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「このお芝居でいいのか、と自分を疑い続けることが役者の持つ熱」16歳で演技の世界に飛び込んだ矢崎広の芝居論。

まもなく開幕するミュージカル「バンズ・ヴィジット」で風間杜夫演じるトゥフィークたち警察音楽隊がたどり着く辺境の街の飲み屋の常連客・イツィクを演じる矢崎広。16歳で役者を志して地元・山形から上京し、瞬く間にデビューを果たして以降は止まることなく数多くの舞台、そして映像作品に出演してきた彼が見る「芝居」。その熱のはじまりと向かう先を聞く。

■何者でもない自分から役者・矢崎広へ

——地元・山形から俳優を志して上京されたのが中学を卒業してからだと伺いました。地元を離れ新天地に飛び込むほどの想いとその原動力はどんなところにあったと思われますか?
矢崎広 中学生のときに「このまま親の敷いたレールを進んでいくのだろうか」と急に悩み始めたんです。「これからどうしよう」と迷っていたときに、テレビを見て「こんな華やかな世界に行ってみたい」と思ったことで上京を決意した、というのが建前で。本当の部分ではおそらく自分を変えたいという想いが強かったんだと思います。このまま何者でもない自分になるのではなく、大きな海原で試してみたいということが東京に行くことに繋がったと思うんです。もちろん目立ちたいとか自分を試したいという気持ちもあって、劇団ひまわりの養成所に応募をしました。合格したときに上京へと背中を押してくれたのが親父でした。

——生まれ育ってきた場所を離れること自体、すごくパワーのいることだと思いますが、中学を卒業したばかりの矢崎さんのその力の要因というと?
矢崎 「イケる!」という根拠のない自信が16の僕にはあったんですよね。それと中学生なりに「現状を変えたい」と悩んだことも力になったんでしょうね。

——背中を押してくれたのがお父様だったということですが、当時印象的だった言葉などはありますか?
矢崎 悩んでいた僕がようやく見つけた目標として上京の意思を親父に伝えたところ「いいじゃないか。やってみろよ」と言ってくれたんです。その言葉が決意のきっかけになりました。ただ後から親父に聞いたら、3か月で帰ってくるだろうと思っていたらしいです。いろいろと試して。3か月で帰ってきたときには「頑張ったな」と言ってやるつもりだったけれど、全然帰ってこなくなっちゃった、というのが親父の意見だそうです(笑)。

■お芝居に対してずっと持っていたのは「怖さ」

——最初は漠然とテレビの中の華やかな世界に憧れたということでしたが、そこからさまざまな舞台を経ていく中で「役者はいいな」と思った経験を教えてください。
矢崎 自分のお芝居の熱がどんどん高まって、真剣に向き合わなきゃいけないと思うようになったのは、今の事務所(トライストーン)に入って、小栗旬先輩と舞台「時計じかけのオレンジ」をやったことでした。そこで演出家の河原雅彦さんと出会って、自分が「楽しい」とか「やってやろう」と思っていたお芝居の世界が、みなさんはもっと深い部分で闘っていると気づかされたんです。自分は次元が低すぎました。その作品でこてんぱんにされて、小栗さんからも「おまえは今のままじゃだめだ」といろいろとアドバイスをもらいました。そのときに「自分のスタンスを変えなきゃいけないな」と思って、改めてお芝居と向き合うようになりました。その後は誰かに認めてもらいたいということと同時に「自分が納得をしたい」ということがお芝居への熱になっていると思います。ただお芝居と向き合うときは基本的に怖いときの方が多かったかもしれないです。

——怖い?
矢崎 たとえば今の自分のお芝居をどう成立させたらいいのか、どうやったらこの役に近づけるのか、と考えると、周りのみなさまのお芝居がすごすぎて自分が遅れを取っているのではないかという怖さや焦りが強かったんです。でもそれもまた「これでいいのか」とずっと自分を疑い続けるという芝居の原動力なんですよね。それはずっと満足できないことでもあるんです。でもここまでずっとおびえ続けてきた僕でしたが、2022年末くらいからはここまでやってきたからこそ一度そのおびえや怖さすらも手放して自信もってやってみればいいじゃんと思うようになったんです。その心境に至ってからのミュージカル「バンズ・ヴィジット」での対、森新太郎さん。いい対戦相手だなと思っています。

■なんのへんてつもない時間の中で人の心が動いていく「バンズ・ヴィジット」の面白さ

——ここまでさまざまなジャンルの作品を経験されてきた矢崎さんの新たな対戦相手・森新太郎さんと「バンズ・ヴィジット」。稽古の手ごたえはいかがですか?
矢崎 作品として面白いですし、稽古の手ごたえもめっちゃあります。僕自身、チラシを見ていてすごく硬いミュージカルになるのかなと思ったのですが、ふたをあけてみたらすごくハートフルで面白いミュージカルになっていると感じました。

