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『センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン)を読んで

 月の光、浜辺の砂粒、波の音、風の音、鳥や虫の鳴き声・・・。自然の事物や現象を受けとめる感性と感覚を呼び覚まし、生命の営みの奥深い不思議さを感じることの大切さが伝わってくる文章です。たとえ時代が変化しても、子どものころに自然と触れ合う体験をしておくことには大きな意義があると思います。自然とかかわることで感じる「センス・オブ・ワンダー」によって、生き物に対するある種の愛情のような感情がわいてきたり、自分もまた一個の生命体であることを感じさせてくれることでしょう。

 グローバルな社会課題である環境問題に取り組むためには、自然科学的認識に加えて「センス・オブ・ワンダー」も必要だと思います。ディープエコロジーの思想ともつながるでしょう。少し大げさかもしれませんが、私たちが「センス・オブ・ワンダー」の感覚をはたらかせることが、人類社会の未来を左右することになるかもしれません。

 50ページくらいの薄い本ですが、読者の意識の深いところまで届くものがあり、視界を大きく広げてくれます。「雨の日は、森を歩きまわるのにはうってつけ」というのはこれまで気づかなかったことでした。私は雨の降っている休日は自宅で時間を過ごすことが多いのですが、機会があれば近くの神社の森まで行ってみようかと思いました。これからも多くの人びとに読み継がれてほしい貴重な1冊です。

『センス・オブ・ワンダー』 レイチェル・カーソン 上遠恵子訳  新潮社   

 著者のレイチェル・カーソン(1907~1964)は米国の海洋生物学者。自然に対する畏敬の念を土台として、科学的な認識と文学的表現を両立させた文筆家です。『沈黙の春』で農薬などの化学物質による環境汚染の危険性を指摘したことで知られています。『センス・オブ・ワンダー』は新潮文庫版も刊行されています。他の著書として『沈黙の春』(新潮社;新潮文庫)、『海辺』(平凡社;平凡社ライブラリー)、『潮風の下で』(岩波書店;岩波現代文庫)などがあります。


 現代の都市生活においては自然と触れ合うことはむずかしいと思われるかもしれません。それでも、まずは身近な生物や気象、宇宙などに関心を向けるところから始めてはいかがでしょうか。市街地でも街路樹その他の植物がいくらか見られます。空に浮かぶ雲、夜空の星や月も見ることができます。室内園芸(インドア・ガーデニング)としてテラリウム、ハイドロカルチャー、水耕栽培などで植物を育てることもできます。きっと何か新しい発見や気づくところがあると思います。 

 私は小学生のころ、昆虫の採集や飼育に熱中していました。ナナホシテントウ(テントウムシの一種)を幼虫から育てたことがあります。ナナホシテントウはその名の通り、赤地に黒の斑点模様の羽根で知られています。しかしその幼虫は、成虫とは似ても似つかない、見方によってはいささかグロテスクな姿をしています。幼虫はやがてサナギ(蛹)となり、その後、殻を破って成虫が姿を現します(羽化)。羽化したばかりの成虫の羽根はまだ柔らかい感じでクリーム色をしています。そして、時間の経過とともに斑点模様が浮かんでくるのです。その様子は子どもだった私にも美しさと不思議さを感じさせてくれました。関心のある方は下記の動画をご覧ください。
 ちなみに、ナナホシテントウは幼虫も成虫もアブラムシ(アリマキ)をえさにしています。かわいい虫ですが「肉食系」です。

ナナホシテントウの成長と羽化(動画)




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