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唯月ふうか、駆け抜けてきたこの10年。良い作品に恵まれて、本当に私は幸せ者です

唯月ふうかが今年でデビュー10周年を迎える。ピーターパンを演じていた愛らしい少女は、今やミュージカル界を代表する女優のひとりだ。最近の作品での伸びやかで美しい歌声と頼もしい演技力からも、この10年で着実に経験を重ねてきたことがうかがえる。歌が好きな幼い頃から現在に至るまで、その軌跡を追う。

■歌が大好きな少女が中3で感じた限界

歌が大好きだった唯月、5歳頃には宇多田ヒカルの曲を歌う様子がホームビデオに残されているという。
「私は音楽とは無縁な、平凡な家庭に一人っ子として生まれました。ただ親戚のお姉ちゃんが宇多田ヒカルさんの曲が好きで、よく歌っていたんですね。私は歌詞の意味もわからないまま彼女の真似をしたりして、歌が大好きになりました。それを見た母が、楽しく歌える地元のカルチャースクールに入れてくれたんです。それまでは一人で歌っていましたから、誰かと一緒に歌えるのが楽しくて、レッスンが苦になったことは一度もありません。小4の時、オーディションを受けて評価していただいたことで、将来は歌手になりたいと思うようになりました。JUDY AND MARYさんが好きで、北海道を代表する歌手になり、YUKIさんと同じステージに立つことが夢でした」
 
しかし、中3の頃には限界を感じるようになった。歌のレッスンといっても、本格的なボイストレーニングはなく、イベントやお祭りでの発表に向けての練習がメイン。母親と二人三脚で歩んできたが、もう歌中心の生活に終止符を打つことを決心する。
「そんな折に、雑誌で、ホリプロタレントスカウトキャラバンの記事を見つけたんです。ディズニープリンセスになれる、プリンセスの歌を歌えるという企画でした。最後に記念として受けて、大好きなプリンセスの歌を歌って終わりにしよう、そんな思いで挑み、YUKIさんの「ワンダーライン」と課題曲を歌いました。すると審査員特別賞をいただいて、9代目『ピーターパン』(13〜16年)へとつながったんです」

■「ピーターパン」が開いてくれたミュージカルへの扉

歌の神様は唯月を見捨てなかったのだろう。突然、ミュージカルヘの扉が開く。
「最初、ウェンディ役だと思ったんです。こんな声の高い私が、まさか男の子の役だとは。とにかくプレッシャーの方が大きかったですね。男の子としての立ち居振る舞いや初めてのフライング。
演技自体初めてで、台本の読み方すらわからず、言われたことにがむしゃらに取り組む日々。演出家の桑原裕子さんが主宰する劇団KAKUTAのワークショップに参加して、みんなで作ることを学びました。ティンカーベルが死にそうになるシーンでは、桑原さんと一対一で細かく読み解きながらお稽古していただきました」
唯月は「新しい人生の始まりで、生まれたての赤ちゃんみたいでした」と笑うが、北海道から上京して環境も変わり、16歳の少女にとってハードな日々だったに違いない。それでも本番で、唯月は充実感を味わっていた。
「カーテンコールで真ん中に立ち、皆さんに拍手をいただいた時、こんなに自分がイキイキといられる場所は他にはないと実感しました。また両親が見にきてくれて、楽屋で父が泣いたんです。そんな姿はそれまで見たことがなかったから驚きました。こんなに喜んでくれるのなら、自分は腰を据えてミュージカルをやっていかなければ!と心底思いましたし、それから真ん中に立つ責任感や大切さが少しずつ芽生えていった気がします」
『ピーターパン』に続き、『アリス・イン・ワンダーランド』(14年)では安蘭けいが演じる主人公の娘クロエ役を務めた。
「反抗期真っ最中の女の子の役で、性格的に自分とは真逆でした。『ピーターパン』では高畑充希さんの後を受け継ぐことを意識したことはなかったのですが、『アリス〜』でも初演のクロエは高畑充希さん。それがプレッシャーでしたね。また再演に、安蘭さんや濱田めぐみさんなど錚々たる先輩たちの中にポーンと入り、稽古はかなり厳しい雰囲気で怒られっぱなし。自由にのびのびと演じることが難しく、初めての挫折感を味わいました」

