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『すべてのあなたの記憶』

西日暮里の駅を降りて坂を上る。

普段だったら猫がたくさんいる階段を降りて、
商店街をすり抜けるように早歩き。

民家が連なる細い道をてくてくと歩く途中に、会場の「トタン」さんはあった。

人がいる気配がする明かりは、どうしてこんなにも温かく瞳に映るのか。
そんなことを考えながらガラガラと玄関を開けて、こんばんは、とあいさつをする。

12月の終わり、トナカイさんの詩の展示『すべてのあなたの記憶』を見に行ってきた。

会場内はストーブやら照明やらオレンジ色の明かりが点いている。
それだけでなく、空気感も温かい。


迷いながらもトナカイさんにあいさつをして、
二階へと登った。

展覧会場の「トタン」は一軒家の古民家。

玄関を開けるガラガラという音も
階段をのぼるトントントンという音も
すべて懐かしい記憶のどこかに響く。

友達や、自分の家。
小さい頃訪れた家々の記憶。

新作の詩のほか、
前回の展覧会『五月の虹』で飾られていた詩もあった。
わたしは二階の畳の真ん中に座りながら、ふう、と大きく息を吐いた。
何巡かして、(あ、わかった)と思った。

帰りがたくて、バニラのルイボスティーを淹れてもらった。
チャイは売り切れていた。

「トナカイさん。
『もらった愛を返せないと思うならあなたは大丈夫です』
のような詩があるじゃないですか。

あの意味、ようやくわかりました。もらった愛を愛だと認識できてるんだから、あなたは大丈夫なんですよ。そんな意味ですか?」

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もらった愛を返せない。

前の恋人に対してそう思って、苦しかった過去の自分のことを思い出した。
大きな大きな愛をもらって、でももう返せなかった。
でももう別れてしまったから何もできなくて、息ができないくらい苦しかった日々のこと。

返したかった。

何か、愛のような温かくて美しいものをなんでもいいから返したかった。
返したいのに返せなくて、何度もなんども泣いた。



わたしはきっと、急いでしまったんだと思う。
もっとゆっくり戀をすればよかった。


そんなことまで思い出して、
トナカイさんに聞いてもらった。



ありがとうございました。
この温かな冬の夜のひとときを、わたしは忘れません。

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