてくる。
「…何も見てない、わかった?お願い、見てないふりしてよ…」
「かわいい、俺の名前呼ぶのにそんなになっちゃうんですか?」
「なる、なる、なります!だって読んだことないんですよ、当たり前だって…!」
「今がだめならいつ呼んでくれるんです?」
「は」
彼がこちらへ歩いてきて、盆を備え付けのテーブルの上へ置く。エルザンより少しだけ背の高い彼の視線がこちらへ向いた。
「言ってくれないんですか?…ね、エルザン」
「〜〜〜〜ッ!!もう!」
わ、と声が漏れるのも構わずに彼を思い切り抱きしめる。顔が見えないならそれで構わないと。
「こんな時ばっかり年上っぽいこと言わないでよ…」
「フフ、ちょっと可愛いなあって思っちゃって」「可愛いよりかっこいいって言って…」
いつもかっこいいんだから少しくらいいいじゃないですかと取りなされ、そのまま流れるようにお茶の入ったカップを勧められて飲み干してしまった。その頃には彼もなんてことがなかったように同じようにお茶を飲んでいて、なんとなく負けた、と思わされてしまった。
綺麗に咲いたガーベラの花の押し花を貰い、言われるがまま、見送られてしまい、帰途についていた。
「?!いや、そうじゃなくて!見られたし聞かれたのに僕から結局呼べてない……」
上手いこと誘導されたことに今更ながら気付いたが、それよりも彼に呼び捨てされた破壊力の方が強く、我ながら不甲斐ない、と肩を落とすのであった。


手を離さないでと祈る

書き下ろし

・お題メーカー「CP向けお題ガチャ」を使用

一度繋いだ手を離すことほど辛いものはない。
昔は小さな手を両手とも姉2人が繋いでくれていた。今や握ってくれていた温かな温もりはなく、冷たくなってどこかの湿地に埋まっている。
墓を作ることも叶わず、少しばかり時間が経ってから向かった事故当時の場所で姉達の装飾品を見つけて、それだけを大事に胸元に抱えて帰ったものだ。

若竹の髪留め。
滑らかな曲線に僅かな彫金の細工が入った首飾り。
髪留めを使うために襟足を伸ばし、時計をするように首飾りを嵌める。
髪留めの留め具の音を聞くたび、首に金属の冷たさが伝わるたび、生きていることを実感する。

この世界において死は身近なもので、雨だけが永遠に降りしきっている。雨は血も涙も拭い去っていって、人の悲しみ苦しみさえ無理やり流していってしまうようだ。
「日暮さん、難しい顔して……疲れちゃいました?」
「…ん…少し考えごとをね。退屈だったでしょう」
ことん、と目の前に温かな湯気を立てたカップが置かれる。目の前の菫色の瞳が心配そうにこちらを窺う。
その優しい風貌はどこか淡い花のようでいて、彼の能力を知ると異なる魅力を感じるのだ。
菫色の瞳の青年はエルザンといい、日暮の恋人である。

他人同士、共通点はレイナーであるというだけだった2人がどうして恋人関係にまで至ったのかは長くなるため省くとして。今日はエルザンに新しく植える低木の植え付けを手伝ってもらおうと、こうして忙しい任務の合間を縫って来訪してもらっていた。だというのに、呼びつけた本人が考え事をして客人を放置してしまうことになるとは、なんて情けないのか。
「最近狩りもあまりしてないって聞いてます、何か悩み事があるなら…僕でよければまた話聞きます」
「……、」
彼と手を繋いで歩いた帰り道のことを急にふ、と思い出した。少しぎこちない握り方で、どうしてと問えば僕がしたくて、とだけ言った。
その手はかつての姉達の手よりずっと大きくて、自分とあまり変わらない男の手で。けれど繋いだ時の温かなぬくもりだけは記憶と相違なかった。
ぽたり、と涙が落ちた。
「…っ、あ…」
「ひ、日暮さん!?ど…どうしたんですか、どこか痛むんですか?…辛いんですか……」
椅子に座った自分の近くで慌てた彼は自身の少し大きめなカーディガンの端で軽く叩くようにして涙を拭ってくれた。
「あの」
遠慮がちに、けれど何か覚悟を決めたかのような少し強張った表情で話を切り出した。
「手、繋いでもいいですか」
唐突な申し出ではあったが、心の内を読まれたかと動揺するほど、非常に核心を突いた申し出であった。
「………君が、望むなら」
答えを返し切る前に、カーディガンの柔らかい繊維が肌に触れる。布地越しに、彼の大きな手を感じた。そのまま両手で包み込むようにしてぎゅ、と手を握られる。
「大丈夫、大丈夫ですよ。今は僕が日暮さんのそばにいますから」
「心読んでます…?」
「そんなまさか。好きな人だから…っていうのはさすがにキザすぎますか?でも当たってたなら嬉しい。泣いてる日暮さんより笑ってる日暮さんの方がいい」
そう言って、また手をさする。
その手が以前よりもずっとずっと熱くて、接着剤でくっついたかのように一生離れなくてもいいのに、と痛みの綻んだ頭で思った。



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