■「OKが出るまでやり続けよう」続く大作

『デスノート THE MUSICAL』(15年・17年)では初めてオリジナルの新作に参加。立ち上げを経験した。
「皆さん、新作の大変さがあったでしょうが、私はもともと大好きな弥海砂(ミサミサ)を演じられて楽しかったです。演出の栗山民也さんのもと、2幕1場のレムとのやりとりはまさに千本ノック。空気感を作るため、ひたすら繰り返し稽古したことを覚えています。ただ、『アリス・イン・ワンダーランド』でみんなの前で怒られるのは当たり前なんだとわかり、とにかくOKが出るまでやり続けようと頑張れたのは大きかったです。作曲家のフランク・ワイルドホーンさんから直接指導していただけたのも嬉しかったです」
この頃、唯月は歌唱の基礎を学ぶために大学に入学、ミュージカルを専攻している。そして『スウィーニー・トッド』(16年)のジョアンナ役では、人生初のソプラノにも挑戦した。
「ソンドハイムさんの曲がとても難しくて、キーも高い。まして絶対音感の田代万里生さんが相手役。猟奇的で不思議な世界観の作品である上に、ソンドハイムさんの難曲にやられて、どうしよう!って不安でした。それでもソプラノの歌い方や毎回、そのコンディションに持っていくための喉の管理を学び、貴重な経験となりました。そういえばこの時以来、ソプラノは歌っていませんね」
そして誰もが知る大作『レ・ミゼラブル』(17年〜)ではエポニーヌ役を演じた。唯月にとって、技術面、精神面でも転機となった作品だとか。
「15年に初めて帝国劇場で観て、その時は笹本玲奈さんがエポニーヌ役。直感でこの役をやりたい!と思いました。今でも見た目や音域から、コゼットの方が合っているんじゃない?と言われたりします。イメージとは違う、地を這うような強い女性の役は私にとって挑戦でもありました。どうやって自分らしいエポニーヌを作っていくか、トリプルキャストの一人としての取り組み方、技術面では太い声の出し方、自分の声で音楽を導く方法など、多くの課題がありましたね。人物像にしても、観客の皆さんにはそれぞれのエポニーヌ像があると思います。私もいつか、こういうエポニーヌは唯月ふうかにしかできないと、名前があがったら嬉しいなって思っています」
やはり名作『屋根の上のヴァイオリン弾き』では、17・18年に三女チャバ、21年には役が変わり、次女ホーデルを演じている。
「市村正親さんの父テヴィエと鳳蘭さんの母ホーデルのもとに生まれた4姉妹の一人。私がキャストの皆さんに一番素を見せられた作品かもしれませんね。家族の物語ですし、長く出演していらっしゃるキャストが多いのも特長。その分、既に出来上がっている関係性があり、カンパニーの皆さんがすごく温かく迎え入れてくださるんです。市村さんの娘想いな部分と鳳さんのお茶目で懐の深い部分、それらが絶妙なバランスで、本当に家族みたいでした。また帰りたいなと思う場所です」

■重みを感じる10周年と更なる挑戦

『舞妓はレディ』(18年)ではついに大劇場での主演を果たす。
「大好きな博多座で約1カ月間、真ん中に立つことができました。お稽古では舞妓さんになるためのレッスン、京言葉や方言など、やるべきことがたくさんあり、濃い時間を過ごしましたね。榊原郁恵さんや平方元基さんなど先輩方についていきながら、主演としてしっかり立てるように努めました。『ピーターパン』で4年座長を務めた経験が活きたのか、堂々としていられたと思います」
黒澤明監督の名作映画をミュージカル化した『生きる』(18年・20年)では、小田切とよと渡辺一枝、日替わりでの二役に挑んだ。
「オリジナルの新作で、『デスノート〜』と同じく、何度も試行錯誤しながら作り上げていきました。幕が上がるまでは、どんなお客様に見ていただけるのか予想がつきませんでしたが、蓋を開けたら千秋楽に向けて立ち見席ができるぐらい好評で本当に嬉しかったです。主役・渡辺勘治役の市村正親さんと鹿賀丈史さんが本当に素晴らしく、思わず応援したくなるんですよね。鹿賀さんとガッツリお芝居で絡めたのは貴重な体験でした」
続く『天保十二年のシェイクスピア』(20年)でも二役、それも一公演で二役を演じ分けるスタイルだ。
「自分は演じ分けているつもりでも、同じように見えるんじゃないか?と本番が開くギリギリまで不安でした。お光は賭博師の役なので、昔の任侠映画をひたすら見て、しぐさや声、殺陣を研究しました。おかげですっかり江波杏子さんのファンになりました(笑)」
 