——座長は風間杜夫さんです。風間さんの存在はいかがですか?
矢崎 本当に素晴らしくてすごいです。人としての懐の大きさがあるからこそ滲み出てくる暖かさだし、温かなお芝居なんだろうなって思います。修羅場をくぐり抜けてきている感じもありますし、なにかあってもちゃんと面白くする大木がいる感覚です。絶対に風間さんを通ったら物語は面白くなるはずです。

——この物語の「いいな」と思う部分を教えてください。
矢崎 なんのへんてつもないストーリーの中に、登場人物たちの心の動きがいっぱいあるところが面白いですし見どころですね。いろんな人たちが変わっていないようで変わっている。楽団が来た日と次の日では、みんなの見る景色が変わっているんです。でも人ってそうですよね。昨日まで落ち込んでいたくせに次の日になにかのきっかけで全然違う気持ちになっていたりする。僕も何年か前や昨日、一昨日の気持ちとは全然違う。そこをフィーチャーした作品ですし、そこがこの物語のいいところなんだろうなって思います。

——では最後に「バンズ・ヴィジット」への意気込みをお願いします。
矢崎 とてもハートフルな作品になっています。細かい心情を森さんと詰めながら、より面白く、より伝わりやすく、より幸せになっていくような舞台にできるように今、みんなで作っています。さまざまなことが起きているこの世の中ですが、このあたたかな物語を楽しんでいただきたいです。ぜひ劇場にお越しください。

【リーズンルッカ’s EYE】矢崎広を深く知るためのQ&A

Q.矢崎さんがオフでやってみたいことを教えてください。

「ゴルフを早めに始めた方がいいという話をいろんな人からされているので、そろそろやりたいと思っています。まだ今はゲームの“みんなのゴルフ”くらいしかやっていないのですが、ゴルフは面白そうですよね。何ヤードも飛ばしている人を見ると気持ちよさそうですし。自分と向き合う競技だとか同じことをやるだけなのに奥が深いだとか、熱く語る人も周りにすごく多いので、まずは打ちっぱなしに行ってみたいです」

Q.2023年はこれが熱い!と思うことを教えてください。

「VRです。僕は普段からゲームが好きなのですが、ここ最近の出来事としてはゲーム機の進化がいったんストップしたんですよ。この静けさのタイミングはきっと、ここからVRへとゲームのフィールドが移行していくからなんじゃないかと思っているんです。Meta quest2も流通してきましたし、任天堂やSONYさんが本気でVRを出してくるんじゃないかと思っています。僕はいつでも冒険に出る準備は出来ています!VRでモンスターハンターをやることを日々夢見ています!」

<編集後記>

「役者になるために上京してきた頃の話なんて、久しぶりにしました」と照れたように笑っていた矢崎さん。中学生で見つけた夢を掴もうと地元を離れるほどの葛藤のお話はとても熱を感じました。その後は自分でも止められないほど回り続ける役者の道だったとのこと。天職に出会うとはきっとこのことなのでしょう。

<作品プロデューサー談>

森新太郎さんの猛稽古を「有難いことですよ」と仰る矢崎さん。
ご自身の役に求められていることが何なのかを考え、演じていらっしゃいます。そしてその作業を楽しんでくれている印象があります。
あと凄く礼儀正しい方です!制作にも丁寧に接してくださいます。
矢崎さん演じるイツィクのソロの曲は子守歌。じんわりと心に染み渡ります。
イツィクは登場人物の中で一番人間らしく、感情移入する方も多くいらっしゃることでしょう。

<プロフィール>
矢崎広(やざきひろし)
1987年7月10日生まれ。山形県出身。2004年デビュー。2012年舞台「MACBETH」で初主演。ストレートからグランドミュージカル。2.5次元ミュージカルなど舞台作品、ドラマ、映画でも活躍中。近作に舞台「鬼滅の刃」煉獄杏寿郎役、配信ドラマ「仮面ライダーセイバースピンオフ 仮面ライダーサーベラ&仮面ライダーデュランダル」御手洗るい/天邪鬼メギド役など。
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<作品詳細>

取材・文/えびさわなち
写真/松井綾音
ヘアメイク/松村南奈
スタイリスト/田中トモコ(HIKORA)
 
衣裳クレジット/
ジャケット¥42,350円パンツ¥24,200円/全てFACTOTUM(Sian PR)
シャツ¥44,000円/LUFON(Sian PR)
シューズ¥79,200円/(Paraboot 青山店)
 
お問い合わせ先
Sian PR
03-6662-5525
 
Paraboot 青山店
03-5766-6688
 
※金額は税込価格です。

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