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『なぜ科学を学ぶのか』(池内了)を読んで

 ヒトは一定の知的能力をもち、また同時に好奇心や探究心をもった生物です。自然界の事物やさまざまな自然現象にふれて、それらを正しく理解、認識したいという願望が生じるのは不思議ではありません。そこから人類は現代に至るまで自然科学を発展させてきたと言えるでしょう。これまで科学がもたらした成果、そして科学的な探究方法と思考方法は人類共通の文化として今後も受けついでいかなければならないものです。
 人類は科学を応用したさまざまな技術によって文明社会を築き、発展させてきました。技術は人間に恩恵をもたらすだけでなく、さまざまな問題状況ももたらしています。私たちが社会の一員として技術のあり方を考えたり、議論したりするためには科学的な認識と思考方法が必要になります。
 かといって、科学的な思考方法だけで技術文明の社会課題が解決できるわけではありません。たとえば脳死と臓器移植、ゲノム編集技術の人間への応用、AIによる人間の評価など倫理的な考察、判断が重要な課題もあります。
 本書では自然科学や技術について次のようなテーマが解説されています。
・自然科学とはどのような学問か
・自然科学を学ぶことにどのような意味があるのか
・どのような考え方が「科学的である」と言えるのか、
・科学研究のむずかしさ
・科学を応用した技術にどのようにかかわっていけばいいのか

 残念ながら日本では学校教育の過程で、「理科離れ」「数学離れ」といった現象が起きていると指摘されています。本書は中学生・高校生でも読みこなせるように記述されていますので、理科が苦手だった大人の方にもおすすめできます。
 自然破壊、環境汚染、食料問題、エネルギー問題などさまざまな大きな課題に人類は直面しています。こうした社会課題に私たちが取り組むためには、科学的な認識、思考を土台として人びとが協力することが必要です。そのためには、人びとが教育、学習を通じて科学リテラシーを高めることが求められます。その意味でも、こうした本が少しでも多くの方に読まれることを望みます。
 著者は天文学、宇宙物理学の研究者であり、『科学の考え方・学び方』(岩波ジュニア新書)、『科学の限界』(ちくま新書)など科学論関係の著作も多い方です。

『なぜ科学を学ぶのか』 池内了(いけうちさとる) 筑摩書房(ちくまプリマー新書)、2019年

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