最近では『VIOLET』主演(20年)、『ハウ・トゥー・サクシード』(21年)、『四月は君の嘘』『スラムドッグ$ミリオネア』(22年)と着実に経験を重ね、ますます魅力を増している。こうして10年を振り返ってみての想いは?
「どれも良い作品に恵まれて、本当に私は幸せ者ですね。10周年とはすごく感慨深いですし、重みを感じます。いろんな作品で自分じゃない自分になる日々を過ごしてきて、あっという間でした」
 
そんな唯月が満を持して、初のソロコンサート「10th Anniversary Concert」を開催する。
「これまで出演したミュージカルの振り返りや、未参加のミュージカルの曲への挑戦。またミュージカル曲だけでなく、時代の歌も歌います。ミュージカルが好きな方だけでなく、音楽全般が好きな方にも楽しんでいただける構成です。皆さんの期待を裏切る、かなり意外な曲も。この10年で築き上げた唯月ふうかを様々な角度から見ていただきたいですね」
10周年はこれまでの集大成であり、未来へ向かう一歩目の始まり。真摯に歩む唯月のこれからを応援したい。

【リーズンルッカ’s EYE】唯月ふうかを深く知るためのQ&A

Q、仕事以外で楽しんでいる音楽はありますか。

家ではずっと音楽が流れていて、寝る直前まで聴いています。お風呂でも、移動中も音楽なしではいられないくらい。最近は韓国のStray Kidsさん。ヒョンジンのファンで、人生で初めての推しです(笑)。初めてファンクラブに入り、ライブにも行って。「ソリクン」からHIPHOPにも興味が湧いて、ちゃんみなさんも聴き始めました。ゴリゴリのラップって、リズム感がないとできないんですよ。リズム感を鍛えるためにはいいかも?と、R指定さんなど日本のラップも楽しんでいます。

<編集後記>

普段はニコニコと腰が低くて愛らしい唯月さん。「もっと、私女優よって偉そうにしてもよいのでは?」と言うと、「なれないですよ(笑)。でもそういう気持ちも必要かも。堂々といることで輝けますから」と、秘めた強さを感じさせる答えが返ってきました。そういえばStray Kidsの話で「スキズは自分たちで曲を作ってプロデュースできるのが強いですよね」と言ったら、「そうなんですよ(ドヤッ)!」と、一気にオタクの顔に(笑)。いろんなアンテナを張ることで、表現力にもますます磨きがかかることでしょう。いつか唯月のラップ、聴いてみたいな!

<マネージャー談>

唯月の担当になったのがちょうどコロナ禍の最中で、制限ある中で担当がスタートしました。
デビュー10周年を迎えられ、このタイミングで担当であるご縁に感謝です。
「デビュー10周年の区切りに何かしたい!」と彼女の一言から、今回のアニバーサリーコンサート開催に至りました。開催当日、お越しいただけるお客様の反応もですが、ステージに立つ唯月の姿がとても楽しみです。また新たな一面を見せてくれると思います。
そんな唯月がここ数年ハマっているのが、名古屋名物スイーツの「ぴよりん」。
唯月の『ぴよりん愛』にも是非ご注目下さい!!笑

<プロフィール>
唯月ふうか(ゆづき ふうか)
1996年9月8日生まれ、北海道出身。第37回(2012)ホリプロタレントスカウトキャラバン審査員特別賞を受賞。2013年、ミュージカル『ピーターパン』で、9代目のピーターパン役に抜擢されて以降、数々の舞台やミュージカルに出演。主な作品は、「アリス・イン・ワールド」、「デスノート The Musical」、「スウィニー・トッド」、「レ・ミゼラブル」、「屋根の上のヴァイオリン弾き」。11月には、ミュージカル「東京ラブストーリー」に赤名リカ役(海キャスト)で出演が控えている。
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唯月ふうか 10th Anniversary Concert

取材・文/三浦真紀
写真/MANAMI
 


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